危機的高血糖( hyperglicemic crisis )には糖尿病性ケトアシドーシス( Diabetic Ketoacidosis ; DKA )と高浸透圧高血糖症候群( Hyperosmolar hyperglycemic state ; HHS )がある。
これらの急性期の治療はほとんど同じで,鑑別を要さずとも初療に対処することはできる。では,これら 2 つを鑑別する意味はあるのだろうか?
治療
まず治療の概要をみてみる。
DKA と HHS の治療は前述の通り似ていて,補液,電解質異常の補正,そしてインスリン投与である。
脱水補正
DKA や HHS の治療の第一段階は,細胞外液補充のための生理食塩水の投与と心血管状態の安定化である。これはまた,血漿浸透圧を低下させ,インスリン反応性も増加させる。
なぜ生理食塩水なのか?
危機的高血糖状態では浸透圧が急激に上昇し,細胞の水分を血管内に引き入れてしまう。そのため血管内のナトリウム濃度は相対的に低下し低ナトリウム血症となる。また,浸透圧利尿により水分は強制的にに排泄されるため脱水となる。
上記の 2 つの問題(低ナトリウム血症と脱水)を解決するためにはナトリウムを多く含んだ細胞外液,つまり生理食塩水が適している。
電解質の補正
次のステップはカリウムの補正である。低カリウム血症の状況下では,インスリン投与により病態の増悪を招くことになる。
インスリン投与
静注インスリンは中等度〜重症 DKA または HHS のすべての患者に投与されるべきである。ただし,K < 3.3 mEq/L 未満ではカリウム補充を優先させる。さもないと低カリウム血症の増悪により心臓不整脈を誘発させうる。
なぜインスリン投与が必要なのか?
DKA と HHS でやや理由が異なる。
・DKA の場合,そもそもインスリンが枯渇している状態であり,それに伴うケトアシドーシスの改善を目的とする。インスリンによりグルコース濃度が低下し,ケトン産生を低下させ(脂肪分解とグルカゴン産生の両方を低下させる),ケトンの利用を増大させる。
・HHS の場合,高浸透圧が問題となるため,高浸透圧の元となるグルコース濃度を低下させることを目的とする。
とはいえ,DKA も HHS も細かい治療の目的を知らずとも,結局やることは同じである。
病態によるちがい
では次に,病態として DKA と HHS の違いを見てみる。
DKA と HHS の鑑別は,ケトアシドーシスの有無により鑑別される。また一般的には HHS の方が高血糖の程度が大きい。
より平易に言うと,DKA はアシドーシスが,HHS は高浸透圧が問題となる。
これは初療後の ICU での治療効果判定を目的とした患者モニタリングに影響を与える。HHS による高浸透圧はナトリウム,グルコース濃度,尿素窒素から計算できる。また高浸透圧による意識レベル等は実際に患者をみて確認すれば良い。しかし DKA のアシドーシスはケトン体が関与しているため積極的に測りに行く必要がある。
ICU で見られるアシドーシスの代表的なものは乳酸アシドーシス,腎性アシドーシス(よくあるのは急性腎障害 AKI )等がある。前者は乳酸値から,後者は除外診断となる。ケトアシドーシスを頭に入れておかないと(本当は腎臓は悪くないかもしれないのに)腎性アシドーシス,または他の可能性が治療対象と誤認してしまう恐れがある。実際,危機的高血糖の患者は脱水も併発しているため AKI も鑑別に上がり臨床上の混乱を招く可能性はある。
危機的高血糖での DKA (ケトアシドーシス)を鑑別する理由はここにありそうだ。
ケトン体のモニタリング
ケトアシドーシスに関与しているケトン体は主に 3 つある。
- アセト酢酸
- β ヒドロキシ酪酸
- アセトン
このうち,アセトンはいわゆる ”酸” ではない。そのためアシドーシスには寄与しておらず,DKA の診断目的では使えても,増悪寛解のモニタリングとして測定する意味はない。ケト酸アニオンであるアセト酢酸と β ヒドロキシ酪酸の合計はアニオンギャップをモニタリングすることで推定できる。しかしアニオンギャップには他の不揮発酸も混ざっており,間接的な指標でしかない。(もし検査時にもアシドーシスがあるのなら)そのアシドーシスがケト酸アニオンによるものである証拠が必要となる。そこで実施するのが β ヒドロキシ酪酸の直接測定である。
最近では β ヒドロキシ酪酸の直接測定は商業的に利用可能となってきており,当院でもベッドサイドで検査できるキットが導入されている。
以上より,治療のゴールとしては
- アニオンギャップの正常化
- β ヒドロキシ酪酸レベルの正常化
- 意識レベルの正常化
- HHS では有効血漿浸透圧が 315 mOsmol/kg への降下
となる。
より詳しい資料:
Evernote ”糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)/高浸透圧高血糖症候群(HHS)”
参考文献:
岡本和文「救急・集中治療 最新ガイドライン2014-'15」総合医学社
阿南英明「救急実践アドバンス」永井書店
林寛之「Step Beyond Resident 6」羊土社
UpToDate ”Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic state in adults: Clinical features, evaluation, and diagnosis”
UpToDate ”Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic state in adults: Epidemiology and pathogenesis”
UpToDate ”Diabetic ketoacidosis and hyperosmolar hyperglycemic state in adults: Treatment”

