nanakoのブログ

今月末日で終わるドガ展に出かけた。

クリスマスの午前中なら空いているであろうとの目論見である。(笑)

本当は開館と同時に入場したかったのだが、出遅れてしまった。

が、なんとか午前中だったので混雑していたものの先日行ったゴッホ展(金曜夜)よりはずっとマシだった。


因みに、資料室も含め数時間を過ごした後入り口付近を見ると、私の到着時は誰も並んでいなかったチケット売り場もぐるぐる行列していて、展示場もかなり混雑していたし、トイレも外まで続く大行列だったので、午後はすごい混雑らしい。


ドガ展は日本では21年ぶりとのことだが、1988年に新宿の伊勢丹美術館で見たのをよ~く覚えていた。どうもその時の一連の展示が1989年に終了している関係で21年ぶりらしい。


私とドガ(ホンモノ)の出会いは、高校生になったばかりの頃でひろしま美術館でのことだった。

今回のドガ展にも貸し出されていた「馬上の散策」(油彩)と「右手で右足をつかむ踊り子」(ブロンズ)だった。

ドガといえば、パステル画の踊り子というイメージが強烈だが、そんな出会いもあって私の中では、ドガと言う人は鍛え抜かれた筋肉をもつ動体(バレリーナや競走馬)の一瞬の動きが好きな人と言うイメージだったのだ。


そして、1990年初めに初めてオルセー美術館を訪れた際に、今回の目玉「エトワール」などを見た。

外光を上手に採り入れた明るい展示室のモネやゴッホを見てそのまま進んで行くと、奥の横の方の薄暗い部屋がドガの展示室だった。パステル画の保存のため極度に薄暗い照明となっていたことの方が印象に残っている。当時はそんなに個人的に興味のある画家ではなかったし、オルセーの綺羅星の如く立ち並ぶ名作でお腹いっぱい(笑)になった後だったしで、パステルだけで上手に書いてるな~という、非常に幼稚な感想しかもたなかった。


今回は自分の知識も、美術品鑑賞に対しての強欲さも増していたため、その時とは全く違った視点で「エトワール」の素晴らしさを堪能できた。

かつての私は無知なことに当時のパリのバレリーナは、生活のためにパトロンに欲望の対象として見られ選ばれる立場であったことなども思いもよらなかった。しかし、よく見るとドガはちゃんと、そのパトロンらしき男性も描いていたのだ。

ドガのいう通り(後述)、「我々は自分が見たいように見る」ということなのだ。(笑)


今回は、展示構成がとても素晴らしくそのお陰でドガが踊り子や馬だけに興味を持っていたわけではなく、その恵まれた出自によってこそ可能であった、独自のスタイルを探求し進化し続けることが出来たことも無理なく理解できた。

ドガの父親は、銀行家であったがドガが好きな道を歩むことをいつも応援し、音楽家を邸宅に招いてその演奏を楽しむような文化人でもあった。


そしてドガ自身も、その裕福な階級の人間にしか垣間見ることが出来ないビジネスの現場や社交場であった競馬場、オペラ座のバルコニー席からの視点でのバレエ鑑賞などをその作品の題材にした。


今回は、ドガが若い頃に描いた肖像画も何点か見たのだが、いわゆる肖像画でありつつもその構図や、表情がまるで人が思わずその本心を表に出してしまった瞬間をカメラに収めたかのようなものもある。

「我々は自分が見たいように見る。デッサンとは、描き手が見るもののことではない。他者に見えるようにすべきもののことである。」というドガの言葉を裏付けるかのようなデッサンも展示されておりそう言った意味でも、展示構成が素晴らしいと感じた。

展示構成がすばらしいということは、学芸員さんの努力によるところが大きいのは当然だろう。ただ、展示の構成は素晴らしかったが残念なことに、展示の照明にもう少し工夫がほしかった。一昔前の展示会のように照明が作品のはめ込みガラスに映り込んでしまう画が多かったのだ。最近の都内で行われる美術展では、照明に関してはほとんどストレスを感じなくてすんでいたが、今回、この点だけは残念であった。

話がそれるが、サントリー美術館の照明はどのような展示物であってもエクセレントだ。



終盤では、浮世絵の題材になっているような女性の何気ない水浴びや髪をとかす仕草を盗み見たような作品も多く紹介されていた。浮世絵のように市井の女性達の日常生活の中の美が主題になっている。

印象派にくくられる画家たちは少なからず浮世絵等の日本美術の影響を受けていると言われているし、私も素直にそう思うがドガのそれは、他の画家とはその取り入れ方が違うと感じた。

マネが多用した黒は、墨絵のような即興的(に見える)で大胆な筆遣いを感じさせるし、ゴッホは笑ってしまうくらい真摯に油彩で歌舞伎版画を模写しているし、自身のオリジナル作品にも露骨にその要素を取り入れている。浮世絵のような鮮やかではっきりとした色彩は、輪郭をも美しい色彩の対比としてゴッホの絵に使われていた。


それらに比べて、ドガはもっと内面的、哲学的な部分で浮世絵などを上手く取り入れた画家であったのだと、今回の展示を見て勝手ながら確信した。


展示の終盤に多くみられた無防備な姿の女性達の絵はいずれも、けっして美しくもなく、エロティシズムを感じるわけでもなくすごく不思議な存在感があるのだ。そこから感じるのは、ドガが興味を持ち描きたかったものは何なのか?ということであり、それを考えさせられるような展示であった。


そして、最後の展示室は主にブロンズ作品。

私は勝手に、ドガは馬や踊り子の動きや筋肉に興味があって、晩年衰えた視力に頼らなくても製作できる彫塑を選んだのだろうと思っていた。

が、それは、あらゆる角度から一つの対象を描くためにモデル代わりに作ったものであり、つまりスケッチのようなものでしかないと本人が語っていたことを今回初めて知った。

それを証明するように、殆どの作品は保存性の極めて低い粘土やろう(ワックス)で作られていたそうだ。

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↑ 唯一生前に発表されたという彫刻は、「14歳の小さな踊り子」だ。

今回の展示はE.G.ビューレー・コレクション(スイス)のものだ。

NHKの「日曜美術館」では、ワシントン・ナショナルギャラリーのものを紹介していた。

ドガのブロンズ作品やその製作工程について色々知りたくなり美術館の中にある資料室で、彫塑について一通り資料をあたった。そこでイギリス人アーティストが引用していたこの作品はテートギャラリーのものだった。(http://tate.org.uk/servlet/ViewWork?workid=3705&searchid=26825


更に、以前に来日した時はブラジルの美術館からの貸出しであった。一体どれだけの作品が???と思い調べたら1920年ごろにドガの遺族が約30体のブロンズを作成したと、上記テイトギャラリーの解説にあった。

調べていると、オルセーにもあるらしいのだが、あれだけオルセーに通い詰めていたのに全く記憶に残っていないのだ。(苦笑)ブロンズと言えばロダンとかそういうのばっかりに気を取られていたんだろうな・・・。


ってことで、ドガ展を見て解説をじっくり読んで、資料室で色々調べて、帰宅してWebで海外の情報を調べてと、ドガ一色のクリスマスであった。(笑)

http://www.degas2010.com/


会期:平成22年9月18日(土)~12月31日(金)
休館日:毎週木曜日
(ただし、9月23日(木)、12月23日(木)12月30日(木)は開館)
会場:横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3-4-1)
開館時間:午前10時~午後6時
*毎週金曜日は午後8時まで開館、入館は閉館の30分前まで