第1話(Bパート):『雪上ラリーでのアスファルトの勝機』




​【シーン5:ポルシェカップの遺産】


翌朝 09:00。


横浜・田中ホビーの屋外サーキットは、一面の銀世界となっていた。


雪かきをするまでもなく、常連のおじさん達(妖精さん)はすでにプロポを握っている。


おじさんA


「ひゃっほう! 四駆なら雪でも食う(グリップする)ぞ!」


​彼らの走りは異常なほど「滑らか」だった。


タイヤが空転する音がほとんどしない。ヌルヌルと氷の上を滑るように、しかし確実に前に進んでいる。


あかり


「すごい……。全然スピンしない……」


​見惚れるあかりに、店長がコーヒーを飲みながら解説する。


店長


「そりゃそうさ。彼らは普段、『ポルシェカップ』をやってるからな」


あかり


「ポルシェカップ……?」


店長


「TT-02をショートホイールベース化して、ポルシェ911のボディを載せたワンメイクレースだよ。駆動はTT-02そのままのシャフト4WDだ」


あかり


「4WDなら、安定してるんじゃないですか?」


店長


「ところがどっこい。レギュレーションでタイヤは『タミチャレタイヤ(ラジアル)』指定なんだ。グリップの低いタイヤに、ショートホイールベース独特のクイックな挙動……。おまけにスピード域は速い」


「雑にステアリングを切れば巻く(スピンする)。ラフに握れば飛んでいく。……そんな『一番難しい4WD』で、彼らは年中バトルしてるんだ」


詩羽


「……なるほど。低グリップタイヤでの高速域バトル。指先に『人間トラクションコントロール』が搭載されているわけね」


おじさんB


「おう! グリップしないタイヤをねじ伏せるのが楽しいんだよ! 雪道のコントロールなんて、ポルシェに比べりゃ朝飯前だ!」


​おじさん達の余裕の走りは、その厳しい修行の賜物だったのだ。


​【シーン6:四者四様のボディ】




10:00。 あかり達もコースインの準備が整う。


ピットテーブルには、4台のマシンが並んだ。


① 山田美香(XV-02 PRO)



  • ボディ:トヨタ GR ヤリス Rally1

  • 描写: 正統派アスリートらしく、カットラインもステッカー貼りも完璧。カラーリングは彼女のパーソナルカラーである「蛍光ピンク」と白のツートン。雪の中で強烈な存在感を放つ。


② 西園寺恭子(XV-02 PRO)



  • ボディ:フォード フォーカス RS WRC 03

  • 描写: 純白のボディに、幾何学的な「マルティーニ・ストライプ」。プロ顔負けの仕上がりで、ホイールもスケール重視の実車タイプを装着。


③ 鈴木詩羽(TT-02 ジャンク再生)



  • ボディ:スバル インプレッサ WRC 2008

  • 描写: おじさんからの貰い物。度重なる激戦で塗装が剥げ、裏打ちのシルバーが見えているが、それが逆に歴戦の雰囲気を醸し出している。


④ 星野あかり(TT-02 ジャンク再生・タッパー仕様)



  • ボディ:ランチア デルタ インテグラーレ

  • 描写: 直線的な「箱」ボディ。昨夜塗ったシューグーのゴム臭が漂う。塗装は白一色だが、無骨なリアバンパーが雪上戦車のような威圧感を放っている。


​【シーン7:XV-02の圧倒的性能】




咲良(実況)


『それではスタートです! お父さん(店長)が作った特設ジャンプ台、気をつけてね!』


Start:


