ラクダを駆るアラブを追撃するアッシリア軍騎兵隊。

 

 アラブという言葉の語源は、特定の民族を意味するのではなく、定住生活者と対比して、砂漠の放浪者、遊牧民を意味するセム語である。

 ヘブライ語聖書に登場するヘブライ人の語源「イブリ」も「あちこち歩く人」、「行ったり来たりする人」、つまり放浪者を意味する。つまりアラブもイブリも同一の語根から派生し、母音が変化、音位転換を起こした同一の言葉、砂漠の遊牧民を意味している。また古代メソポタミアで興亡した王朝は定住する前、アラブかイブリだったことも意味する。

 「セムにもまた子供が生まれた。彼はイブリのすべての子供の先祖であり、ヤぺテの兄であった」(『創世記』1021節)。「イブリには二人の息子が生まれた。一人の名は、その時代に土地が分けられた(パラグ)のでペレグといい、その兄弟はヨクタンといった」(同25節)。

 アッシリアの年代記は、諸王たちが、都市や隊商を襲撃する野蛮な「アリビ」を懲らしめた、と繰り返し語っている。また古代メソポタミア、エジプトの書簡や碑文に「ハビル」、「アピル」と呼ばれ、セム語を話し、凶暴で、略奪を得意とする砂漠の部族が頻繁に登場する。彼らは人種、民族の違いに関係なく、定住せず、部外者のいかなる権威、権力にも服従しない、法もかまども持たないはみ出し者の集団だった。ハビル、アピルも同一のセム語の語根から派生したと考えてよい。

 彼らが職に就くときは、傭兵か隊商の用心棒だった。聖書の記述は、「イブリ」(ヘブライ)がある時、ある所で、そのような集団に属していた、と語っている。例えば『創世記』14章で、アブラムがソドムの傭兵隊長として登場する。

 創世記14章は五人の王の同盟軍と、別の五人の王の同盟軍の戦いについて記述している。敗北した同盟軍の民ソドムの中にアブラムの甥ロトがいて、捕虜となった。

 「逃げ延びた一人の男がヘブライ人アブラムのもとに来て、そのことを知らせた」(同13節)。「アブラムは親族の者が捕虜となったと聞いて、彼の家で生まれた奴隷で、訓練を受けた者318人を召集し、ダンまで追跡した」(同14節)。「アブラムはすべての財産を取り返し、親族のロトとその財産、女たちやそのほかの人々も取り戻した」(同16節)。「いと高き神の祭司であったサレムの王メルキゼデクも、パンとぶどう酒を持ってきた。彼はアブラムを祝福して言った、『天地の造り主、いと高き神にアブラムは祝福されますように』」(同1819節)。

 ヨクタンのアラビア語カハターンは「純血のアラブ」と言われる部族で、カハターン族と誇称する部族は現在も存在している。