$一凛堂・稲垣麻由美のブログ
この頃、この宝物を紐解くことが多くなった。

ライターとして駆け出しの頃、先輩に教えられ手にした「銀花」。
あまりに美しい言葉と表現の宝庫で、驚き、感動し、夢中で古本屋を廻り、一気に50冊近くを集めたのはもう20年近く前のこと。

あの頃にはアマゾンなんてものはなく、古本屋さんだけが頼りだった。
それからも発行される度に買い、古いものも少しずつ買い足し、今も私の本棚には100冊近い銀花が並んでいる。

この季刊誌「銀花」(文化出版局)は1970年に創刊。40年も続いたが2010年の第161号で休刊となった。

日本を代表するグラフィックデザイナー・杉浦康平氏が全161冊を装丁し、
写真家の小林庸浩氏が深く味わいある美しい写真を担当している。


杉浦氏の代表作とも言える「銀花」の表紙について、「静止した無表情な瞬間
ではなく、動的な揺らめく時空を生き生きとした表情を生みつづけること、こ
れが『銀花』の表紙の主題であった」と、後に杉浦氏自身が述懐している。

確かに、虫眼鏡が必要なほど小さな文字が絵柄のごとくデザインされていたり、
文字が斜めに入っていたり。まさに曼荼羅のような世界観。これほど表情豊かで、
手の込んだ表紙、雑誌には今も出逢ったことがない。


私はこの「銀花」を通して、志村ふくみを知り、黒田辰秋を知り、富本憲吉を知り、
柳宋理を知り、須田剋太を知り、無名の人々が紡ぐ美しい手仕事の世界を知った。

私は心に留まる、余韻ある表現を見つける度に写経した。$一凛堂・稲垣麻由美のブログ

例えば、

「志村ふくみさんが目指したのは、画家が画布に向うように、音楽家が楽器を抱くように、そして詩人がペンを取るように、経糸と横糸を交差させて描く、布としての表現だった。
求めるべきは、『生き生きとした糸、張りのある底光りのする凛とした糸の表現』ではないか・・・。人間としてのありようにも通じる、大きな指標を手に入れたのだった。」
というように。

日々の暮らしを丁寧に、手を動かし、ひたすらに生きることを描く銀花の世界は、
今、携わっているビジネス書の世界とはどこか対極にある。