4台が一斉にスタート。


性能差は残酷なほど明らかだった。


美香


「っっしゃ! 行くよヤリス!」


美香のXV-02が、圧倒的なトラクションで雪を蹴散らす。


センターデフとロングダンパーを持つXV-02は、雪のギャップをものともせず、矢のように加速する。


西園寺


「安定感が違いますわ!」


西園寺のフォーカスも続く。車体が全くブレない。


​そしてジャンプ台。


美香と西園寺のマシンは、綺麗な放物線を描いて飛び、猫のようにしなやかに着地する。


サスペンションが衝撃を完璧に吸収し、即座に再加速する。速い。


​一方、TT-02コンビは……。


あかり


「わわわっ! 跳ねる跳ねる!」


あかりのランチアは、ジャンプの手前でドタバタと暴れ、飛んだ瞬間に姿勢を崩す。


『ガシャン!』


着地で底づきし、バウンドしてタイムロス。


詩羽


「……くっ。これが基本設計の差ね。XV-02はラリー専用設計。TT-02はツーリングカー(オンロード車)の派生……。悪路走破性が段違いだわ」


​序盤は、XV-02の独壇場だった。


​【シーン8:露出したアスファルト】


​レース中盤。


何度も周回を重ねたことで、コース上の「レコードライン(走るライン)」の雪が弾き飛ばされ、下のアスファルトが見え始めた。


ここは河川敷ではなく、舗装されたラジコンサーキットなのだ。


詩羽


「……あかり! ラインが変わったわ!」


あかり


「えっ?」


詩羽


「雪を避けて! 露出したアスファルトの上を走るのよ!」


​先行する美香と西園寺は、ラリーカーらしく豪快に雪煙を上げてスライド走行を楽しんでいる。


しかし、あかりと詩羽は戦法を変えた。


あかり


「……アスファルトなら!」


​あかりのTT-02が、雪の回廊の中にできた一本の黒い道(アスファルト)に乗る。


その瞬間、TT-02の挙動が変わった。


ドタバタしていた足回りが、水を得た魚のように路面に吸い付く。


店長


「そう……TT-02は腐ってもツーリングカーだ。重心の低いバスタブシャーシは、整地された路面ならXV-02より速い!」


あかり


「行ける……! グリップする!」


あかりは、おじさん達が語っていた「ポルシェカップ」の走りをイメージした。


滑らせるんじゃない。タイヤを路面に押し付けて、グリップで曲がるんだ!


​【シーン9:オンロードの刺客】


​ファイナルラップ。


トップを争う美香と西園寺の背後に、白いランチアが忍び寄る。


美香


「えっ!? TT-02が追いついてきた!?」


恭子


「なぜですの!? あのボロ車で!」


​コーナー手前。


美香と西園寺は、ラリーの定石通り、早めに車の向きを変えてスライド(ドリフト)で進入しようとする。


「雪なら」それが正解だ。


​しかし、あかりはブレーキを遅らせた。


そこには、わずかに露出した黒いアスファルトのラインがある。


あかり


「インが……空いてる!」


​あかりはスライドさせない。


ステアリングを切り込み、オンロードレースのように「グリップ走行」でインの頂点を掠める。


美香


「グリップで曲がってきた!?」


​スライドして外に膨らむ美香のXV-02の内側を、あかりのTT-02が鋭く突き刺す。


クロスライン!




​立ち上がり。


アスファルトのグリップを活かしたTT-02の加速が、空転するXV-02を上回る。


あかり


「行けぇぇぇ! スポチュン!」


​ランチアの四角いノーズが、ヤリスの前に出る。


​【ラストシーン:湯気と友情】


咲良


『ゴォォォール! 優勝はあかりちゃん! 路面変化を味方につけた大逆転勝利!』


​レース後。


泥と雪解け水でぐしゃぐしゃになったマシンを回収する4人。


美香


「あー! マジ悔しい! アスファルトが出てくるなんて計算外だし!」


美香は悔しがるが、その顔は晴れやかだ。


「でも、あかりちゃんのイン刺し、綺麗だったよ。完敗!」


恭子


「ええ。ツーリングカーの特性を活かした走り……お見事でしたわ。わたくしも、雪の上ばかり見ていて路面全体が見えていませんでした」


詩羽


「……フン。私の指示のおかげね」


(と言いつつ、詩羽もあかりの勝利を誇らしげに思っている)


店長


「ほら、みんなお疲れ! 寒かったろ!」


​店長がワゴンで運んできたのは、湯気を立てる**カップラーメン(シーフード味や醤油味)**の山とお湯入りポット。




おじさんA


「ほら食え食え! ラジコンの後のカップ麺は格別だぞ!」


おじさんB


「あかりちゃん、優勝おめでとう! 俺のあげたパーツが勝ったな!」


あかり


「ありがとうございます……!」


​ストーブを囲んで、全員でカップラーメンをすする。


冷え切った体に、熱いスープが染み渡る。


シューグーのゴム臭さと、カップ麺の匂い。


そして、泥だらけになった愛車たち。


​あかりは、タッパーを被ったままのTT-02を見つめる。


(ボロボロだけど、かっこいいや)


あかり


「……おいしい」


​あかりの呟きに、美香も西園寺も詩羽も、ズルズルと麺をすすりながら笑顔で頷いた。


横浜の空は晴れ渡り、サーキットの雪はキラキラと溶け始めていた。