「おじさん、いくらなの?俺なら解放さしてあげるよ。」
頭がガンガンする。おまけに、少々吐き気もしてきた。まさしく飲みすぎだ。
「ねえ、大丈夫?顔色、悪いよ。」
「…解放?何の話だ?」
「わかってるくせに。」
どこかで横になりたい。もう限界だ。
気分が悪い俺の前にチラつく、無邪気な少年の瞳…
「こっちだよ。」
「え?」
腕を掴まれ、なす術もなく引っ張り回される。
「どこへ行くんだ?やめてくれ。」
少年は急に立ち止まり、千鳥足の俺は真正面から少年にぶつかった。
モーテル?
「307号室にチェックインして。俺、時間あけてから入るからさ。だって、男2人はまずいだろ?おじさん、聞いてるの?」
「ああ、聞いてるよ!!」
もう、どうにでもなれ。投げやりになっていた。
俺は、言われるままに307号室にチェックインした。
ドアを開けて入ってみると、そこはばけばしい
装飾の、ライトの暗い部屋。
部屋に入ったとたんに吐き気をもよおし、トイレで少しもどしてしまった。
吐いたら少し気分が楽になった。
眠い…このまま眠りたい…
無造作にネクタイを緩め、仰向けにベッドに飛び込んだ。
ピンク色の布団なんて、趣味悪い。
いや、この際どうでもいいか。
心地よく、このまま眠れそうだ。
ああ、眠い…
眠りに就こうとする俺の耳に聞こえるのは、部屋のチャイムの音。執拗に鳴らしている。
「ああ!!もう!!」
再び千鳥足で部屋のドアに向かい、開けた。
また吐き気がする。
「おじさん、ねえ、大丈夫?」
何度も何度も聞いてくる声の主は…?
あの少年?
誰でもいい。もう俺を寝かせてくれ!!
再びベッドへ飛び込んだ。
俺の意識はそこで途切れた。
部屋中に差し込む眩しい光…
少し寒気がして、ブルッと震えて目が覚めた。
掛け布団の上で寝ていた。
また寒気。
腕時計を見ると、時刻は11時半を指していた。
「やっべぇ、仕事!!」
と悪態をつくように言いながら、部屋を見回して探していたのは、スマホ。
ドレッサーの鏡の前に、きちんとたたまれた俺の上着とネクタイ、それに、鞄が置かれていた。
鞄を持ち上げると、ピンクのメモ用紙みたいなのが床に舞い落ちた。何か書いてある。
「昨夜の穴埋め、してよね。スマホは預かったよ。」
几帳面な細字で書かれたメモ。
思い出した、あの少年だ!!
「冗談じゃない!!」
部屋の電話で自分のスマホに電話する。
何度も鳴るコール。どっかに捨てられたのかな?
諦めかけたその時、電話が反応した。
「もしもし?」
「もしもし?おまえ、誰だ!?」
やや間があって、
「おじさん?今起きたの?昨夜のこと、覚えてる?」
「えっ?いや、あんまり…」
この俺が、昨日のことも思い出せないなんて、そこまで泥酔するなんて、有り得ないことだ。
そんなことを考えていると、
「あの泥酔ぶりでさあ、お金が無事なんて、俺に感謝してよね。持って行かれたって、文句言えないよ、おじさん。」
おじさん呼ばわり…俺、そんなに老けて見えんのかな?
「とにかく、俺たちもう一度会わなきゃなんない。」
「どうして?」
「スマホ、いらないの?」
「ああ、いや、ダメだ。返してくれ。」
「リーマンのスマホだもんね。」
まるで俺を弄ぶかのように、クスクスと電話の向こうで笑っている。
「仕事はどうすんの?もうお昼だよ。」
「おまえには、そんなこと関係ないだろう?」
「あ、いいの?俺に向かってそんなこと言って。」
してやられてる。
だけど、なんでだ?不思議と気分が落ち着く声だ。
「どうしたら返してくれる?」
「…じゃあ、夜7時、道玄坂の、ル・シャンパリエってとこで待ってるよ。
「ほんとに返してくれるのか?」
「俺は、嘘つかない。それよりさ、会社に電話しなくていいの?」
突然、ブツッと電話が切れた。
なんだったんだ?今の?
二日酔いなのかな、頭がボーッとしている。
ル・シャンパリエ?
違う!!仕事だ!!
慌ててネクタイを結ぶと、俺は脱兎のごとく、けばけばしい部屋を後にした。
部屋代、¥25000!!バカか!?
あとはもう、仕事のことしか頭になかった。
それにしても、あの少年、一体何者なのだろう?
