プロローグ-PROLOGUE-
岸井ミカの住む街、雛代。すべてはそこで始まった。事件が事件を呼び、そして繰り返されていく。現実から目をそらそうとする人々の意思は、しだいに街を飲み込み、無機質な世界を形成していく
---『ムーンライトシンドローム完全ガイドブック』より引用---
●ストーリー
雛代高校の旧校舎が解体され、新校舎に立て替えられた。合コン帰りの自宅への遊歩道で、岸井ミカは自分の後を付けてくるような足音を聞く。しかし、振り返ると誰も居なかった。気を取り直して正面に向き直ると、サラリーマン風の中年の男が立っていた。様子を見ていると、男は宗教の勧誘をしてきた。「いい加減、現実見ろよ」と言い立ち去ろうとするミカに、男は「現実の話をしてるんですよ」と意味深な言葉を残して消えた。その後、子供の笑い声が耳にまとわりつき、ミカは逃げるように自宅の方へ走る。ミカの住む高級マンション、通称『ピラミッド御殿』のエントランスに着いたとき、自分を呼ぶ声がした。声のした方へ向かうと、ホラー小説家のアラマタが立っていた。アラマタは「新興住宅地と文化遺産」というテーマのルポを仕上げる為に、ミカの住む雛代を研究しているという。「人の知らないところで意思は生まれ、人に跳ね返ってくる。雛代高校で起きた摩訶不思議な出来事。推測では雛代高校に特別な意味性があるのではないかと」「どうして気付かなかったんだろう。普通じゃないよね」「どんなに奇怪であろうと日常の姿であると意識が勝手に判断する。自分たちの生活を守る手段として防衛本当が働くのです」
アラマタの長話がようやく終わり、帰宅したミカだったが、疲れて夕飯も食べられず、音楽を聴きながらベッドに横になっていた。しばらくして、PHSの着信音が鳴った。彼氏の冬葉スミオからの久しぶりの呼び出しだった。母親に気付かれないように家を出たミカは、待ち合わせ場所に行く途中の土手で、黒ずくめの男・華山リョウとすれ違う。「なにこいつ…気持ち悪い」「キョウコ?まさかな……」
その後、ミカは無事にスミオと合流するが、スミオの様子はどこか奇妙だった。
翌日、学校では昨晩起きた麗月峠でのトラック衝突事故の噂でもちきりだった。亡くなった華山キョウコは以前、ミカと顔がそっくりだと話題になった先輩だった。クラスメイトの桂木ミホは、いまいち噂話に飛びつかないミカが気に食わない。「ミカらしくないね?噂の発信源が何言ってんの?デマばっか流して、人弄んでんだろ!」ミカとミホは喧嘩になりかけたが、ミカの親友、相原カヅキが止めに入り、ミホは教室を出て行った。「この時期、みんな不安なんだよ。敏感になってる」「わかってる。最近変だもん、この街……」ミカはカヅキとの話の流れで、亡くなった華山キョウコが冬葉スミオの彼女だった事を知り、ひどく落ち込む。彼氏だと思っていた男が自分と顔がそっくりの別の女性と付き合っていた……。放課後になっても暗い表情のままのミカを元気づけようと、クラブイベントに誘うカヅキ。「昨日、自殺があってね、それのイベントやるのよ」普段のミカだったら飛びつきそうなイベントだったが、先輩のチサトに怒られそうなのと、やはりスミオの事でのショックで人間不信気味になったミカはカヅキの誘いを断る。「いろんな事が起きてパニクってるのよ」「ミカ、あんたは無作為に人と関わり過ぎなんだよ」
夜になり、帰宅途中のミカは思う。「人って何考えてるんだろう。疲れるよ、人間関係って。先輩達も受験で相手してくれないし。人と関わるのって勇気がいるもんな。昨日の帰り道の、あんな宗教の勧誘でも、人の優しさ感じちゃうよ」
マンションに着いたミカは、たまたま通りすがった同じマンションの住人に挨拶するが無視されてしまう。家の玄関のドアを開けようとした時、家のカギが無い事に気付く。カバンやポケットの中を探っていると、白髪の少年が現れ、「落とし物だよ」と家のカギを届けてくれた。「こんな時間に子供?」
夕飯を食べ終え、ミカは両親とリビングでテレビを見ていた。その時、ミカは改めてニュースで麗月峠でのトラック衝突事故の事を知るのだった。
●わかること
・ミカはカヅキ主催のコンパ帰り
・宗教の勧誘をしてきたおじさんに現実を見ろというミカに「だから、現実の話をしてあげてるんですよ」
・「A JULIETTA GAMES」は、レーベル的な意味かな?
