転落人生 -167ページ目
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第9話 地震雷、火事、親父

ホロケナシ公園

写真:白老ホロケナシ公園の森と愛車


朝、電話で目覚める。

四歳下の妹からの電話。

「お兄ちゃん、お父さんが車を車検に出せって言ってるんだけど」

嫌な事を思い出した。

妻の母親から親父へ電話が入り、今後の債権分割について

電話を入れたらしい。

俺はかたくなに親父の介入を拒んだ。はっきり言えば堅気の人間より

闇社会の人間に恐ろしく近い存在。それが俺の親父だ。


ヤクザとも平気で殴り合いの喧嘩を繰返し、最終的に親父のパワーで

警察もヤクザもまるめ込んでしまう、恐ろしい親父である。


幼年期の頃は拳、足はもとより木刀、鉄パイプ、包丁、ありと

あらゆる鈍器で殴られ続けていた。


弟が札幌市内の暴走族に恐喝されていた時はそれこそ、

交番で族を平気で殴りつけるほどの横暴さ。

いとこがヤクザから足を洗えず、親父の元へ泣きついてきた。

なんでもシノギを手伝わされるものの、給料は一銭も

貰えず、下積み生活に嫌気が指したことが理由らしい。

それらの問題もものすごい勢いで解決してしまった。親戚内

のゴットファザー的存在。

狡猾、横暴、ライオンよりも強力で狐よりも狡猾といった表現

がぴったりの親父はわかりし頃は炭鉱で働き、屈強な男達と

毎日殴り合いの喧嘩を繰返してきた。闇討ちに会えば、返り

討ちにあわせる。修羅道を歩んできたのだ。


一方、父親としては暖かく、俺がサークル部活動を行えば

全国大会迄、ハンディカムを抱えて応援に来るほどの子煩悩ぶり。

車がはまれば、深夜でも助け出しに来てくれる。まぁ、頼りになる

親父ではある。


そんな親父に無菌室で育ったような一般家庭の主婦が交渉で

勝てるわけがない。ボロボロに攻撃されて、最悪一銭の得にも

ならないどころか、マイナスにされてしまうのは明白だ。


「お前はなんの心配もするな。俺が最後迄やってやる」


俺は狼狽した。今回の離婚騒動は俺にも大きな非があり

結果大きな傷を残すような真似はしたくない。親父には

介入しないで欲しいと告げた。


「お前、○○はもうお前の妻じゃなくて、他人だぞ!余計な

ことは考えるな」

「車は奥さんの名義だろ、お前がそれをいつまでも乗っていたら

窃盗罪になる。その車をすぐに返せ、後は○○君(妹の夫)が今回

マジェスタを買ったから、その前に乗っていた車がある。それを

お前にやるから、今の車は諦めろ!」


法律知識を熟知した親父極めてリアルな発言。

ローンが残っているとは言え、うっぱらっても二束三文にしかならない

はず。車検も一年以上残っていて、売れば売り損である事を親父

に告げた。


「バカヤロウ、向こうは車の頭金50万円を払わなかったら告訴するって

言ってるんだぞ!」


これだ、恐らくは親父の売り言葉に買い言葉の暴言により、ここまで

悪化したに決まっている。告訴は妻も当然望んではいないはず。又

相手の親もしかりだ。


かくして妻の部屋で感傷に浸っていた俺の生ぬるい夢うつつの心境は

魑魅魍魎が跋扈する現実に生きる「鬼親父」の圧倒的なパワーにより

ぶち壊されてしまった。


かろうじて堅気。それが俺の親父だ。

かろうじて堅気でいられたのは、職能能力の高さである。

とにかく仕事が出来る。一流のビジネスマンであった。

風雲急を向かえる。俺の人生は泥にまみれている。

第8話 記憶を抱いて眠る

白老

photo/白老三階滝公園線


明け方、夢を見た。妻と二人でどこか旅行に行こうとする夢。

