私は1997年から3年間、香港に勤務した。このため私は赴任の準備を整えるにあたり、私に可能な限りの、信頼され有力な英文メディアの、香港の中国返還に関する記事を精読した。その中で唯一のメディア―それはカナダのメディアだった―を除いて、一致した論調は「The Death of Hong Kong」だった。つまり、香港が共産党独裁政権下の中国に返還されてしまえば、世界の貿易・金融センターとしての香港が活力を失い、「生きる力」を中国に奪われてしまう、というものだった。

 さらに不可解なことは、大英帝国のアヘン密輸をきっかけとして勃発したため「アヘン戦争」と言われる残虐非道な戦争で略取された香港が中国に返還されること自体、極めて称賛すべき、世界で祝福されるべき出来事に間違いないのに、これについて報道する西側メディアは、私が知る限り皆無だった。なぜなのか。「自由主義経済の香港を共産主義下の中国に返還すべきではない」、という西側世界の本音を隠蔽していたからだ。ジャーナリズムの真髄は建前だけでなく、本音の真実も正確に報道することである。なぜ報道しなかったのか。彼らが偽善者ぶっていたからだ。それとも彼らが同様に帝国主義者であったかの、いずれかだ。

 私が香港に着いて最初に驚いたこと、それは「The Death of Hong Kong」が真実とはまるで正反対の虚偽であったことだった。また、中国共産党政権は香港の活力を削ぐような行動は絶対に慎む、と確信した。そのような事をすれば、それは中国が自ら名誉、体面を汚すことであるからだ。

 私は今回の米大統領選挙のアメリカ・メディアの報道ぶりと、それをひたすら模倣する日本の報道機関の報道ぶりを見て、読んでいて、かつての香港返還報道で起きたような虚偽報道がまかり通っていることを痛感した。

 ロイター通信によれば、米大統領選挙の直前、各メディアはクリントン氏が勝利する可能性を75-99%と予測した。ロイター自体は、「クリントンが勝利する確率は90%」と直前に報道している。私が知る限りでは、トランプ氏が勝利する可能性を報道したメディアが二つ存在、米フォックステレビと英エコノミスト誌だ。フォックステレビは超右翼放送局だから、勝利を予測したというより、単なるプロパガンダに過ぎないと考える。

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