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窓から外を見ると思ったよりも雪が積もっていた。
空を見上げてみてもやみそうもない。白い雪でいつもよりも明るく感じる。
こんな日に思い出すのは、三年前に死んでしまった友人。親友と言うべきか、ソウルメイトと呼ぶべきか・・・・・
彼はいつも私の味方をしてくれた。三年の間、何度話したいと思ったことだろう。何かに詰まった時、新しいことを始める時、人生においての選択をする時。死んでしまったことが嘘のようで、今もまだ泣けないでいる。冷たい人間と思われるかもしれないが、そうじゃない。ふと現れるんじゃないかと思う。もしかしたら、どこかで生きているかも、もし今も生きているとしたら・・・・・
そんなファンタジーのようなことが起こるような今じゃない。ただノスタルジーな気分になることがしばしば。誰にでもある感情。まだ何かを乗り越えられていないことは自分でも気付いている。今日はこのまま早めに寝よう。寝る前に、眠れなくなるくらいの濃いブラックコーヒーを飲むのが日課。昔はカフェラテを飲んでいたのにいつからかミルクは入れなくなった。私にはブラックコーヒーの方がよく眠れるから。苦めののコーヒーが不思議と眠気を誘った。十分くらい寝てしまっただろうか、ベッドに移動して横になった。静かに目を閉じたその瞬間、聞き覚えのある声がした。
「めりぃ」
低い男の人の声。ユウくんの声だ。懐かしい。死んでしまってから夢に現れたことは一度もなかった。
「めりぃ、目を開けて」
眠い目を静かに開けると、目の前にユウくんが座っていた。
「久しぶり」
彼は、そう言って軽く微笑んだ。
手に触れたいのに眠さに勝てない。
「しばらくここに住んでもいい?」
「いいよ。やっぱり生きてたの?」
「死んだよ。今はどこも痛くないし、苦しくもない。めりぃは向こうの世界がどんなかわかる?実は、向こうの世界は少しつまらない。色がないんだよ。上から見てるとみんなが生きてる世界、僕が生きてた世界が鮮やかで羨ましい。ほら、覚えてる?僕が病院に通ってた時に、空が青くて、雲が白くて、草の色がちゃんと緑だった。だから、このコーヒーが茶色いのも、雪が白いのも眩しいくらいだよ。でもね、僕は生き返りたいとは思わない。運命だから。」
「ねぇ、どうやって来たの?」
「え?神様を買収したんだよ。」
「・・・・・。」
これ、夢じゃない?
「ユウくん、ちょっと待って。ビール飲んでもいい?」
「いいよ。めりぃは相変わらずビールが好きなんだね。」
冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出して、思い切り開けた。春夏秋冬ビールがきれることはない。私のエネルギー源。食事を摂らずビールだけですますこともあるくらいだ。冷えきったキッチンで思い切りビールを流し込むと一気に目が覚めた。チラっとリビングに目をやると窓の外の雪を眺めるユウくんがいる。夢じゃない。どうやら幽霊というものらしい。私の霊感が冴えすぎてはっきり見えるの?
「めりぃ、僕にもお水くれる?」
「あ、うん。」
「向こうの世界ではね、何も食べないし何も飲まない。お腹もすかないし、喉も乾かない。」
「はい、お水。」
そう言えば昔、誰かに聞いたことがあるんだけど、人間は死後の世界で修行をして神様に認められると、人間界に現れることが出来るって。ユウくん、修行してきたのかな?話したいことがたくさんある。何から話そう。生き返ったわけではないということはあっちの世界に帰るってことだよね?いつ?でも今はまだ知りたくない。
「めりぃ、来て。」
「うん。」
「何か聞きたいことある?」
「いっぱいある。でも何から聞けばいいのかわからなくて・・・。」
「そりゃそうだよね。俺、死んだ人間だし。」
「私にだけ見えるの?それともみんなにも見えるの?」
「みんなに見えるよ。たぶん誰も僕が死んだ人間だなんて気付かないよ。死んだこと知ってる人は驚くよね?でも、めりぃも知ってると思うけど、友達少なかったから死んだことも知らない人が多いよね?ほら、高校のときの先生、イガセン?だっけ。五十嵐先生。会いたいなぁ。高校入学して、3ヶ月しか日本にいなかったけど、本当に面白い先生だった。イガセンは僕の体のこと、入学したときから自分のことのように心配してくれてた。」
「イガセン、私も好きだった。確か、若かったよね?25歳くらいかな?若い先生が担任って聞いて、女子達はドキドキしながら先生が入ってくるのを待ってんだよ!入ってきたらあまり若く見えなくてね(笑)分厚い眼鏡してたよね?懐かしい。ねぇ、明日会いに行ってみる?」
「めりぃ、仕事は?」
「休む。」
「いいよ、休みの日に行こう。」
「だめ、行くって思った時に行かないと!」
幸せに生きるための術はやりたいと思ったことは何でもやるし、行きたいと思ったところにはどこにでも行く、会いたいと思った人には絶対に会う。そうやって生きてきた。何年か前までは・・・・・
しばらくそんな風に思ったことはなかった。久しぶりにユウくんの顔を見たら自然と心が弾んだ。仕事になんて行っている場合じゃない。決めていた。ユウくんがこっちにいる間は仕事を休もう。もしダメだと言われたら辞めてしまおうって。これが私。つい何時間前までは、悲劇のヒロインみたいに静かな夜を過ごそうとしていた。でも、私の目の前には神様の放った刺客がいる。これは神様からのプレゼントだと思った。幽霊だけど・・・・・
それにしても、無口な男・・・・・
「めりぃは、相変わらずだね。3年前と変わらない。僕、世間では幽霊と呼ばれるんだろうけど怖くないの?」
「幽霊って怖くないよ。生きてる人間の方が怖い。」
「その通りだよ。」
「私、眠くなっちゃった。」
「寝ていいよ。」
「ユウくんは?寝ないの?」
「寝るよ。」
「もし嫌じゃなければ、隣どうぞ。一人なのにこんなに広いベッド買っちゃってね。」
「久しぶりに隣で寝させてもらおうかな。」
私たちは、恋人同士ではなかったし、幼なじみだから一緒に寝ることへの抵抗は全くない。
むしろ、隣に誰かがいてくれるのは嬉しい。
「ねぇ、めりぃ?」
「なに?」
「まだ忘れられないの?」
「なによ、急に。」
「別に。」
「ねぇ?何か企んでるの?」
「別に、おやすみ」
眠れそうだったのに、急に胸がざわついた。