父が預かり金使い込みを知った得意先は父を業務上横領罪で刑事告訴し、警察に出頭した父は逮捕された。会社は事実上倒産した。逮捕直前に警察から1ヶ所だけ電話を許された父は社長辞任以来5ヶ月間自宅謹慎中の自分に昼過ぎ連絡してきて、自分に父の後始末を頼んできた。自分も共謀で逮捕されても不思議ではなかった。

 

その時、本社事務所や父の自宅の周囲はメディアの記者やカメラマンでごった返していた。その中をかき分けて事務所に入り、ほんの数人だけ残っていた従業員に謝罪した上で、5ヶ月間の状況を聞き、何よりも父に弁護士を付けることを最優先することにした。

 

父が勾留されている警察署に行くと、幸い会社の顧問弁護士が来てくれていた。逮捕容疑が約1億円の横領なので、有罪となれば実刑で7~10年となり、執行猶予は付かないと説明を受けた。日本の司法制度の現実として検事が起訴すれば、99.9%有罪となるので、起訴を何としても回避し、起訴猶予か不起訴にするしか父が助かる道がないことは直ぐに見当がついた。

 

その日の夕方、NHKや民放のテレビのローカルニュースが一斉に父の逮捕を詳細に伝え、翌日朝刊には各紙3面の扱いで報じられた。

 

母を妹夫婦宅へかくまった。自分宅は父母宅とは別に住んでいたので、メディアも来なかった。ただ、二人の子供(小学生)が登校すると、「お前の祖父は犯罪者」と同級生に罵られ、いじめにあった。子供は残酷だ。教育委員会に相談し、転校も考えたが、しばらくして収まったので沙汰止みとなった。

 

父の弁護について検事に起訴しないよう交渉できる刑事弁護士を付けれるよう奔走した。顧問弁護士に相談したところ腕利きの刑事弁護士がいると紹介された。母と自分で顧問弁護士とその刑事弁護士にすべてを託すことに決めた。

 

通常逮捕されると、48時間警察勾留となり、その間に検察庁送致(送検)となる。送検されてきた容疑者に検事は容疑事実を捜査するため、10日間の検事勾留を行う。更にもう一回だけ10日間の検事勾留を行う。容疑者は最長で22日間勾留される。検事は逮捕から最終の22日目に起訴するかどうか判断する。ここまでが父の場合の勝負所となった。

 

父には勾留されている間、数日おきに差し入れをしなければならなかった。

着替え、下着などの衣類(但し、自殺を図るようなベルト、ひもは禁止)、食べ物も禁止(毒殺される場合があるため)、現金(中で食料品、弁当、日用品の販売があるため)、書籍(但し、本人の事件が掲載されている雑誌、新聞は禁止)などなど、そして洗濯物の引取。

 

以降の話は次のブログに譲る。