狩屋丈の意識ははるか彼方をさ迷っていた。
事故
車
宙に跳んだ
それからどうなった?
救急車の音
おかしい、いつもはこの音が聞こえると、俺は白衣を着て走り回って仕事をしていたはず。なのに今は自分の体が動きたいのに動かない。
痛みだ!
強烈な痛み、耐えられない。
俺は死ぬのか。
・・・
誰だ?
聞き覚えのある声。
「私です。分かるでしょう」
どこかで聞いた。アイナか。
口の中に何か入ってきたピリッとした味だ。
何かが俺の中に入ってきた。
そしてそれが、じわじわと体の中に染み込んでいく。
不思議な感じがする。ゆっくりと修復されていくのが自分でもわかる。体の中で切れてしまったものが、一つ一つ繋がっていくのだ。人間の体というものは、こういうふうにできているのか。
気だ。
気がつながっていく。
「狩屋さん、分かりますか」
気が付くと、いくつもの目が俺を見下ろしていた。そうだ。俺は車にはねられたのだった。そして救急車で運ばれた。とすると、目の前のこの医師が俺を助けたのか?
俺は目を開けたあと、ゆっくりと起き上がってみた。医師は俺にしゃべらせたり、手足を動かしてみるようにして、体の一つずつをゆっくり検査していった。
「いやあ、びっくりしました。こんな事は初めてです。この怪我だと助からないか、相当の後遺症が残ると思っていたのに。あなたは奇跡の回復力を持った人です」
俺の怪我がそんなに重くて生き返ったのが珍しいのか、何人もの医師や看護士が集まってきた。
その時、口の中にピリッと残った味があった。
夢ではない。『あれ』だ。
ついに見つけた。やはり実在したんだ。恵逢散と呼ばれる幻の薬を。
見ていろ。俺は絶対回復してやる。
そして『あれ』の正体を突き止めるんだ。きっとペニシリン以上の発見になるに違いない。
丈は再び目を閉じた。
今は体を休ませて回復しないと。だが絶対これを夢で終わらせない。広く世界に知らせるんだ。
怪我で苦しんでいる多くの人間のため。
そして俺自身のために。
