アルトはアサギと視線を合わせ無い。
アサギの方向は向いているが、視線の先は後ろの岩山辺りだ。
「相変わらずだねー。」
アサギは含みの有る微笑を浮かべて、アルトとシトマーの方へと歩いて行く。
「アサギさん、どうして此処へ?」
シトマーが近づくアサギに話し掛ける。
シトマーの前まで来たアサギは、ゆっくりとシトマーの方を向き顔を近づけた。
アサギの右手がそっとシトマーの左の頬を触り、艶やかな笑みが拳一つ分の距離まで迫る。
不意の接近に、シトマーの鼓動が高まった。
「たまたま...なんだけどね...。」
アサギの笑みが変わる。
「これは偶然かしら?それとも必然?」
ウィンクを一つ。
シトマーは心をアサギに掴まれた様な錯覚を覚えた。
言葉が出ない。
完全にアサギに心を支配されている。
「偶然でも必然でもありませんよ。」
横からアルトが割って入って来た。
「何の用ですか?私達は貴女に用は無いです。」
「あら?信用してないのね?」
アサギ的にも、そもそも信用されるとは思ってはいない。
「で...、要件は?」
アサギはシトマーから離れ、ゆっくりアルトへと歩く。
シトマーは、ただ呆然とアサギの背中を見つめている。
所謂、腑抜け状態だ。
「だから、偶然なんだって。」
そう、偶然。
偶然アサギはアルトとここで出会った。
過去の事も偶然。
全てはアサギの計算外の偶然だ。
ピピッ!
と、その時、アルト達に友軍の任務終了の連絡が入る。
「...私達は任務終了です。では失礼。」
アルトは腑抜けのシトマーを連れ、半ば強引にキャンプシップへと帰還した。
「...アルト...。」
立ち尽くすアサギに、やるせない気持ちだけが残る。
「はぁ...」
アサギは大きなため息をつく。
「あたしも女なんだなー。」
大きく首を振ると、アサギは一つの決断をした。
