どうもこんにちはWe are?です(・ω・)ノ
ある日突然妄想小説をリクエストされたので書かせて頂きました。
ではでは早速どうぞ!!!
タイトル→【磯の音は】
クラスの中には大抵1人、場を盛り上げる人気者がいるもの。彼もそんな1人。何か特別な事をするという訳では無い。ただ、彼の人の良さや明るさに皆が惹かれる。そんな感じだ。
「なおすけ!写真撮ろうぜ〜」
「おう!」
「なおちゃんなおちゃん、こっち来て〜」
「うん!ちょっと待って〜」
「なおすけくん高校行ったらどうするの?」
「いや〜あんまり考えてない」
「やっぱりぃ?」
「やっぱりじゃねぇし!!!」
この日は卒業式。
3年間共にした友人達と別れ、新たな道へと歩み始める日。
幸も不幸も経験し、いくつもの想いを握りしめて、希望と期待と不安に溢れた道へと歩み出す、そんな日。
彼、尚介もそんな1人。
常に笑顔を絶やさない彼だが、今まで培い築いてきた人間関係が殆どリセットされるのだ。人気者な彼とはいえそこに不安は覚える。そもそも彼自身人気者という自覚無い為尚更だ。
だけど、
「なおすけは高校行っても大丈夫そうだよね〜。絶対みんなに好かれるでしょ!」
周囲とは時に身勝手で思いやりの無い言葉を悪気無く投げかけてくる。勿論当人としては決して悪態をつきたくて言っている訳では無いだろう。しかし、受け止める方が不快に感じてしまえば、それは不適切な言葉になってしまう。
「いやいや、ちょー不安だからね?」
心からの言葉。だけど
「またまた〜、大丈夫っしょ♫」
簡単に返されてしまう。勿論彼としても当人に悪気が無いのも、応援しようとしてる気持ちも理解はしている。だから不要な争い事は避けるためにも、下手な感情は抑える。
そんなに彼の懐は浅く無いのだ。
しかし、そんな彼に更なる無慈悲な言葉が
「なおすけ〜。高校行ったら彼女作れよ」
かいしんのいちげき なおすけはひんしだ
「お前!それ言うなよ〜!しんみりしてたの全部吹き飛んだわ!」
「なおすけ、これだけ皆んなに好かれてるのに何で彼女出来ないんだろうな〜」
「うるせーー!ほっとけ!!」
別に彼女がいらなかった訳では無い。かと言ってそこまでして欲しかった訳でも無い。ただ、そこまでそういった気分になれなかった。良いと思ってもちょっと違う気がする。そんな事ばかりだった。
結局その後はクラスメイト全体で『どうしてなおすけには彼女が出来ないのか』トークというなんとも辛い話を永遠された。おかげで卒業ムードが完全に崩壊し、卒業による虚しさから純情を汚された様な悲しさに変わっていた。正直、卒業式より泣けてきた。
「彼女か〜」
意識したらまた悲しくなってきたので考えない事にした。
来月からは新しい学校!新しいクラス!そして何より高校生!
