白っぽく濡れた朝方、仕事を終えて自転車を漕いでいると遠くに黒い猫、あたしは速度をゆるめて横を、
爬虫類みたいな目をした、左耳の下に傷のある猫だった、お早う、と声をかけて、
去年の夏が存在していたのかどうかが疑わしい。思い出せるのは、髪の毛が長いままで、新宿の地下でふるえた記憶と、それから、
元旦に二日酔いで動けなくて、二月には甥っ子が産まれて、春がくる前にあの鳥が死んで、それから、
九月にパーティをしたこと、十月には脚のとれた蜘蛛を拾って、それから、
ほらもう、ちぎれてる。
コンビニエンスで買った唐揚げは、手つかずのままテーブルの隅で冷えて、店員のテイさんは一度温めたあと「モウチョット」と言って温め直してくれたな、なんて、思い出しながら口に放りこんだけどおいしくなくて泣きたくなった。
バナナみたいな葉っぱがそういえば木から落ちた瞬間を見たっけ。落下するように着地した鳥を見たっけ。キリストみたいな釈迦を見たっけ。左目でよく見て咀嚼しなくちゃ。
ねむたくてしかたない。