・・・

・・・

・・・

「だからぁ、志信さんの話は回りくどいんでふってばぁ。」

 あれから、何本目の十四代だろう・・・

 既に、智子は手酌状態。

「智子さん?飲みすぎでは?」

「大丈夫れふよぉ、いつもちぃさんにつきあってまふからぁ。」

 微妙に呂律がまわってない・・・

「ですからぁ・・・

 結局、レイちゃんがぁ、しのふさんと出会ったのが始まりなんでふよねぇ。

 あれぇ、ラインでも出会い?

 でふよねぇ。そうですよぉ。」

 ずいぶん陽気になってますことで・・・

「それから、JRAさんの情報をレイちゃんが持ってきたってことれふよねぇ。

 それを、志信さんが確認して、悪いことを阻止し始めて、なりゆきで正義の味方になったんれふよねぇ。

 でも、結局JRAさんのことはわかってないんれふかぁ?」

「わかってないというか、どうしたら良いかわからないというのが正直なところだな。」

「悪者さんなら、やっつけちゃえば良いじゃないれふかぁ。」

「まぁ、テレビのヒーローだったらそれで一件落着ってなるんだろうが、事はそれほど単純じゃない。

 まず、革命自体は悪じゃないしな。」

「えー、でも爆弾さんとか作ろうって時点で、悪者さんでふよぉ。」

「使い古された言葉だけど、一人殺せば犯罪者、百万人殺せば英雄ってな。

 結局革命が成功すれば、手段は全て正しくなっちまうもんだ。」

「成功するんでふかぁ?」

「いや、ほぼ無理。」

「じゃぁ、犯罪者さんで悪者さん決定れふよぉ。」

「だけどなぁ・・・

 革命しようって考え自体は悪い考えじゃない。

 どんなに方法が間違っていたってな。考え方に限ってだけどな。

 今の現状に不満があって、それを変えようとしている。

 その意志は素晴らしいことだよ。」

「でもぉ、間違った方法を使おうとしてまふよぉ。」

「だから、そこさえ変えてやれば良いだろ?

 間違ってるところだけ、潰していけば・・・」

「それで、正しい方法になるのを待つってことでふかぁ?」

「正しい方法がなんなのか、俺もわからん。」

「それじゃ、単に嫌がらせしてるだけでふよぉ。」

「そう、現時点では、嫌がらせ以外の方法が見つからない。

 まぁ、今後もなりゆきで対応していくしかないな。」

「それで良いんでふかぁ?正義の味方さんはぁ?」

 意外と正義の味方にこだわりやがる・・・

「正義の味方って言ってもなんでも出来るわけじゃないからなぁ。」

「でもぉ・・・

 あ、やまてんさーん。おかわりお願いしまふぅ!」

 何本目だ?

 いやぁ、ざるだね智子は・・・

「智子さん、大丈夫ですか、本当に?」

 つーか、無駄な質問なのだが・・・

「だいじょうぶれふよぉ。

 ちぃさんなんか、焼酎のボトル平気で三本空けちゃうんでふからぁ。」

 まぁ、酔っ払いに大丈夫って聞く方が間違っていたな。

 答えは大丈夫以外ないもんなぁ。

 しかし、またまたちぃさんの謎が増えてしまった。

 焼酎三本って・・・

「レイちゃーん、いまふかぁ?」

-何か質問でも?-

「あ、いまふねぇ。

 質問?あぁ、そうでふよぉ。

 どうやって生まれた?生まれたってのもへんでふかねぇ・・・

 どうやって、意識を持ったんえふかぁ?」

-それは前に志信とも話したんだけど・・・

 そう、哲学的な話だね。-

「哲学なんでふかぁ?」

 話がずいぶん飛躍したな。まぁ酔っ払いだしねぇ(笑)

「コギトエルゴスムだな。」

「あー、『我思う、故に我あり』でふねぇ、わざわざラテン語で言う事でふかぁ。

 デカルトさんでふねぇ。」

「なんで、智子は智子だ?って話だな。人間なんて水とタンパク質の塊なんだから、そこに自我がどうやって生まれてるか、というのとレイがどうして自我を持ったか、というのは同質の問題で答えが出るような問題じゃないってのが、その時の結論。」

「でもでもぉ、人間の自我は皆が持ってまふよねぇ?