中学生時代からの色々な束縛からは多少は解放される。それを考えるだけでも少しワクワクした。
入学初日。クラス表を見て少し安堵する。知った顔が何人か同じクラスだったのだ。勿論中学生時代と比べたら校内にいる友人の数は激減しているが、その中でも何人か友人がいるという事は彼にとって救いでもあった。
入学式を終えてそれぞれのクラスへ向かい、出席番号順に自己紹介を行なっていた。
大抵出席番号は名前のあいうえお順になる。彼、尚介の苗字は『伊藤』のため大抵最初の方。運悪く1番の時もあった。しかし今回は珍しく6番目。今までの中で1番後ろの出席番号だ。とはいえ序盤なので緊張はする。
しかも様々な中学から色んな人が集まっているため、クラスメイト同士殆ど知らないため独特の緊張感がクラス内に漂い、余計緊張が増す。
何を言うべきか色々考えていたら、目の前の席の女の子が自己紹介を終えて座っていた。しまった!自分の番だ!慌てて立ち上がり
「えっと、なおすけです!宜しくお願いします!」
その自己紹介を聞いていた友人が、遠くの席から少しニヤケながら
「なおすけ〜〜!苗字は〜〜??」
指摘をされた。いや、してくれたの方が正しいか。苗字を言い忘れるという痛恨のミスを犯してしまい、顔が一気に熱くなる。
「あぁ!あぁあぁ、えっと、伊藤です!伊藤尚介です……」
「イェーーイ!良いぞなおすけーー!!皆んな!あいつはなおちゃんって呼べば良いから!」
「いや、余計な事言わなくていいから!」
そんな彼らのやり取りを見ている内に、自然と周囲の人達も緊張が解れ、クラス内に和やかな空気が流れる。恥ずかしさはあったが、この先の不安が少し払拭されたのであれば安いモノだと思えた。
「なおすけ〜次の授業なんだっけ〜?」
「なおすけ購買行こうぜ〜」
「あ、なおちゃん私の分も〜」
数日も経ってしまえばかつての中学時代の様に彼はクラスに溶け込んでいた。緊張しながら受けていた授業も力が抜けて、不安に溢れていた学校生活も安心感を覚えてきて、クラスメイトとの会話も増えていた。たった数日でこんなにも変わるとは思ってもいなかった。あの時の友人とのやり取りのおかげでもあるので、言葉には照れ臭くて出来ないが感謝しなければならない。
そんな日々を送っていたある日。いつもの様に授業を受けていた。内容を聞いているか聞いていないかは置いておいて。今日はこの学校に入学して初の週末という事で、クラス内でも明日からの休みをどう過ごそうかとソワソワしている人も多い。
しかしそんな休日の事も特には考えず、ただボーっと前を眺めているとふとある事に気が付いた。
(……この子、名前なんだっけ?)
目の前の席。名前を知る機会などいくらでもあっただろう。しかし意識をしてないとこういう事なのか。名前も覚えて無ければ顔も声も覚えて無い。卒業式の日は彼女が欲しいかとかどうとか少しは考えてたはずなのに、目の前にいる女の子に興味を持たないとはどういう事か……
一度気になってしまうと確認するまで落ち着かなくなる現象に名前を付けて欲しい。今現在正しくそんな状態だ。この授業が終わったらさり気なく前に行って顔だけでも確認しよう。
そう思っていたら終業のチャイム。何と都合の良い事か。開いたままの教科書もそのままに立ち上がると
「___o〜〜ん!」
前の方の席にいた少し背の低い女の子が目の前の席の子に駆け足で話しかけに来た。確か………大賀さん。
何故目の前にいるこの子の名前を覚えて無くて大賀さんを覚えてるのか……まぁ、確かに大賀さんはクラス内でもムードメーカー的な存在で目立っていたのは確かだが。
「聞いた聞いた?沙樹がさぁ、購買部にいるらしいよ?」
「え〜!?ホントに??」
「冷やかしに行っちゃお?♫」
「うん!行こう行こう♫」
そんな会話を楽しそうにすると、2人はこれまた楽しそうに教室を後にした。
なおすけは立ち竦んでいた。
動けなかった。
な ん だ い ま の は
頭の中で永遠と自動リピートされる
『え〜!?ホントに??』
『うん!行こう行こう♫』
なに今の。え?可愛い。めっちゃ可愛い!超可愛い!!なにあの【え〜!?】って言い方!【ホントに??】のホの発音とか超可愛い!【うん!】うん!だって!うんだって!!【行こう行こう♫】とか何あの楽しそうな声!!
最早脳内ですら語彙力は無くなっていた。最早パニック状態だ。友人達が話しかけてきているが、それどころではない!天使だ。天使の声を聞いたんだ!昇天するでしょそりゃ!
