この写楽展http://sharaku2011.jp/index.html は、はりきって前売り券を買いに行くと、震災の影響で開催できるか不明のため「チケットは売れない」と、ぴあの人に言われてしまった美術展だ。
(3月30日の記事:美術展も間接震災~フランスの対応について追記あり~ )
フランスもロシアも美術品の貸出しについて停電による空調などの環境悪化や、美術品に付き添って来日する学芸員(クーリエ)の放射能被害?を恐れて政府が日本への貸し出し中止通達を出したりもした。
それで中止になったり展示内容を大きく変更した美術展もいくつかあったが、写楽展がこうして無事開催されたのは写楽を愛する海外の方々の努力も大きかった。
「東日本大震災直後の日本に、貴重な作品を託すことには仏国内で慎重論もあったが、「日本の伝統美術で日本人を励ましたい」という願いがかなった。」と言うのは、本展覧会でも大首絵をたくさん提供していたパリのギメ東洋美術館の学芸員の方だ。http://www.tokyo-np.co.jp/sharaku/txt/110418.html より
この時期に本当によくこれだけのものが揃ったと、そのことにも感動した。
土曜日夕方の上野公園入り口あたりは、やはりものすごい混雑だった。
JR上の公園口に向かい合っている東京文化会館の楽屋口も、英国バーミンガム・ロイヤルバレエ団の出待ちをする人々であふれかえっていたし、きっとパンダ見物帰りの方たちも。
そんな中、博物館を目指してぐんぐん進んで行くが、道いっぱいに広がって歩く人々は95%駅へ向かっている。
一人逆行している感じ。(笑)
上野公園の一番奥のエリア、東京国立博物館に来るのはカルティエ展と阿修羅展をハシゴして以来だ。
因みにこの2つの展示は秀逸だった。
東京国立博物館入り口のチケット売り場には、誰も並んでいない。よしよし・・・。
上野の東京国立博物館 平成館に入ったのは多分初めて。
上野の博物館や美術館はここ以外は何度もお邪魔しているのだが、他と比べて名前の通り異質の新しさ。
1Fのエントランス中央のチケットテイクから2F展示室に続くエスカレーター(動いていた 笑)を上がるとその途中天上のシャンデリアが近くに見える。
サントリーホールのエントランスのシャンデリアにとてもよく似ている。きっと同じく照明デザイナー石井幹子(いしいもとこ)さんのデザインなのだろう。と思ってWikiとか見たが、平成館のライトアップを手掛けていらっしゃることしか記されておらず、色々調べたが不明。ま、いいか。。。
2Fに上がると左手のエリアが第一会場。そこをグル~っと回ると、ノヴェルティ売り場に出てきて今度は、反対側のエリアである第二会場だ。
いつも、HPで混雑状況をチェックしていたのだが、混んでいるのはいつも第一会場のみ。
でも、私が一番見たかった写楽第一期の大首絵全28点が並べてあるのは第二会場。
もうすぐ17時になろうかと言う時間帯のせいか、第一会場も殆ど混雑していなかった。
因みに、17:40くらいからは第1会場では独占状態で思いっきり鑑賞できた。
で、期待していなかった第一会場も充実の展示。特に、最後のエリアの写楽の大首絵の「刷り」による違いをクローズアップした展示が素晴らしかった。
昔からことあるごとに写楽の大首絵を観に出かけていたが、「刷り」のいいモノかつ保存状態のいいモノは少ないのだ。
特に、写楽の第1期の特徴である黒雲母摺り(くろきらずり)がきれいな作品が多かったのがうれしかった。
ここで改めて、本来の印刷状態と状態の悪いモノ(「刷り」が悪かったり、顔料が褪色しやすい植物性であったり保存状態が悪かったり)の比較ができたのは写楽ファンとしては非常にウレシイ企画なのだ。
「刷り」を重ねた後のものだと、眉頭まで家の流れが微妙に彫り込んであるのにベタっとつぶれていたり、顔にかかるやつれ髪も本数が減って見えたりする。
保存状態のせいか「刷り」のせいかわからなかったが、「初代尾上松助の松下造酒屋之進」など落ちくぼんだ目や無精ひげがうす~いグレーで刷られているのだが、状態が悪い方ではそのグレーが薄いのでやつれ感も薄まっている。(笑)やはり、状態のよさと言うのはものすごく大事だと当たり前のことをつくづく実感。
「三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵女房おしづ」は、ギメ東洋美術館、東京国立博物館、雇人と3枚の展示があったが一番状態がよかったのが個人蔵のものだった。その状態がよいものを観て気付いたのだが、べっこうの櫛から髷の形が透けて見えるのだ。「刷り」と保存状態とがよくなければわからないことである。もっともべっこうの櫛から髷が透けて見える作品は他にもたくさんあるのだが、状態による違いが確かめられたことがたいへん興味深かった。
第2期~第4期も写楽を操っていた稀代のプロデューサー蔦重(つたじゅう)こと蔦谷重三郎からの指示がありそのテーマに沿って製作されたのが明白だし、その構図なども同じ役者の同じポーズでも、写楽と歌川豊国、そして勝川春英のモノが比較してあったりするのを見ると、絵の躍動感や迫力が全く違うのが引き立つ。
図録(2500円)も大充実で、買って損は無い代物で大満足だが、やはり実物をしっかり記憶した後ではその再現性の限界を思い知ることになる。(笑)
この浮世絵師による同じ役者の描き方の違いを比較するコーナーも大変興味深かった。
ブロマイド替わりだけあってそれぞれを見較べてもきっとこんな顔の役者だったのだろうと素直に思えるものなのだが、写楽が描きたかったと思われる役者の内面をも表している微妙な表情やデフォルメされたと思われるパーツ類はやはり観ていてドキドキするほど楽しいのだ。
ロートレックの描く人物像もやはりその内面までもえぐり出しているかのようだが、思えばかれも浮世絵に影響されたんだったな・・・など、色々と思いを馳せることができ本当に楽しく充実した展覧会であった。
特別展「写楽」
会場 | 東京国立博物館 平成館 〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9 |
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会 期 : 2011年5月1日(日)~6月12日(日)
休館日 : 5月16日(月)、23日(月)
開館時間 : 午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
※土・日曜日、祝日は午後6時まで開館。
※金曜日の夜間開館は行ないません。
※お買い求め済みの前売券などにつきましては、新しい会期中そのままお使いいただけます。