サイトメガロウイルスと炎症性腸疾患の関係

 

札幌医科大学の仲瀬裕志先生が、潰瘍性大腸炎とウイルスのひとつサイトメガロウイルスについての研究を発表しています。以下、まとめと追加情報です。 今のように20万人もの大勢の人が、潰瘍性大腸炎になるとは考えにくい。様々な年代に1980年以降、急激に広がっていることから、ウイルスによる感染性腸炎が疑われる。病気を治しには、正しい診断が重要になる。患者のこれまでかかった病気や食事、ライフスタイルは、正しい診断に結びつける重要な情報源となる。このため、自分の状況を正直に医師に伝えることが大切です。

 

診断の段階で医者に報告すること

 ・これまでかかった病気や気になる症状

例: アトピー、喘息、花粉症、あご関節症、口唇病、口内炎、歯周病、目の病気、難聴、めまい、疲れ、こむらがえし、頭痛、体重が減りすぎ、増え過ぎ、体温が低い、生理痛、閉経など

 

・最近どんなものを食べてきたか 外食が多かった、炭水化物が多い、玄米食、菜食、揚げ物が好き、甘いものが好きなど

 

・ライフスタイル 仕事が忙しい、夜勤や徹夜が多い、食事の時間が不規則

 

・どんな薬を使ってきたか、その経過 免疫を抑える薬 

  例: ステロイド、免疫抑制剤 (感染性腸炎を併発させる)

 

複数の検査の重要性

若い人に炎症性腸疾患になることが多いため、内視鏡で炎症が確認されると、他の検査をせずに潰瘍性大腸炎やクローン病と診断する場合が多い。このとき、炎症を悪化させていたり、あるいは、将来、悪化させるかもしれない要因であるウイルス感染を調べる便の培養検査を受けることが大切。

 

潰瘍性大腸炎の炎症の悪化に関与するウイルス

ヘルペス ウイルスは、 日本人の多くがすでに感染している。が、通常は、潜伏しているだけで、悪さをしない。が、 体力が落ち、免疫力が弱まると、唇にできものができるなど、症状を起こすことがある。

 

潰瘍性大腸炎の場合

炎症が進み、ペンタサやアサコールなどで炎症を抑えきれなくなったとき、ステロイドなど、免疫を抑える薬が使われる。もしも、ヘルペス ウイルスのひとつ、サイトメガロウイルスに感染していた場合、免疫を抑えると、眠っていたウイルスが目覚めて増殖しはじめ、炎症はさらに悪化する。

 

 サイトメガロウイルスの特徴

ふだんは、眠っていて悪さをしない。が、次のふたつの条件がそろうと、活発になる。

 1) 大きく炎症があるとき

2) 免疫機能が低下しているとき

 ただし、ふたつの条件がそろっても、炎症が出ない人、つまり潰瘍性大腸炎にならない人もいる。あくまで、その人の免疫のパターンによる。一方、潰瘍性大腸炎の人は、サイトメガロウイルスが活発化しやすい体質と言える。

 

 炎症がおさまっても、次にまた炎症が戻って来る仕組み

増悪期は、炎症が終わっても、また炎症が起きる。なぜか?  それにはこんな繰り返し作業がある。

 

炎症→免疫力が上がって炎症がおさまる→免疫力が下がる→サイトメガロウイルスが再活発化する(もともと感染していたところに活性化するので、再活性化となる)→炎症が悪化する→免疫力が上がり炎症がおさまる→免疫力が下がる→サイトメガロウイルスが再活発化する→炎症が悪化する。

 

 潰瘍性大腸炎は、サイトメガロウイルスが「再活性化した(炎症を起こした)状態」。 炎症が広がると、「感染症を起こした状態」=サイトメガロウイルス腸炎になる。 ふたつの病気、大腸炎 プラス サイトメガロウイルス腸炎が起きることで合併症となる。この状態になると、治るのが困難になってしまう。 サイトメガロウイルスのことに気がつかないまま、潰瘍性大腸炎の炎症を抑えようとステロイドや免疫抑制剤を使い続けると、サイトメガロウイルスが増え、炎症が広がっていく。

 

 「抗炎症性治療中にサイトメガロウイルスの再活性化によって腸炎自体が悪化した場合、免疫抑制作用を有する薬剤、特にステロイドを減らしていくのが基本的な考え方」になる。

 

 潰瘍性大腸炎とサイトメガロウイルス腸炎が同時発生したときの薬

サイトメガロウイルスは、炎症をえさにして増える。えさは、「TFNa」という体内から発生される物質で、炎症を増大させる働きがある。また、サイトメガロウイルスは、「TFNa」がそばにあるだけで刺激を受け増えてしまう。これをブロックする薬に生物学的製剤がある。レミケードやヒューミラなど。 生物学的製剤の働き 炎症を増大させる「TFNa」をブロックする働きがある。これにより、

 1) 潰瘍性大腸炎の炎症が抑えられる

2) サイトメガロウイルスのえさを減らす

3) サイトメガロウイルスが刺激を受け増えるのを抑える サイトメガロウイルスのもうひとつの特徴 ウイルスは、増殖の過程で、腸の細胞に次々と感染していく。 感染した腸の細胞は、炎症を起こす物質を発するようになる。(TFNaとは別物) これにより、腸が自ら感染するようになり、炎症は倍以上になってしまう。 生物学的製剤だけでは対処できなくなったとき 抗ウイルス剤を併用し、サイトメガロウイルスの働きを止める。

 

 この薬については、まだ「研究段階」で、タイミングをはかって投与する必要がある。か、データーがまだない。

 

サイトメガロウイルスへの対応

潰瘍性大腸炎が疑われたとき、まずサイトメガロウイルスの検査をする。 病気を悪化させる量のウイルスがいるとわかったら、ウイルスの増加や、炎症を長引かせる要因、えさや刺激となる炎症部分から発せられる物質を抑えることが重要になる。

1) ウイルスを増やしてしまう免疫抑制剤のステロイドなどの使用の検討

2) 血球成分除去療法 炎症と戦う白血球が活性化し過ぎると、炎症が長引く。このため、血液を体外に出して、白血球を取り除く。残った血液は体内に戻す。

 3) TNFa抗体製剤(生物学的製剤)を使う。レミケードやヒューミラなど。

4) 抗ウイルス製剤を使う。ただし、ただいま、研究段階。

 

誤診を防ぐため、情報に通じる

潰瘍性大腸炎と似た病気「家族性地中海熱遺伝子」がある。これは、コルヒチンという製剤で病変が完全に良くなる。潰瘍性大腸炎と診断されて人の中に、この病気の人がいることが少しずつわかってきている。