「むしろ何で皆平気なの!!???」
「…………はぁ?どうしたお前?」
こうしちゃいられない!急いで購買部へ!
そう思い、ボルトも驚くほどのスピードで教室を出たが、教室を出た瞬間に足が止まる。
(いや、待てよ。購買部に行ってどうする?話かける?何て話かければいいんだ??………ハナシカケル?話す?誰と?あの天使の声の人と?俺が??無理無理!死んじゃう!話しかけてくれた瞬間死んじゃう!可愛い過ぎて死んじゃう!
じゃ、じゃあ顔だけ見に行く?購買部にお客さんとして来てる人の顔だけ見て戻るの?ほぼストーカーじゃん!いや、流石にあの天使の声のお方には嫌われたくない!
……………というか)
大切な事を思い出した。
(あの子の名前、知らねぇ)
なおすけ は ひざ から くずれおちた
「お、おい!なおすけ!どうしたーー??」
目の前の席。天使の様な声。覚えておくべき理由など山ほどあった。なのに彼女の名前を知らない。その事実に、生きている理由を見失いそうなほどに絶望した。
午後の授業。ノートを一生懸命とる人。黒板をじっと見てる人。気だるそうに教科書を見てる人。こっそり携帯をいじってる人等、授業を受ける姿勢は様々。そんな中で1人、異質な人がいた。やけに背筋が伸びて前をじっと見てる人。
一見真面目に授業を受けていそうだが、ノートもとらず、教科書も見ず、ただずっと前を見ているだけ。しかも正面を見てるだけなので黒板すら見ていない。
そう、なおすけだ。
彼はただ、じっとずっと目の前にいる天使の声ちゃんを見ているだけだった。
(え?後頭部もめっちゃ可愛い。後頭部まで可愛い。……あ!ノートとってる。ノートとるの可愛い)
最早ストーカー一歩手前である。
「では尚介君。どうだい?」
突然教師から話を振られる。彼は何も焦る事もなく
「はい!可愛いです!!」
自信満々に答えた。
「……土偶がか?」
「………………はい?」
今年度上半期。このクラスでは『土偶萌え』(意味:可愛い)という言葉が流行した。
(結局声かけられなかった〜〜……)
机にめり込みそうな位に頭が沈んでいるなおすけ。結局あの後一度も声をかけれなかった。それどころか顔すら見れてない。更には名前までまだ知らない。もう消えて無くなりたいほどの絶望感だった。
『君の名は!』と聞こうかと思ったけど、また変な話題を生みそうなので止めた。そもそもそれを言う勇気すら無かった……
そんな沈みきっている彼を見て周囲が好奇の目で見ていたがそれを気にする余裕すら無かった。
「おーし、ホームルーム始めるぞ〜」
担任が教室に現れると、ドッとクラス内が湧く。
「いぇーい!終わりだー!帰ろうぜーー!!」
「待て!ホームルームやってからだ!配るプリントもあるんだ!静かにしてろ!」
そんなクラスの喧騒もなおすけの耳には入って来ない。様々な感情がミルフィーユのように重なり、それがぐちゃぐちゃに崩れた様だ。明日からこのモヤモヤやぐちゃぐちゃと休日を過ごすと考えただけで嫌になる。
つんつん
そもそも休み明けからもどうすれば良いんだ?天使の声ちゃんは一体朝何時に来てるんだ?何時に学校来れば良いのかな?6時に来れば流石に大丈夫か?
「あの〜?」
なんて挨拶すれば良いのかな?
【おはよう!】なんか普通過ぎるな。【おはよう!休日はどうだった?】会話すらしてないヤツがこんな事聞けるか!!
