雨上がりの路上で

歩道に降り立つと

雨上がりの夜風は

くるりと僕の顔に
巻きついて離れて

水溜まりを揺らす


水溜まりは夜風を

吸い込んで震えて

街灯の真珠の光を
ミルクに溶かして

僕の影を笑わせる

理由なんてないさ

何のために？
誰のために？

本当のものは

何かのために
誰かのために

あるわけじゃない

空だって

海だって

星だって

みんなそうじゃん


君のその命だって

本当に大切なものだとしたら

意味なんて無いんだ


そこに君が存在していること

それだけでいいんだよ

きっと、たぶん、間違いなく

友人として

特に被写体自体が意思を持っている場合、
感性や、技術の上に、カメラマン自身の人間的な魅力が必要だと思う。

それを持っているカメラマンを一流カメラマンと言うんだ、たぶん。

6月のある午後、世界はひとりの一流カメラマンを失った。

そして、僕は大切な友人を失ってしまった。



あなたは、ちょうど一年前に、我が家に子猫を連れてきた。
あなたは、撮影取材先で出会った４つの小さな命を見殺しにできなかった。

そういう人だった。

「どうしても、殺されちゃうのは嫌でさ。ホントにありがとね」

こぼれそうな笑顔で、
片手に乗ってしまうほどの小さなひとつの命を僕に託して、あなたはそう言ったんだ。



爆音の中で、Ｆ1ドライバーの孤独を切り取り、

極寒の山で、スキーヤーの躍動を切り取り、

豊饒の河で、カヌーイストと愛犬の蜜月を切り取り、

56歳の若さで還らぬ人となった渡辺正和さん。

みんな、あなたの前だから、素敵な顔でいられたんだ。


これから、あなたに託された小さな命とともに、
僕はまだしばらく生きていくよ。

ご冥福をお祈りいたします。