・ミカがアラマタに言った「開店休業中なんですけど」はアタマタとの援助交際について?
・アラマタは作家だけでは生活できないのでルポ等もこなしており、現在は「新興都市の文化遺産」の研究をしているため、雛代の街にスポットを当てて特集しようとしている。
・アラマタは雛代で起きた超常的な現象は、雛代高校に特別な意味性があるのではと研究中
・セーブポイントになったアラマタ。記録は「アラマタ・カスタム手帳」へ。
・アラマタの別れの挨拶は「あら・また」
・ミカの家は一軒家がピラミッドのように積み重なったような巨大な高級マンション
・スミオからのミカへの連絡は久しぶり。いつもの場所は河原の先の公園
・ミカの親はミカが夜中に出かけるのを許していない
・深夜の河原の道で、ミカとリョウがすれ違う。時間的に、リョウがスミオと別れた後にロスト・ハイウェイに向かっている時?
・公園で会ったスミオは何も喋らない。目も白目っぽいし、ノイズが鳴っている。
・カヅキ達のウワサでは昨日起きた事故で、ミカにそっくりの卒業生のキョウコさんがトラックに激突して死んだらしい
・ミホのミカへの態度が否定的。ミカについて「噂の発信源」「ユカリに相手されていないから弱気になってる」「デマばっか流して人弄んでんだろ」
・基本的にクラスでは、ミカ&カヅキ、ミホ&ミキの四人グループ
・ユカリ達に影響を受けたミカは、以前のようにカヅキ達のように素で女子高生を演じる事ができなくなっている
・ミカ達世代は不安を抱えており、物事に敏感になっている
・ミカはカヅキ達と距離が出来きはじめているが、ユカリ達とも疎遠になっている
・受験生になったユカリ達にミカは気を使ってあまり会おうとしてないようだ
・ミカはこの時初め亡くなった自分の顔とソックリなキョウコがスミオと付き合っていた事を知る
・ルミは学校を休みがちだが、クラスメイトのミカやカヅキとは親交がある
・ミカは窓の外をぼんやり見るほど、スミオがキョウコと付き合っていた事にショックを受けている
・以前のミカなら飛びつきそうな「自殺があったクラブでのイベント」だが、チサトに怒られるのではと躊躇している
・人間不信気味になっているミカは、偶然会った同じマンションの住人に挨拶するが、無視されてしまう
・ミカの元へ、白髪の少年が「おとしものだよ」といってカギを渡し去って行く
・ミカの父親の同僚の娘が渋谷で行方不明になったらしく、父親は娘とコミュニケーションを取っていなかったらしい
・ミカの父親の話では日本はスラム化している
・ミカの言葉を真に受けるなと父親に怒るミカの母
・ミカの母親はミカ以上に感覚で適当に喋っている
・ややミカに無関心にも思えるが、夜中に出かけようとするミカを止める程度には関心がある
・ニュースでは昨日起きたはずの事故を今日起きた事故で現場から中継となっている?