【おはよう天使ちゃん!】………我ながらキモイ
「なおちゃーん。もしも〜し。」
「ハッ!」
ようやく呼ばれている事に気が付いた。やけにむず痒いと思ったらプリントの端で突かれていた。
「あ、ごめんなさ____」
担任は一番前の席の人に、その列にいる生徒分のプリントを渡す。そして受け取った生徒は自分の分だけ取り、後ろに渡す。至極普通な事。昨日まで、いや今日この子の事が気になる直前まであった事なのかもしれない。
それまでは普通にプリントを受け取って、後ろに回していた。
でも今はそれが出来ない。
何故なら時が止まっていたから。時間が止まってしまえば、それは勿論動けない。当然時間が実際に止まっている訳では無い。ただ、彼の中の時計は止まっていた。
想像よりもずっと小さな顔
ハッキリとした眉は顔立ちを引き立たせる
大きくパッチリと開いた、少したれてる目
その中に大きく光り輝く瞳はどんな宝石よりも光り輝く世界に1つしかない、黒く光る宝石だ。
丸めのお鼻
白く綺麗に並んだ歯
その表情は全てを包み込む聖母の様に光り輝いて見えた。
可愛い、天使、女神
様々な表現が存在するが、その全てが稚拙に聴こえてしまう。そんな言葉では表現しきれない美しさと可愛さが彼女にはあった。
雷に撃たれた様な衝撃
という言葉があるが、そんなどころでは無い。巨大な隕石が雷を纏って頭の上に落ちて来た。それ位だ。
いや、そんな表現すら稚拙に感じてしまう。彼女の可愛さ、美しさ、そしてそれらによる衝撃。その全てが既存する言葉では表現しきれないほどだった。
この感情、この気持ちを世間ではよく
【恋】
と表現する。
でも違う。恋なんかじゃない。恋なんてレベルでは無い!そんな生半可なものではない!
もっと深く、大きく、拭いきれない感情だ。彼女の事を然程知れてないのに、こんなにも強い感情が芽生えるなんて。
そんな僕を見て、彼女が不思議そうな顔をする。
その仕草、動き、いや、存在全てが愛おしい。
そんな彼女を前にして、僕は何も出来なかった。
{ここでflumpoolの『君に届け』が流れる}
あの後どうなったのか、自分でも覚えてない。
後ろの席の人から色々言われていた記憶があるが、それすら覚えて無い。
気が付けば自分の部屋にいた。どうやって帰って来たのかも覚えてない。
それほどの衝撃。それほど感情。
最早生きているだけで自分を褒めたいほどだ。
アレからどれだけの時間が経ったのかも分からない。空腹では無いがご飯を食べたのかも覚えて無い。
ただ、そういう事を考えれる位に落ち着きは取り戻していた。
鞄から荷物を取り出す。すると一枚の用紙を手にした瞬間、身体が強張る。
「こ、これは……」
彼女から受け取ったプリントだ。正確に言えば、担任から配られた過程で彼女から手渡しで回ってきたプリントだ。だが彼にとってはそんな細かい事はどうでもいい。大切なのは
【彼女が手渡しで僕にくれた】
という事だ。彼女が触れていたプリントというだけで持つ手が震える。いっそこのまま額縁に入れて飾りたいほどだ。勿論クラス全員に配ったモノなので額縁に入れるほどのモノではない。
そういえば、このプリントが何なのかもよく分かって無かった。
改めてよくよく見ると
【連絡網】
と書いてある。
れんらくもう?
鼓動が少し早くなる。そういえば、消え入りそうな記憶の中から担任が言っていた言葉を思い出す。
「緊急時の連絡網だからな!後の人の電話番号と、出来れば前の人の電話番号位は覚えててくれよ!」
後の人?前の人?
鼓動が更に早くなる。
恐る恐るその連絡網に目を通すと、案の定一番最初に出席番号1番の人の名前と電話番号が書かれてある。次に2番の人。
出席番号順になっている。という事は!
