ぐうたら蜜蜂と冬の入道雲

花畑の朝は
いつも忙しそうでした
蜂たちは
ぶんぶんと羽を鳴らしながら
花から花へ飛び回ります
「急げ急げ」
「蜜を集めなきゃ」
でも
あの蜜蜂だけは
花びらの上で足をぶらぶらさせながら
空を見ていました
「またぐうたらしてる」
仲間たちは
半分あきれた顔です
けれど
その蜜蜂には
ひとつ楽しみがありました
それは
空をゆっくり流れる
冬の入道雲を見ること
冬の空は
しんとしていて
遠くまで透き通っています
そこに
ぽつんと現れる
白くて大きな雲
もこもこ
ゆっくり
とてもゆっくり
ある日
蜜蜂は聞きました
「ねえ
どうしてそんなにゆっくりなの?」
入道雲は
少し考えてから答えました
「急いでも
景色は逃げないから」
蜜蜂は
その言葉を気に入りました
それから毎日
花びらの上で空を見上げます
忙しい蜂たちは
花の香りばかり知っています
でも
ぐうたら蜜蜂は
空の色や
雲の形や
風のやさしさを知っていました

ある冬の朝
霜で白くなった花畑の上に
いつもの雲がやってきました
「きみ
今日は蜜を集めないの?」
雲が聞きました
蜜蜂は
少し笑いました
「ううん
今日は大事な仕事がある」
そう言って
花びらの上に座り
静かに空を見上げます
「ぼくはね
空を見てるんだ」
「みんなが忙しいときでも
誰かが空を見てたほうが
世界はきれいだと思うから」
入道雲は
ふわっと形を変えて
笑ったように見えました
それからしばらくして
雲は遠くへ流れていきました
春になって
花が咲くころ
新しい蜂たちが
空を見上げて言います
「ねえ
あの雲きれいだね」
そのとき
年上の蜂が
こう教えてくれます
「あれはね
昔ここにいた
ぐうたら蜜蜂の友だちなんだよ」
そして
その日から
花畑では
たまにこんな蜂が現れるようになりました
忙しい途中で
ふと花びらに座り
空を見上げる蜂
ぶんぶんと羽を休めながら
小さくつぶやきます
「急がなくても
景色は逃げない」
冬の入道雲は
今日も
ゆっくり流れています☁️
心の深呼吸 Hanaka