 えっとぉ、そうそうどこかの准教授さんが言ってまひたよねぇ。

 そういうことは、再現性があるって。」

「実に面白い、のあの変態物理学者さんですかい・・・」

「でふからぁ、レイちゃんが自我を持った現象があるなら、そこには必ず理由があるはずでふよねぇ?」

「まぁ、推測なら・・・」

「どんな推測でふかぁ?検証できてないから話せないとか言わないでふよねぇ?」

「まぁ、検証できるような推測でもないし。

 人間の脳みその構造とネットの構造が類似したんじゃないかって話。」

「えっとぉ、脳細胞って千数百億個あるんでふよねぇ?」

「全世界のコンピュータの台数は十億台超えたそうだな。

 スマホは出荷台数で十五億台。」

「えっとぉ・・・」

「人間の主に使用されている脳細胞は十分の一。

 CPUの主流は64と32ビット。

 数値的には疑似的に人間の脳構造がネット上で構築されててもおかしくない。」

「そうなんでふかぁ?」

「だから、推論だって。」

「んー、なんか違う気が・・・

 いや、完全に違うってわけじゃなくて、ピースが一つ足らないって感じれふねぇ・・・」

「その根拠は?」

「勘れふよぉ。」

 勘・・・

「まぁ、推測でしかないし、検証もできない。」

「だからぁ、勘れふ・・・」

 おや、眠くなってきたようで。

 あんだけ飲めばねぇ。

「今日はお開きだな。タクシー呼ぶぞ、智子。」

「はぁい・・・」

 あー、説明が中途半端・・・

「まぁ、そういったドキュメントの作成が、日本じゃほとんどされていない現状があるってこと。」

「そうですかぁ?特許とか、結構うるさく言われてませんかぁ?」

「そういった話になれば、な。

 例えば、六時間の勤務時間で規定されている作業内容があって、早く終われば早く帰れるとしよう。他の人が早くても五時間かかる作業を三時間、半分の時間で終わらせられる方法を見つけたとしたら言うか?という質問をしたら、ほとんどの人は言わないと答えるだろうね。」

「そうですかぁ?みんなで幸せになったほうがよくないですかぁ?」

「半分の時間で今まで同等の仕事ができるのが、会社側にわかったらどうなる?

 普通は仕事量を倍に増やされるか、半分の報酬にされるぞ。」

「それはいやですよねぇ。」

「まぁ、それより自分の評価が下がるという理由がほとんどだよな。

 人が知らないノウハウは自分だけで使って、自分の評価を上げる、と。

 俗に言う『既得権益』を守るってやつだな。」

「既得権益って・・・ずいぶん話が大きくなってませんかぁ?」

「まぁ、ちょっとこの後の話に繋げるために、ちょっと飛躍したかもしれないな。」

「この後?」

 いやぁ、JRAの説明に繋げようとしたんだけど、ちょっと無理やりだったね(^^;

「もしかして、JRAさんですかぁ?

 革命家さん達の集まりとかでしたっけ?」

「えっとぉ、現状日本じゃほとんどの部分が既得権益によって動いているんだけど、それは一部の既得権益で利益を得る人によって成立させられてるわけで、それによって不利益を受けている人もいるわけだ。

 そういった人たちが考えるのが革命、って繋げるつもりだったんだけど・・・」

「あのぉ、既得権益云々って、ずいぶん一般的な意見とかけ離れていませんかぁ?」

「あぁ、下にテロップ入れといて。

『あくまで、個人的意見であって、一般の認識とは違う場合があります。』って。」

「どこにテロップ入れるってんですかぁ。

 まぁ、なんとなく言ってることの意味合いはわかりますけどぉ。

 そうすると、JRAさんはその既得権益で不利益を被ってる方々なんですねぇ。」

「いや、それは知らん。」

「あのぉ・・・。

話の流れとしたら、そうなるんですけどぉ。」

「だから、既得権益からの革命の流れは一般論。

 実際、村崎の奴が何を考えてるかなんてのは、知らない。」

「村崎さんって、あのマントの方ですよねぇ。

 えっとぉ・・・。

 一個質問ですけどぉ、なんで志信さんは、JRAさんのやってることを邪魔してるんですかぁ?」

 なかなか難しい質問だね、これは・・・。

「・・・なりゆき・・・かな・・・。」

「えっとぉ・・・

 確か、志信さん正義の味方さんでしたよねぇ?

 その正義の味方もなりゆきなんですかぁ?」

 あらら。ここでまた正義の味方ですかい(苦笑)

「正義の味方は、思わず口走っただけで・・・」

「でも、間違った事してるわけじゃないって思ってるんですよねぇ?」

「それは確かにそうだな。

 ざっくりJRAについて話すと、レイと知りあってしばらくして、レイがJRAの情報を持ってきた。

 最初は・・・あれ?爆弾の件だったよな、レイ?」

-そうだね。爆弾の密造しているという情報を僕から志信に教えたんだったんだね。-

「最初は、冗談かと思ったんだけど、スーツがそのちょっと後に届けられて、そのスーツの力を使えば相手に気づかれずに確認ができそうということで、とりあえず確認することにしたんだ。」

