「鉄と草の血脈-天神編」■第七章:雷神の決意 | 「藍染 迅(超時空伝説研究所改め)」の部屋

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小説家ワナビーの「藍染 迅(あいぞめ じん)」です。

書籍化・商業化を目指し、各種コンテストに挑戦しながら、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ、アルファポリスなどに作品を投稿しています。

代表作は異世界ファンタジー「「飯屋のせがれ、魔術師になる。」。

■第七章:雷神の決意
 
翌日の夜、書き物をしていた道真の許に梅若が戻って来た。屏風の陰に控えての報告である。
 
「蹴速麻呂と申す者の居所を調べて参りました」
「うむ」
 
道真は筆を置くと、手を膝に戻し瞑目した。
 
「蹴速麻呂は関白様御屋敷から二町程離れた、さる屋敷に住み込んでおりました。其処は関白様の縁者の一人が御住まいの所です。蹴速麻呂は屋敷の納屋に、寝泊まりしております」
「牛馬扱いか。矢張り素性怪しき者の様だな」
 
「本日は二刻程体を動かしておりましたが、其の後は納屋に籠もって酒を食らっておりました」
「姿形等、見た様子を教えよ」
「はい。身の丈は六尺を超え、目方は三十貫を優に超えておりましょう。年は三十前後。鍛え上げた体をしておりました」
 
素性は兎も角、相撲の強さは本物の様である。
 
「何か変わった稽古をしていたか?」
「動き回り、体を曲げ伸ばして解した後は、大石を差し上げたりして力を鍛えておりました。其の後、仲間と組打ちに及ぶ事一刻。最後に稽古の様子が変わりました」
 
一呼吸置いて、梅若は答えた。
 
「庭木に向かい立ち、蹴り技を繰り返しておりました」
「成る程、蹴りをな」
 
道真は静かに呟いた。
 
「故事に倣って、吾を蹴り殺す積りか…」
「主様」
「案ずるな、梅若」
 
「……ふふ、ふふふ」
「いよいよ腹を括れと言う事か」
 
道真はゆっくりと目を開いた。
 
「御所望とあれば雷神の力御覧に入れよう」
其れから道真は、梅若に細々と指図を行った。

「主様……」
指図を聞き終えた梅若が改まった声を発した。
 
「御自ら蹴速麻呂と戦う御積もりですか?」
 
道真は、いっそさばさばした顔つきで答えた。
「吾でなければならぬのだ。基経様の一族郎党に至るまで、畏れを心に刻ませねばならぬ」
 
「其の為に命までお掛けになりますか…」
「其れが我が一族の定めであろう」
 
「其れよりも気掛かりは、吾に蹴速麻呂を仕留められるかどうかだ。仕掛は分かっている積もりだが、上手く動けるかな?」
「戦いの技については、私が必ず御仕込み申し上げます」
「まあ、転がせば良いのだからな。簡単な事よ。ははは……」
 
道真は晴れ晴れと笑っていた。