ゆっくりと視線を下に下げていく。すると『伊藤尚介』という自分の名前を見つける。その前にあるのが
磯野莉音
磯野莉音。いそのり……おん?いその?りおん??
な……なんて可愛い名前だ!!!!
お顔も!声も可愛いのに!名前まで可愛いなんて!!もう気が狂いそうだった。
そして突然ハッと我に帰る。
連絡網。出席番号順。つまり、連絡事案があった場合、
磯野莉音さんから電話が来る
…………………バタッ
「なおすけ〜ご飯だよ〜。………なおすけ?」
母親が心配して部屋の中を覗くと、息子が連絡網を片手に倒れていた。
「ど、どうしたの!なおすけ!なおすけ〜〜!!!」
「早く来すぎた…」
なおすけはまだ誰もいない教室に来ていた。緊張してろくに寝れなかった。
学校に来れば、あの磯野莉音さんに会える!そう思うだけで緊張と興奮から寝られなかった。いつもなら絶対に乗らない時間帯の電車に乗って来てしまった。
とりあえず朝!朝磯野莉音さんが来たら挨拶をしよう!それだけを考えてた。というかそれしか出来ないという結論に至った。
「磯野莉音さん、いつ頃来るのかな〜……」
そもそも彼女を何と呼ぼうか寝ずに考えたが、苗字だけでも、名前だけでも失礼に感じてしまったのでフルネームで呼ぼうとなった。
磯野莉音さんに挨拶すると考えただけで落ち着かない。緊張を紛らわせてくれる友人も朝早過ぎていない。1人でこの緊張と戦うしかなかった。
……………………
しかし、来ない。
確かに自分が早くに来すぎたのもあるが、にしても来ない。それとも緊張し過ぎて一分一秒が長く感じているだけなのか。それとも元々ギリギリの時間に来る人なのか。
そもそも他のクラスメイトもいない気がするのだが気のせいか?
「何してるんだお前?」
突然担任が怪訝そうな顔で教室の扉から声をかけてくる。
「あ!先生おはようございます!今日は皆んな遅いですね!」
「あぁ、今日休みだからな。」
……………………………
この時、教室にはなおすけと担任しかいなかったはず。なのに数日後にはクラスメイトほぼ全員が彼が休日に朝早くから学校に来ていた事を知っていた。
この日は確実に登校日だ。
何度もカレンダーを確認して月曜日である事は間違いない。
この日も結局朝早くに来てしまった。しかし先日と違うのは少し待ったら他の生徒が次々に来たという事。
それにより緊張が解れると思ったが、それはつまり磯野莉音さんも来るという事。そう思うだけで緊張が収まらなかった。
「おはよ〜」
「おっはよぉ〜♫」
可愛らしい声の女の子が2人教室に入ってきた。磯野莉音と、その友人の大賀さんである。
(き、来た!!
間違いない!磯野莉音さんだ!!
こっ、こっちに来る!)
自分の席に向かっているので当たり前の話である。当のなおすけはというと、緊張して彼女の顔すら見れていない。
(い、言うぞ。挨拶するぞ!挨拶するだけで良いんだ。)
2人の足音が近づく。そして
「い!いそのりおんさん!おはようございます!!」
勢いよく立ち上がり、挨拶をした。緊張で顔は見れなかったが。
(い、言えた!言えたぞ俺!!よくやった!勲章ものだ!俺よ、本当によく____)
「おはよーなおちゃん。あ、私『りおん』じゃなくて『りのん』だからね♫」
そう明るく答えると、再び楽しそうに大賀さんと話す磯野莉音さん。
「………………………」
様々な感情が彼の中を渦巻いていた。緊張から解放された体はスッと力が抜けて椅子へ腰を下ろした。
磯野莉音さんが自分の事を『なおちゃん』と呼んでくれた。(実際には既に呼ばれていたのだが気づいていない。)その事でもう窓から飛び降りそうなほど嬉しかった。
だけど、それを上塗りしてしまうほどの感情があった。それは
(名前………間違えてた………………)
痛恨。自分のミスでしか無かった。ちゃんと彼女の自己紹介を聞いていたり、普段から色んな人と会話していれば間違える事は無かった………
そういえば大賀さんがよく『りのーん!』と呼んでいた……………
何で気がつかなかったんだ…………
立ち直れないほどのショック。
この日彼は放心状態で一度も立ち上がれなかったらしい。
ざわざわ ザワザワ
この日はやけにクラスが騒がしかった。しかし彼にとってはそんな事はどうでもいい。磯野莉音さんだ!りのんさん!莉音さんの方が大切だ!
