ネタ帳について書かれている作品。
非常に美しい言葉で彩られており、秋の香りが感じられるようだ。
春でもなく、冬でもない。勿論夏でもなく、秋。
秋は寂しい季節という認識はどこからやってきたのか、感じさせられる一作。
「秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。」
「夏ハ、シャンデリヤ。秋ハ、燈籠。」
「コスモス、無残。」
「捨テラレタ海。」
秋という季節を説明しろと言われた時、これ程までに秋を思い浮かべられるものは他にない。
どこか物悲しい、夏の喧騒から逃れた情景がありありと思い浮かぶ。
ネタ帳ひとつで、ここまで良い作品にしてしまえるものか。
太宰は紛れもなく天才である、この才能は羨ましい。
「秋の海水浴場に行ってみたことがありますか。なぎさに破れた絵日傘が打ち寄せられ、歓楽の跡、日の丸の提灯も捨てられ、かんざし、紙屑、レコオドの破片、牛乳の空瓶、海は薄赤く濁って、どたりどたりと浪打っていた。」
小説というよりは詩が詰まっているような感覚。
何の脈絡もない言葉が沢山登場するにも関わらず、それらには秋への哀愁や切なさが込もっている。
波の音を、どたりどたり と表現したのは恐らく太宰だけだろう。
「ごたごた一ぱい書かれてある。」
最後の終わりまでユーモアに満ちた作品。
太宰の心を感じた。