私は「導かれる」という感覚を日々とても大切にしたいと思っています。

 

今回の出逢いも、『人生でほんとうにたいせつなこと』の取材中、

ある尊敬する方から、

「がんの本を書いているんだったら、絶対に逢ったほうがいい人がいる。

 私の学生時代の友人なんだけど、紹介するから高崎まで行ってきたら」

とおっしゃっていただいたのがきっかけでした。

 

その方、久保谷美幸さんに紹介されたのが、

群馬大学病院なごみサロン代表を務める、原陽子さん。

 

でも、そうアドバイスを受けた日、陽子さんのブログを拝見して、

正直なところ、お目にかかってよいのか躊躇しました。

 

「2010年に耳下腺癌という10万人に一人発症する希少な癌になりました。 発症した時は,既にステージ4、リンパ節転移し、顔面神経ごと腫瘍を切除して、 笑顔というフォルムを喪失しました。 その後、抗がん剤治療と放射線治療を併用しています。 五年目に局所に再発、再再発し肺にも転移。今年、三月には脳に再発しながらも生きています。 再発、再再発時は、重粒子治療を頭軽部で始めて二度行うなど。 自分でしか体験出来なかった闘病を通じて、感じたこと学んだこと、在り方などを綴っていきたいと思います。」

 

と、トップページに自己紹介として書かれていたからです。

http://blog.livedoor.jp/minatonoyoko201711/archives/7449891.html

 

ただ薦めてもらったから会いにいく、

がんに関連する本を書いているからお話を伺わせていただきたい、

そんなことでお時間をいただくのは、なんだかとても失礼なことのように思ったのです。

 

またブログには、ご自身のお写真がいつも添えられていました。

なんて美しい方、というのがまず第一印象。そして、大きなマスク。

「笑顔というフォルムを喪失しました」という一文が強く印象に残りました。

 

ただ、数日かけてブログを過去に遡って読ませていただく中で、

赤裸々な心情を綴る圧倒的な筆力に、”がん体験者”としてというより、

”書き手”としての陽子さんに魅了されていく自分がいました。

 

そして、

「今をひたすら生きていればきっとそれで十分。

答えはどちらに転んでも必要な流れに行き着く。そう思っています」

との一文に触れたとき

やっぱり「お目にかかってみたい」との気持ちになり、

いつしか、こうしてご紹介いただいたのはなにかご縁あってのこと

と勝手に解釈するようになっていました。(笑)

 

 

結局、厚かましくもお時間をいただくことになったのですが

なぜか互いのタイミングが合わないことが続いて

実際にお目にかかることができたのは、それから随分経ってのこと。

『人生でほんとうに大切なこと』が世にでてから4ヶ月も過ぎた、

つい先日のことでした。

 

しかもその日は、陽子さんが何度目かの入院でサイバーナイフの治療を終え

退院された翌日。

数日前に「これから入院するけど、ちゃんとお約束の日にはお目にかかりますから

気をつかわないでくださいね」とのメッセージをいただき、

「お身体は本当に大丈夫なんだろうか・・・」

「お逢いしたいと言ったものの、いったい何を話せばよいのか・・・」

との思いを抱えたまま鎌倉から高崎へ。

 

 

でも、約束していた駅前のレストランでお目にかかるなり、

「あら〜。麻由美さん、はじめまして!!

これ、近所で一番美味しいロールケーキなの。どうぞ。

ちょっと遅くなっちゃた。ごめんなさいね!」

との第一声。そして、まるで旧知の友を迎えるようにハグしてくださったのです。

 

ブログを読み込んでいた私には、その明るさは正直なところ意外なものでした。

いや、衝撃的だったと言った方が正しいかもしれません。

車中で抱えていた私の懸念は一瞬で吹っ飛びました。

 

失礼を百も承知で言えば、陽子さんは私と同じ普通のおばちゃんでした。

実によくしゃべり、よく笑う。

 

笑顔というフォルムを、口角があがる、あがらないといったモノサシでみると、

いわゆる笑顔という形とは少し違うかもしれないのですが、目の前にいる

陽子さんは確かにずっと笑顔でした。

 

ジャーナリストの専門学校に通い、学生時代には同人誌を発行されていた

ことを伺い、文章がお上手であることにまず納得。

そして、卒業後は主に福祉の世界でお仕事をされてきたことなどを

話してくださいました。

 

耳下腺がんという希少性がんになり、治療のために全ての歯を抜歯。

転移、治療を重ねる日々の中で感じたこと、得たことは、

やっと、本当の意味で、人に援助されるとはどういうことなのか

理解できたことだそうです。

 

そして現在も陽子さんは認定介護福祉士として仕事をされ、

ピアサポーターとして場も開き、

また、福祉カレッジで非常勤講師として授業をもたれています。

 

ご自身の経験を混じえて話す陽子さんの講座は

受講生らも真剣に話を聴いてくださり、毎回、熱い授業になるとのこと。

 

「医療、福祉援助者として大事なんだと感じたのは、例えば、

夜中に患者さんがベットで泣いていたとしますよね。

何も言わずとも、背中をさすってあげることが自然とできることなんだな、って。

その涙の意味や気持ちを想像したり、立ち止まってその場で何ができるか、

って考えること。
私自身もそんな医療従事者たちに助けられてきましたから。

人を見るのではなくて、人を観ることが大事だと思うんです。

ちょっとした気づきと行動力の違いが、看護や介護、医療福祉従事者

としての技量の差につながるんですよね。

ねっ、そういうこと、私が話すと説得力がますでしょ(笑)」と。

 

他者のことを自分のことに置き換える感性や想像力。

一歩前に踏み込める気づきを持った援助の大切を

伝えておられるのだそうです。

 

 

 

陽子さんが向き合ってきた絶望や悲しみは、どれほど想像しても、

私にはわかりようもありません。

 

ただ、陽子さんは、一瞬で人を虜にする太陽のようなあたたかさと、

細やかな配慮に溢れた人でした。

よくしゃべってくださったのも、私に気を遣わせないためだったのでしょう。

 

陽子さんのあたたかさは、おそらく、不条理を受け入れ、

絶望の闇の深さを知っている人だけに宿る強さ、優しさそのものでした。

 

限りあると自覚した時間を濃密に生きる人ならではの熱量。

凛とした美しさ。

 

今回、久保谷さんが導いてくださったご縁の先にあったものを、

私はまだうまく表現できずにいます。

 

でも、

陽子さんが私をあたためてくださったものは、ずっと冷めることなく

こころの深いところに宿り続け、人生のエネルギーとなる気がしています。

 

この人に出逢えて良かったという喜びこそ、生きる喜び。

ご恩返しは、そのエネルギーを次に回すことかな・・・。

 

 

『人生でほんとうに大切なこと がん専門の精神科医と患者たちの対話』(amazon)