名前を間違えた事を謝らないと!!
その一心で彼は登校して来た。緊張なんてしてられなかった。謝る事に謎の気合いが入っていたから。
「なおすけさ、」
「おう!どうした?」
友人が声をかけてくる。
「いやいや、お前がどうしたの?」
「何で?」
「いや、何でって……」
友人が困った顔をしている
「今日ちょっと大事な事があるんだよ!」
やる気に満ちた顔で答えるなおすけ。
「はぁ。パーティか何か出るの?」
「パーティ?何言ってんのお前?」
予想外の質問に困惑するなおすけ。
「じゃあ何でお前、タキシードで来てるの?」
「…………………………………」
謝らなければならない→正装で来よう!→タキシードだ!
という安易な考えで来ていた。
父親の洋服タンスから勝手に持ち出し、勝手に着て来ていた。制服も着ずに。
この日、彼の呼び名が【なおすけ・なおちゃん・タキシード】の3つになった。
(もうダメだぁ〜〜)
なおすけは頭を抱えて机に顔を埋めていた。
穴があったら更に掘り下げて頑丈な蓋をして入りたい様な気持ちだった。
(絶対磯野莉音さん俺の事変なヤツだと思ってるよ!気持ち悪がられたり関わりたくないとか思われてるよ!もうこれからどうしたら良いんだーーー!!)
授業の内容も担任の話もクラスメイトの話も何も入ってこなかった。
これからどうしたら良いのかばかり考えてしまい、高校一年にしてお先真っ暗状態になっていた。
ツンツン ツンツン
「おいなおすけ!なおすけ!」
突然後ろから声をかけられる。そして手にむず痒い感覚。
「ハッ!」
磯野莉音さんがプリントを自分に渡そうとして振り返り、プリントで腕を突いていた。
「す!スミマセン莉音さん!」
慌ててプリントを受け取るが焦って力が入ってしまい、プリントが皺くちゃになってしまう。
「あぁ!」
「おい何やってんだよなおすけぇ〜」
後ろの席の人から笑われてしまう。
(またかっこ悪い所を見せてしまった。もうダメだ。いっそこの窓から飛び降りよう……)
そう思っていたら、
「ふふっ」
笑い声が聞こえた。目の前から。
見ると彼女がクスッと笑っていて
「なおちゃん、面白いね♫」
そう言うと、彼女は前に向き直り担任の話を聞いていた。
笑っていた
ただでさえ可愛い磯野莉音さん。表現しきれないほどの可愛さの彼女が、笑っていた。その笑顔は何よりも美しく、可愛く、綺麗で、輝いていた。
面白いと言ってくれた。
かっこ悪い所しか見せてなかった気がするのに、面白いと言って、笑ってくれた。どんな励ましの言葉よりも沈んだ心を救ってくれた。
後ろから何か言われてる気がするが、何も入って来ない。何も反応出来ない。
ただ、彼女の笑顔だけが、ずっと残っていた。
(終わり)
長々と呼んで頂き、ありがとうございました。
必要なのか不要なのか分からない序盤に相当時間がかかってしまい、完成が遅くなってしまいました。
少し表現等イマイチな面もあると思いますがご了承下さい。
ではでは、読んで頂き、誠に有難うございました!