秋田かどこかに行きたいね。鳥海山とか行ってみたい、でもお金の

問題があるね・・・・。


モノクロの夢ではなく、見た夢はフルカラーだった。


何かの占いでは明け方のフルカラーの夢は神様が見せている夢といっていた。


目が覚めて、出かける準備を整える。


洋服関係は妻の部屋にあるタンスにしまっている。


敷きっぱなしの布団にふと座ってみた。


「抱きしめて欲しい」「私のこと本当に愛しているの?」


いつかの妻のいたずらぽい笑顔が脳裏に浮かんできた。


子供は三人ぐらい欲しいね。男の子よりも女の子が欲しい。


もう二度と戻ることのないある日の光景と、二人の未来

を思い浮かべながら、再び寝りについた。


神が見せるフルカラーの夢は再びみることは出来なかった。






第7話 黄金時代から没落迄

居酒屋


最愛の妻と別れ、独身になった。

空虚感に包まれることもなく、不思議な解放感を感じている。

結局は妻の存在も「ストレス」の一言で片付けられてしまうの

かもしれない。


押しかけ女房のような形で押しまくられ付き合い始めたのが

俺が24歳の頃。妻が21歳の大学生であった頃の話だ。

当時、妻は遠距離恋愛をしていたが、ありがちなパターンで

破局。常に誰かを愛していないと落ち着かない彼女は俺を

ターゲットにした。嘘のような話ではあるが、この時もなぜか

モテモテの黄金期で、一番母性的な雰囲気を持つ彼女を

選ぶことになった。思えば23歳から結婚迄は幸せの絶頂期

正直に言えば、好みのタイプではなかったが、付き合うので

あれば長続きする女性がいい。「女性遍歴を繰り返すのは

時間の無駄」といった妙にストイックな精神の元、彼女と

付き合うことになったのだった。当然ながら「据え膳」も喰わ

なかった。営業先にも俺のファンの女性社員が沢山いた。

地元では偏差値が高い某女子大学に在籍していた彼女は

知的で当時、知的欲求に渇望を覚えていた自分にはうって

つけの話し相手だった。そう、あくまでも話相手のレベルで

あり、恋愛の対象からはほど遠かったのだ。俺は好きになる

努力をし、ほのかな恋愛感情を積み重ねて、SEXへ至った。

関係を持てば情が沸く。思えばここらへんで無理があった

のかもしれない。俺が今日迄、彼女と付き合い、結婚生活

を送っていたのは恋愛感情ではなく、あくまでも「情」のレベル

だったのかもしれない。

外で散々会っていたにも関わらず、帰宅後、二時間近く

電話で話す日々。当時は車を持っていなかったが毎日

迎えに行っていた。飲み会があれば深夜3時でも迎えにいく

結婚してからも毎日職場迄迎えにいく日々だ。自分でいうの

もなんであるが、これ程献身的な夫は中々いないのではな

いだろうか?幸せと引き換えの不自由な生活が俺の身体を

蝕み、入籍とほぼ同時期に病気にかかった。又、某外資系

企業に勤務していたが、戦略の変更により、地方の営業マン

は全てリストラ。結婚と同時に俺の転落人生のプロローグは

幕を上げたのだった。当時手取りで30万近かった給与が

リストラにより激減。派遣のSVになり、某ISPの販売業務

に従事し、ひたすら売り上げを上げるべく頑張った。だが

派遣のコーディネーターとの兼ね合いが悪く、失意のまま

派遣先を後にすることになった。お世話になった職場はい

つも綺麗に辞めるのがモットーの俺が、初めて「後味の悪い

辞め方をした瞬間」だった。それからは前職につき、現在

に至った。前職を退職した経緯は後日説明するつもりだ。


振り返ってみると入籍から俺の人生は総崩れを起こした。

・失業

・モテなくなった(笑)

