福島刑務所の面会室は、殺伐とした、異様な空気に満ちていた。係官を視線の端に捉えたまま、私は彼女を見据える。しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。分厚い硝子越しからでも分かるその頬は痩せこけ、黒いゴムで後ろに一つに結び付けた髪は艶もなく、所々が傷んでいる。目は、盛りを終えて晩年を迎えた猿のように垂れ下がり、目尻には無数の皺が寄っている。くたびれた藍色の作業着の上に、くたびれた首をのせた彼女の顔は見るに耐えず、節目がちに私は彼女の痩せぎすの上半身を見つめた。生気というものを感じられないその顔は、美人若妻などと持て囃されていた当時の面影は、もうどこにも無かった。
 私が彼女と出会ったのは今から十余年程前だ。彼女は、私が当時勤めていた出版社で事務員として働いていた。その頃の彼女は、まるでブラウン管から飛び出してきた一流女優のような非凡な輝きに満ちていたのを、今でもよく覚えている。
 私は心中、憐れんだ。『惨め』だな……。今の彼女を一言で表すとするなら、そんな言葉が的確かもしれない。
「あの子、元気にしてる?」
 私と彼女を唯一取り留めているその存在の名を、彼女は、口から魂でも抜けているかのような細々とした声で呟いた。
 前妻が刑務所に収容される以前――つまり八年以上前の私達は、どの家庭とも変わらない、極々ありふれた家族の内の一つだった。
 私の前妻――美佐子の仮出所の目途は立っておらず、今尚、こうして、社会から疎外されたこの場所で、毎日を何の生きがいも見い出せずに過ごしているのだろう。
 私は小さく肩をすくめ、それからかぶりを振った。
「君がいなくて寂しいみたいだ。毎晩のように泣いてるよ」
 彼女は嗚咽のような言葉を吐き出しながら、ジワリと瞳を潤ませた。
「私、なんであんなことしたんだろ……なんで……」
 そう言うと、彼女は真っ白な台の上にうずくまり、声を押し殺しながら泣いた。
 私は、彼女に何も言ってあげることが出来ず、ただただ、泣き崩れたままの彼女を、いつまでも差別的な感情と憐れみの瞳で見つめていたのだった。