翔太のブログ

翔太のブログ

過去の事や、日頃の出来事。
生きてる幸せをブログに………。

Amebaでブログを始めよう!
それは、ちょうど7年前。

確か、4月に入った頃だった。

遅咲きの桜の花びらを背に
車椅子の女性は俺に微笑み掛けた。

『あたし、頑張るから!』

俺が彼女を見たのは

それが最後だった。



彼女と最初に出会ったのは
ある交通事故の現場だった。

早朝、まだ日が登らない薄暗い中
その事故は起こった。

片側二車線の国道を直進していた車と
無理に右折して来た車との衝突。

無理に右折した車の運転手は
軽傷で済んだが
直進して来た車の運転手は
胸腹部圧迫状態で緊急搬送された。

緊急搬送された要救助者は
意識不明の状態が続く中
奇跡的に一命を取り留める。

その事故の救助に当ったのが俺。
そして
要救助者が彼女だった。


俺は彼女に見覚えがあった。

地元のトレーニングルーム。

長い髪をいつも後ろに束ね
ランニングマシーンで軽快に走る彼女は
とても目立っていた。


誰にでも、笑顔で挨拶をする。

明るくて気さく。

俺を含め誰もが抱いて居たであろう
彼女のイメージだ。



サイレンの音。


いつもなら、静まりかえっている
平日の早朝の田舎の総合病院。

この冷たく静かな空間の中で
彼女の人生は大きく変わる事になる。


数日後
ご両親が消防署に来られたと報告があった。


彼女の意識が戻った事。
車椅子の生活を余儀なくされる事。

『ご両親から、「感謝してる」と伝えて欲しいと言われたぞ』

俺は
ただ『報告』として受け止めた。



それから、翌年の秋。

消防局主催の市民講習会の会場で
俺は自分の親と同じ年頃の女性に
声を掛けられた。

『娘がお世話になりました。』

車椅子の女性を見て、俺は戸惑った。

………あの彼女?

正気の無い虚ろな目で
遠くを見つめている。

『……はぁ。仕事ですから。当然の事………』

話し途中で小さな声で
何かを呟いた。

『……………………………。』

『……ん⁉ お身体は………。』

『………なんで助けたのよ。』

小さく、そしてハッキリと。

ドラマのワンシーンの様に
時間が止まる。

『ちちょと、この娘。何言うのよ。すいませ………。』

『なんで助けたのよ。こんな惨めな………。』

母親は一言

『すいません。』

と言い残し車椅子を押して
会場を足早に去って行った。


時間が止まる。


どのぐらいの間
その場で立ち尽くしたのだろう。

行き違う人にぶつかられ
よろめく様に近くの椅子に
腰を掛けた。

………なんで助けたのよ。

………なんで助けたのよ。

………なんで助けたのよ。

彼女の言葉だけが、頭の中に響いていた。



数ヶ月後。

年が変わり春を迎える。

もどかしさ だけが残り
集中力を欠いた俺は
訓練中に怪我をした。

リハビリの為に向かった病院で
俺は彼女と再開する。


真っ直ぐにのびた廊下の先。

目が合う。

最初に目を背けたのは
俺の方だった。

彼女に対しての後ろめたさ。

そんな気持ちがあったのかも知れない。

会釈をして足早に去ろうとする俺の背中から
彼女の声が。

『手伝って貰えませんか?』

………俺に言ったのかな?

振り返らずに歩こうとする俺に
今度は大きな声で

『消防士さん。手伝って貰えませんか?』

『あぁ、はい。』

『中庭の自動販売機まで行きたいのですけど、まだ上手く渡れなくて。』

車椅子を押して中庭まで行く。

『腕を鍛えなきゃね。』

太陽の光がドアガラスに反射し

彼女の笑顔が映し出された。

その笑顔は
あのランニングマシーンで走る
彼女だった。


彼女は明るく
『車椅子生活』
の話をしてくれた。

何でも自分から話す彼女。

ただあの話だけはしなかった。


………講習会での事。


『そろそろ行かないと。』

そう言い残し
車椅子で去る彼女の後ろ姿を見送る。

少し離れた所で

車椅子を止めて彼女が振り返る。

中庭の一本の桜が風にあおられ
桃色の渦を巻く。

『あたし、頑張るから!』




新社会人が街に溢れる季節。

希望を持った若者が
夢を語り合うちょうどその頃


彼女は自分の手で


人生を諦めた。


………なぜ?

ただ、それだけ。

………それだけの事。


俺は、諦めない。

彼女の分も。