「お米の水分が下がらない・・・。」

 父の助っ人のおかげで、無事にお米の天日干しが完了し、やれやれと一息つくことが出来ました。その後は、お天道様のパワーを浴びながら、風と日光によって、2~3週間ほど待つ日々が続きました。待っている間もほぼ毎日のように干し台が倒れていないか見にいきました。2週間が経ち、3週間が経ち、お米の水分を計測してみても、水分が高いままでした。

※お米の適切な水分量は、13.5%~15%の間とされており、水分が高すぎると梅雨の時期に虫がつきやすくなり、逆に水分が低い(乾燥させすぎる)と食味が落ちるとされています。 

「なぜだ・・・。」

間違いなく言えるのは、世界中で一番新米を食べる日を心待ちにしているのは僕であるということです(笑)。原因は、通常だと晴天日が続くと2~3週間で乾くのですが、僕の田んぼは山の谷に位置しており、一日の日照時間が短いため、乾きにくいのだろうということが分りました。原因が分かれば大丈夫。日照時間が短ければ、その分乾かす日数をかければ乾くはずです。またひたすら待ちました。数日おきに田んぼに行き、お米の水分を計測しました。そして、田んぼにいっては、「山の神様、川の神様、田んぼの神様、菌ちゃん、お米さん、すべての生き物、自然の恵みに感謝します。多くの学びをありがとうございます。」と手を合わせて祈り続けました。

 そんな日々が続き、一か月後、僕の携帯の画面が光りました。「今週末、台風並みの大荒れの天気。」

風が吹けば桶屋が儲かるということわざがありますが、風が吹けば宮野(僕)がそわそわします。(笑)かけ干しが終わってから天気予報とにらめっこしていました。強風が吹くと干し台が倒れてしまい、また立て直すのは大変だからです。それまでに風が強い日があったのですが、1台倒れただけでなんとか持ちこたえてくれていました。しかし、今回ばかりはヤバそうな雰囲気がプンプンしています。そして、荒れると予報された当日、

「グォーーーーーー!!!!!」

容赦なく、強風が吹き抜けます。その日、僕は一日菌ちゃんふぁーむで仕事だったのですが、そわそわしっぱなしでした。菌ちゃんふぁーむでの仕事が終わり、田んぼに一目散に向かいました。すでに辺りは暗かったので、ライトで照らしながら田んぼを周りました。「よかった~!!!山の神様が守ってくれたんやぁ~!」と思いました。合計で干し台は、18台あるのですが、6台しか倒れていませんでした。

その瞬間、6台しか倒れていない、守ってくれたと思えた自分を嬉しく思いました。6台の干し台が倒れたという事実は変わらないのですが、それをどう捉えるのかは、心です。今までの僕であれば、6台倒れたという事実は同じでも、愚痴や不平不満が出ただろうと思います。しかし、瞬間的に肯定的に捉えられた事で、自分の成長を感じました。 

 翌日、倒れた干し台から一束一束稲束を外して、台を立て直し、また稲束をかけていきました。ただ黙々と一心不乱に目の前のことに集中していました。丸一日かかりました。体は疲労困憊でしたが、心は満たされた気持ちでした。きっとこれは神様からの最終試験で、これを笑顔で乗り越えられるかどうかを見てくれているのかなぁと思いました。

 その後、水分は少しづつではありましたが、確実に下がっていきました。しかし、雨が降り、また水分が戻ってしまいました。正直がっくりきました。それでも、田んぼに行き、「お米さん、ありがとうねぇ~。」と声をかけながら歩きまわりました。「干し過ぎると乾燥しすぎて、お米が胴割れするかもしれない。」というリスクもありました。(胴割れとは、米粒の内部に亀裂が生じる現象で、食味が低下することを言います。)正直、お米の栽培に関しては、ド素人で、右も左も分からず、恐怖の連続でした。それでも僕にできるのは、ただ信じる事、そして感謝して祈り続けることでした。

 かけ干しから約2か月が経ちました。しびれがきれまくり(笑)、お米の水分は高かったのですが、意を決して、脱穀をしました。1束1束、干し台から外してハーベスターという自走脱穀機にかけていきます。種からお世話させてもらったお米さん、これまでの思い出が走馬灯のように思い出されました。一束一束に「ありがとうねぇ。」と声をかけました。コンバイン袋に籾が入るのを見ながら一人で歓喜の声をあげました。

 脱穀が終わり、精米業者さんに持っていき、無理を言って籾摺りと精米をしていただきました。新米は、パートナーの華ちゃんと一緒に食べました。その美味しさは、天にも昇るほどの美味しさで、今までの苦労が報われた瞬間でした。泣くほど美味しいお米が食べたいという想いでやってきたお米栽培でしたが、食べるまでにたくさん泣くことになりました。僕がこのお米が最幸に美味しいと確信したのは、味音痴の華ちゃんが「おいしい!」と言ってくれた事ことでした。(笑)    【百姓小僧 宮野雅文】