「それって、泥棒さんみたいなことをしたってことですかぁ。」

「まぁ、そこはちょっと目をつぶってくれ。

 結果、それは事実であって、爆弾は俺が処分して、作り方とかの部分はレイに後処理と監視をお願いしてるという状況だな。」

-彼らのコンピュータも基本的にネットに繋がってるからね。ネットに繋がってるコンピュータのデータを書き換えるのは僕にとっては容易い仕事だよ。今後、彼らの作る爆弾等は全部失敗作になるように、データの改ざんをしているよ。-

「はぁ・・・結構過激な方々だったんですねぇ。」

「まぁ、そっからJRAとの付き合いが始まって、今に至るというわけで・・・

 そんな、なりゆきだ。」

「そんな始まりだったんですかぁ。」

「まぁな。」

 ちょっと喉を潤して・・・あれ、酒が無い。

「やまてーん!おかわり。」

「あいよ。

 志信さん。十四代の限定あるけど、封切りいっとく?」

「なんだって?先に言ってよ。それでよろしく。」

「あいよ!」

「封切りですかぁ?」

「ん?知ってる?」

「それくらいは知ってますよぉ。でも、なんか違うんですかぁ?」

「香りがね、全然ちがうんだな。」

「あいよ、封切り。」

 山店がすぐに持ってきてくれた。

「香りかいでみる?」

 興味深そうに見ている智子に聞いてみる。

「いいんですかぁ?」

 といいつつ、お猪口はすでに智子の手の中。

「あ、すごく美味しいですねぇ、これ。」

 あれ、お猪口が空?

「飲む?」

「はい、いただきますぅ。」

 智子のお猪口に注いであげて。

「やまてーん!お猪口もう一個!」

「あー、疲れた・・・」

「しめさば、美味しいですねぇ。」

 幸せそうに、しめさばを食べる智子・・・

「って、違うだろ。」

「え?美味しくないんですかぁ?」

「じゃなくて・・・

 しめ方の話だ。」

「はい、アブラがのってるから軽くしめてるんですよねぇ。」

「そう、そこがさっきのノウハウの話に繋がるんだって。」

「それって、どっちかと言うと、職人さんの技術とかって話になりませんかぁ?」

「まぁ、それに近いんだけど・・・

前に、ここで山店以外のやつがしめたしめさばを食った時があったんだけど、なんか違ったんだよね。」

「志信さん、結構味にうるさい人なんですねぇ。」

「いや、そんなことはない。

 ほら、俺煙草吸うし・・・

 って、煙草吸って良い?」

「はい?もしかして遠慮してくれてたんですかぁ?」

「まぁ、ちょっとな・・・」

 さすがに、若い娘の前で食事時に煙草を吸うのは、ちょっと気が引けるわなぁ。

「良いですよぉ、でもあまり吸いすぎないようにしてくださいよぉ。」

「ありがとな。」

 やっと、煙草が吸える。

 俺はポケットから煙草を取り出し、一服。

 ちょっと落ち着いたところで。

「で、そこまで味に敏感じゃない俺が、なんか違うって感じるわけだ。」

「そんなに違ったんですかぁ。」

「いや、なんとなく違うって感じだな。

 普通に美味しかったしな。

 ただ、しめ方がなんか違う、山店以外がしめたんじゃないかって思ったってことだ。」

「そんなのわかるんですかぁ?」

「だから、なんとなくだって。

 そのあたりが、ノウハウと繋がる。」

「ノウハウというより、職人さんの腕ですよねぇ。」

「まぁ、例がこれだから、腕という言葉にもなるけど・・・

 そうだな、さばのアブラののり具合、気温、湿度から酢の調合割合、しめる時間を規定してみたらどうだ?」

「ある程度、決まった味になるってことですか?」

「決まった味、というか美味しいと評価される味が目的だな。

 レイ、回帰分析でもしたら面白いか?」

-そうだね。不可能ではないね。でも意味があるとは思えないけどね。-

「まぁ、確かにな。」

「意味が無いんですかぁ?

 かいきぶんせき?ってのはできるんですよねぇ?

 分析できれば、結果は出るんじゃないですかぁ?」

「話が散らかった。

 話を戻そう。

 回帰分析の話は、冗談で聞き流してくれ。詳しく話をすると今晩じゃ終わらない・・・

 ただ、ここで言いたかったのは、データに落とし込める、ってこと。

 例えば、今日は暑いからしめる時間を多くするとか少なくするとかってのもデータのうちだね。

 そういったものをドキュメントにしておくのが、仕事の定義であって、誰もがそのドキュメントを見て、同じ仕事ができるようにというのが目的なんだが・・・

 例が悪すぎたな。職人仕事は、経験というファクターが割と重要みたいだしなぁ・・・」

「別に悪い例じゃないんじゃないですかぁ?

 しめさば美味しいですし。」

 そっちかい・・・

「まぁ、山店のしめさば美味いよね。」

「はい。」

 幸せそうに、しめさばを口にされたら、それはそれで良いのかもしれんが・・・