●小ネタ
・アラマタの話をちゃんと聞くと、穏やかなユカリのCGが見られる
・テレビの音は、天気予報、サラダの作り方、不気味な漫才、ストーカー被害にあった男性の話、ムーンライトシンドロームのCM。
●事故の詳細
・午後10時頃、トラックとバイクが正面衝突した後、トラックはガードレールに激突。道を塞いだトラックに4台の乗用車が玉突きで衝突。死者1名。重軽傷者7名。
・トラックを運転していた会社員、吉田タカシ容疑者(35)を業務上過失致死などの疑いで逮捕。トラックと4台の乗用車からガソリンが漏れ、炎上。一時は森に引火する恐れもあったが、沈静化。
トラックと衝突したバイクに乗っていたのは、雛代大学1年の華山キョウコ(18)。飲酒運転が原因と見られるトラックが対向車線に侵入し、バイクは回避する事が出来ずにぶつかったと見られる。
●感想
開始直後に変質者に絡まれるスタートの早さも良くて、すぐに雛代の街が不穏な空気を感じられる。ちょっとした事だけれど、このエピソードで少し感動するのは冒頭のサラリーマンに対しての選択肢とその結果の部分。私は「トワイライトシンドローム」の選択肢で結果が中吉凶の面白さってあんまり感じなかったから(とはいえ大吉がポンッ!と出るのは気持ちよかったけど 笑)、一本道になったのはかなり嬉しい。結果に代わりはないけど、他の選択肢だったらどんな事言うんだろうっていう面白さがあって、このサラリーマンは「宗教の勧誘」の場合もあれば、「いい女だな」とか言って消えてくパターンもあるし、無視し続けてたら複数のおじさんにのぞき見されてるような演出になったりするし。
しかし、アラマタの話は長すぎる。ちゃんと聞くと意味深な事は言ってるんだけど、ちょっと言い回しがクドい。前回、長い話を散々したあげく貰えるヒントは少しだったアラマタがセーブポイントの役割になったので「今回は役に立つようになったんだね」のメタ発言にその後のSUDA51らしさの片鱗を感じる。変質者やアラマタの「合法的な覗き」「直接関係できない」はプレイヤーの事でもあるし。アラマタが言ってるのは、「古い物が壊され、新しいものが建てられる事で今まで表裏一体の関係にあった街や木々にまで宿っていた秩序のようなものがバランスを崩していて街に異変が起きているけど、住民はある種の防衛本能のようなもので脳が違和感を見えないようにしている」でいいのかな?
ミカはユカリ達と1年過ごした事で、以前のような「何でも噂に飛びつく女子高生」ではなくなっていて、ゆらいでいる。ミホは以前のミカも気にくわないが、常識人ぶっている今のミカも気にくわない。ミカに影響を与えたユカリ達だが、受験生なのでミカが気を使って距離を置いており、スミオがキョウコと付き合っていた事を知ったショックがきっかけで人間不信気味になってしまっている。家族との会話では、父親はミカの事を心配しているが、ミカは大丈夫だといって気にしない。白髪の少年についても、なんとなくミカは違和感を感じているけど、母親はミカの話をちゃん聞いてくれない。今のミカは、友達とも先輩とも恋人とも家族とも、うまく噛み合っていない。
ニュースの件は、実際に起きた時間と、他人が認識するまでのラグを表現しているとの事なので、もしかしたら昨日の中継を再度放送しているとも捉えられるかも。
両親との会話のシーンでは、世代間のギャップは認識までの時間にラグを生んでいるっていうテーマも明示されているし、ムーンライトの人物達が音声でトワイライトの人物は文字で表示する事で、同じ場所で同じように暮らしているのに会話が噛み合わないっていう表現がとしても成功していると思います。アラマタの言っていた土地の話、ミホの怒りの理由は小説版でなんとなく掴めるかも。
以下、小説版からの引用
●アリサの台詞
何が起こっても不思議じゃないよ。土地に染み込んだいろいろな想いを粗末にしていると、それは必ず人に跳ね返ってくるよ。
●ミホの台詞
「自分と激似の女がミンチで死んだってどんな気分?どうせ死ぬならお前のほうが良かったよ。キョウコって人はお前の身代わりになったんだよ!お前が怪奇スポット荒らしまくるから、その犠牲になったんだ。人の気持ちにずかずか入りやがって。そのくせ自分のことでは守りに入りやがって。それがムカつくんだよ!今度はお前の番だよ!」
以上、引用終わり。
2020.02.17 加筆・修正
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●『ムーンライト・シンドローム』が好きすぎて、雛代に住んでてミカの事も見た事あるような気分で書いた長編小説です。
「ムーンライト・シンドローム 慟悪スピンオフ」
https://www.pixiv.net/series.php?id=942840