・病気

・覇気がない、ハングリー精神の欠如。

・無駄に太ってしまった。

・どんどん所得が下がっていく


一方、彼女はどんどん運気がよくなり、会社では上昇気流にのり

出世街道まっしぐら。


どうにも入籍による因縁めいた何かを感じずにはいられない程

俺の運気は低迷し人生は失速するばかりであった。


籍を抜くことで失われた何かが甦るかもしれない。

俺の第二ステージは今始まったばかりだ。

第6話 黄金時代


居酒屋を経営する会社の役員に「京一さん、移動とか可能かな?」

と突如話を切り出された。

バイトで移動という話はどうにもしっくりこないが

どうやら俺の能力を買われているらしい。

暗に社員になって店長になって欲しい等の要望が

見え隠れする。

バイト期間を含めた10年もの間、外食業界に従事

していた俺にとって、飲食店の運営なんぞは朝飯前

である。井の中の蛙になる事を恐れて、外食業界から飛び出し、

その後はコンサルタント、ベンチャーキャピタル、IT業界の順に

飛び込み、現在に至っている。

外食向きとは全く考えたこともないが、やはりこの世界の水が

俺にとってどうにもしっくりくるらしい。

「いえ、まだまだこの店で勉強したいことがありますので・・」

と遠まわしにお断りした。

外食業界から離れた数年間で一通りのビジネスマナーを体得

した。外食業界ではビジネス文章作成はおろか名刺の受け渡

しすら満足に出来ない人間が普通にいるのだ。

ベンチャーキャピタルの世界にいた時には外食業界の経験が

随分と生きた。FC新規立上げの物件探し等、それこそ独立

開業の為のノウハウが巷に溢れていたのだ。

この会社の勤務時が俺の黄金期といえば黄金期であった。

要するに会社の女性からモテモテだったのだ。(笑)

今思えば信じられない話ではあるが、社内のドン的な存在の

女性が、他の女性社員に「結婚するなら、京一さんみたいな人に

しなさい!」と折々に話していた為、こそばゆい思いをしていた

ものだ。やはり男は営業の最前線にいてこそ輝き、かっこよく

いれるもの。前職についていた一年間は俺にとってまさに「死んだ時間」

であった。計三年間勤め上げたが、最初の二年は楽しかった。

自分のポテンシャルを存分に発揮させてくれる上司の下にいたからだ。

三年目に移動した部署と管理者が最悪だったことにより、本格的

な低迷が始まった。これがなければ最愛の妻との別れも回避出来ていた

かもしれない。歴史にIFは禁物だ。結果こうなってしまった以上、

前を向いて頑張るしかない。又、今後は管理者に左右されない強力な

メンタルを維持、強化しなければならない。最初の二年間、接していた

上司がこれまであった中で「最高レベル」に位置する人間だった為、

移動先の管理者のあまりのレベルの落差に俺自信の精神を支えきれず

に崩壊してしまった。まさに移動が転落人生の序章だったのだ。

「かっこいい自分」を取り戻す為に、俺は立ち上がる。再び黄金時代を

迎えるべく。


第5話 仕事に没入

深夜

前回、就職活動とは別に、居酒屋でバイトしている話をしてみた。

居酒屋には休みなしで出勤しているが、不思議と全然疲れないし

辛くもない。仕事をかけもちしていないことも理由の一つだとは

思う。又、前職とは違い、周囲から必要とされている、自分の能力

をいかんなく発揮出来る「環境」があることが大きいのかもしれない。

魚を捌きながら、ふとそんなことを考えていた。

休みなしで仕事に没入出来る自分・・・。

周囲に必要とされているから?生きがいと感じれるから?それが理由か?

