第二話
彼女は…。
「見てて」
そう口パクした。ように見えた。
"見てて"?
何を見てればいいのだろう。
彼女はこれから何かをするのか。
先生にばれないように教科書で顔を隠しながら、下を向いて、
そんなことを考えていた私は相当、ぼーっとしていたのか、
ぶつぶつと自分の世界に入っていたが、ふと我に返った。
ピアノを囲んでいたはずの児童は誰ひとりいなかった。
みんな、席についていた。
みんな、私を見ていた。
「ぁ、」
そんな、声になるかならないかくらいの大きさで言った「ぁ」は
音楽室の壁の無数の穴に吸い込まれた。
誰も私に声をかけてくれなかった。
そして、
「築井さん、早く座って!先生がお話できないでしょう?」
先生は優しく、語りかけるように言った。
私は黙って自分の椅子へ座った。
どうしようもないくらい、恥ずかしかった。
教室の中央にある、ピアノの正面でぼーっと突っ立っていたことが。
みんなが私を見ていた。
それに黙って席に着いたら、みんなが笑った。
先生は少し困ったように私を見ていた。
そのときふと彼女を見た。
彼女は笑っていなかった。
そして、また「見てて」と言った。
いや、「見てた」と言った。
「見てた」の「た」と同時に首をかしげた。
「見てた?」という質問なのだろうか。
分からない‥。
さっきから彼女が言っている事に対して、何も返していないが、
彼女はめげずに話しかけてくる。
実際には口ぱくだが。
そして授業が終わった後、教室に帰ろうとした私の後ろから、
「ひーちゃん!」
という声が聞こえてきた。
つづく*