哲学好きな俺はひたすら考える事が好きだ。

とりとめもないことを考えていたが、ふと閃いた。


「自宅で待たせる妻がいないから」だ。


4年という共同生活の中で彼女の存在が占めていた割合は高く、

寂しい思いをさせたくないばかりに、昼も夜も極力連勤は避けて

いたのだ。昼は週休二日は必ず取り、夜は連勤はせず、2日に

一回は休み、そんなペースで今日迄仕事に取り組んできた。


夜は一つの布団で一緒に寝る。どんなに遅く帰ってきても一緒に

寝る。愛のあるSEXをする。休日は妻を車に乗せて、あちらこちら

ドライブに行ったり、おいしい店を探しにいく。買い物に付き合う。

まめにメールを返信する。妻の実家にはなるべく顔を出して食卓

を囲む。そんな生活を長い間繰り返してきた。


俺って奴はどうも愛情を長く維持させることが得意な男らしい。

いつでも新鮮な気持ちで妻を深い愛情で包んできたのだ。


それはこれからも変わらず、お互い年をとっても海岸を手を

つなぎながら歩こう。浮気なんぞはせず生涯愛し続ける覚悟を

決めていた。文章にするとなんて臭いことを考えるヤロウだ!

なんて自分でもこそばゆい感じがするが、まぁこれが本音だ。


愛情を傾ける存在がなくなった今、いままでにないレベルで

仕事に没入する自分がいる。これはこれで心地がいい。

一人の寂しさを紛らわせることが出来る。


深夜、仕事を終えて帰宅する。以前は暖かい空気に包まれた

部屋が今は冷たく、無駄に広々とした部屋は冷え切っている。


整理整頓する人間がいない今、郵便物が雑然とテーブルの上に

ところ狭しとひしめき合っている。


来月の半ばには妻との思い出が詰まった自宅を出て、新居へ引越し

をする予定。





第4話 日雇い

4月いっぴづけの就職は難しいことがわかった。

だが、居酒屋バイトだけでは限界があるので、食いつなぐ為にはいとわず仕事につかなきゃならんのだ(笑)求人雑誌をざっと眺めてみる。単発、肉体労働系のバイトは日払いで、給与も比較的高い。夜の居酒屋と平行して、昼間は洋食系の店でのバイトを目論むも給与があまりにも安すぎるし、当然しがらみも出てくる為、辞めにくくなる。登録制の単発バイトを扱う求人を見つけた。オートバックス等のタイヤ交換の人員

募集だ。これが中々の高給であった為、早速電話してみると・・・「いやー募集があまりにも多くて、今は経験者しかとってないんですよ~」の返答。確かに俺は車好きではあるが、タイヤ交換なる仕事についた事は

一度もない(笑)では仕方がないですねぇ・・といった話で終わろうとしたところ、「ただ、他にも仕事はありますよ」

俺「どんな仕事ですか?」

担当「まぁホームセンター等の自転車販売とかですね。時給も悪くないですよ」

担当「お宅様は電話応対がしっかりされてますので、通常は案内しませんが、人間的に大丈夫

だと思いましたので」との事。

そらそうだよな。前職は「コールセンター」ですから(笑)すばらしくないわけがない(笑)


担当と面接日時の約束をし、電話を切った。

前職の経験は全く無駄になっていなかったってことか・・・一人で勝手に関心していた。


翌日、札幌市内中央区の某ビルの派遣事務所を訪れる事にした。

センター就業時はラフスタイルだが、面接は当然ながらスーツ着用が基本。

エレベーターを昇り、さて、事務所へ・・ええ?なんだこりゃ?

派遣を経験している人ならばご存知かもしれないが

大手派遣会社のオフィスはそれはそれは綺麗なもので、どこかのカルチャー

センターのような雰囲気だが、ここは鉄製の扉がどーんと目の前にあり、

サーバールームかボイラー室を彷彿させる雰囲気。バイドハザード

さながらですな、扉を開けたら狂犬かゾンビが出てきそうな感じだ。

扉の前に張り紙がついている「登録希望者に対するルール説明」が書かれている。


おそるおそる扉をノックする


「がちゃ!扉が開いた」


女性「はい?いかがいたしましたか?」


俺(いかがいたしました?いや登録以外に何があるんだ?)


俺「いえ、先日お電話を差し上げまして、本日登録の為、お伺いした

ものですが・・」


女性「ああ!わかりました!ではこちらへどうぞ!」

俺「・・・・・。(ここ大丈夫か?)」


周りを見渡すとお洒落とは程遠い雰囲気で、雑然とした雰囲気

の中、スーツ未着用の男性がひしめき合い、担当営業の話を

聞いている。どうやら就業規則についてのようだ。


なんだか場違いな場所に来た感が否めず、帰りたくなったが

まぁそれは我慢だ(笑)


しばらくして担当営業が俺のテーブルにやってきて、先程連中に

話していた内容を機械的に話し始めた。


担当「服装や身だしなみは・・問題ないので飛ばしますね」


一通り話しが終わり、後は仕事内容を伺うだけになった。


担当「仕事の期間は・・次の仕事が決まるまでの間ですね!」

俺「はい(あら!勝手に決めちゃってるよ)」


ようやく状況が飲めた。要するに俺は他の連中と比べると「毛並み」

が違うのだ(笑)こんな日雇いバイトにスーツで訪れるような人間は

ほぼ皆無のようだ。だから冒頭で女性と対話した時に要領を得られなかった

のは「どこかの営業マン」だと思われていたかららしい。(笑)

又、就業規則を読めば「人としての最低限度の立ち振る舞い」を求められる

ような記載内容が多かった(笑)


日払いの給与については翌日、事務所迄直接取りにくることがルール。

さっそく、仕事を終えたブルーワーカーが給与を貰いにきていた。

担当に挨拶をし、事務所を後にした。

エレベーターに乗ろうとしたところ、先程のワーカーが歩いてきたが

俺も見るなり、目の前を素通りしていった。

恐らくはスーツ着用者に対するコンプレックス等があるのが見て

取れた。やはり外見は重要ってことか。(笑)





第3話 見知らぬ着信番号

先日も早朝迄、居酒屋でバイトだった為、昼頃惰眠を貪っていた。

さて、そろそろ起きねばならんと思い、携帯電話を確認すると見知らぬ番号の

着信表示があり、「誰だろ?」と思いかけ直してみた。すると


「あ~あのですねぇ、都合がつけば土曜日に○○条のファミレスで

会おうと考えてるんですけど~」と年配女性の声。


名乗りもしない為、誰だか皆目見当がつかない。


は?誰?間違い電話?と思うものの、マシンガンのように話続ける

オバハンの話を一方的に聞かされる羽目になった。なんだか意味が

わからない。俺はどちらさまか確認しようとしたところ「京一さんの都合

はどうですか?」との事。


ようやくわかった。


離婚した妻の母親からの電話だったのだ。


オバハン「京一さんの両親にもお会いして、出来ればね、お話し合いをしたいんですよ」

俺「そうですか、では両親に都合を聞いてみますので、又連絡します」ということで

一旦電話を切ることにした。


今更、話し合いなんぞで「離婚解消」になる可能性は限りなく低い。


用件は一つだ。


「二人の生活で結果的に生まれてしまった債権処理」についての話し合い

に他ならない。


債権は数百万円。そこには俺の愛車のローンも含まれているはずだが、それに

しても金額が尋常じゃない。そもそもなぜそこまでに至ったのか?

確かに俺の失業期間は彼女に支えてもらったし、経済的負担をかけたことも多々

にあったが、あまりにも金額がデカイ。全て妻名義の債権である。


妻からは別れるに際して、ありえない程の有利な条件で離婚調停内容を作成してきた。

「車の債権000万円以外は全て自分が引き受けることにするので、離婚して欲しい」

「京一さんには過去はよくしてもらったし支えてもらったが、今は未来が見えない」


離婚の話し合いは俺の友人と妻の三人でファミレスで行った。

話し合い当初、年上ではあるが親友の男に涙を流された。

一度は疎遠になり、二人の結婚式には招待が出来なかったが、

しばらくして親交が深まり、現在に至るわけだが、妻の「離婚調停書」

「裁判権、債権処理等」のドラステックな話を展開し始めたところで

友人もサーと気持ちがさめてしまったらしい(笑)


俺は一人ファミレスに残り、親友が妻を車で最寄の地下鉄迄送っていた。


しばらくして友人がファミレスに戻ってきた。


友人「今度、どうしていくつもりだ?復縁する方向でお前は努力するのかい?」

俺「うーん・・・確かに俺が悪い部分はあるし、でもねぇ」


付き合い始めから結婚式迄、二人の幸せの軌跡である記憶を共有している人間

には本当につらい話ではある。結婚式も数百人の人間が集まり、

それはそれは人も羨むようなすばらしい結婚式だったのだ。


俺「・・・でも、なんだか復縁できなくてもいいって考えてるんですよね、実は」

俺「悪いんですけど、あそこまで否定されたら、復縁する気持ちも正直失せました」

友人「・・・そうだな、あれは復縁しなくてもいいだろうな」

俺「?」


涙涙の別れ話の後に、ドラステックな離婚調停等の話を妻から切り出すとは

全く考えてなかったらしい。


友人「まぁ、京一もよかったよ、これであえてフリー宣言だ(笑)楽しく違う人生を

 生きればいいよ」

友人「俺も同様のトラブルが今後起きる可能性があるってことだから、今回は

 いい勉強をさせてもらったよ。」


彼も又、既婚者であり、有能な営業マンではあったが、独立開業を目指す為に

一度、住み慣れた業界から違う業界へ飛び込んだものの、当然ながら所得は

半分以下に下がってしまった。女医である奥様の給与が上である事は言うまで

もない。ただ、彼の場合は計画的に転職、再度住み慣れた業界で幅広く事業を

展開する為の「布石」ってやつだ。


義母の電話を切ったのち、まずは離婚話に立ち会った友人に電話をかけた。


俺「なんだか、両親を含めて話し合いをしたいとか言ってきてるんだけど」

友人「まぁ、金のことだろうな、当然」

友人「なんやら弁護士に相談とかしているみたいだから、京一ももたもたしない

 で迅速に動いた方がいいぞ。どんな悪知恵つけてくるかわからないからな」


離婚話の際に涙を流した友人の極めて現実的な意見に、わずかばかり残っていた

ほのかな思い出と希望が吹き飛んだ瞬間だった。


実家にいる両親に電話をかけた。

「事情はよくわかった、取りあえず帰っておいで」と母。


決戦は土曜日。




第2話 居酒屋のバイト

4月いっぴからの仕事始めはどうやら無理のようだ。

現在は前職に在籍中から始めていた居酒屋のバイトのみが唯一の収入源だ。

前職に在籍していた頃はそれこそ、終業して速攻で地下鉄迄走り、ギリギリ

店に入ってバイトを続けていた。管理者側の都合により、遅番固定で勤務して

いた時は昼からの出勤だった為、睡眠時間は確保出来るが、21時に終了、

居酒屋が22時開始。当然ながら残業なんぞは出来るわけもないのだ。

受付専門のコールセンター勤務においてはあたりが悪ければ、長時間もの間、

顧客に捕まってしまう為、居酒屋の入店時刻に間に合わない場合を想定し

後処理時間をコントロール、会話をコントロール、涙ぐましい努力の元、俺の

かけもち人生は成り立っていたわけだ。ここの居酒屋の従業員の平均年齢は

20歳。一方俺は30代。ジェネレーションギャップに苦しみそうな環境ではあるが

、全然そんなことはなく、毎回楽しく過ごしていた。俺の担当は厨房。要するに

フライパンを振り、刺身を捌き、焼き鳥を焼き、サラダを作る、といった調理だな。

昼の仕事では椅子に座り続けて、アホな顧客からの問い合わせに追われ、スト

レスばかりが溜まる環境ではあったが、夜のバイトのおかげで心機一転、相当

リフレッシュできたものだ。元々、外食業界の水を10年程飲んでいた為、恐らく

は「天職」と思えるぐらい向いているのだろうな(笑)役員からは「京一さんいるから

大丈夫だね」等、店長より信頼を寄せられ、買いかぶりだよなぁと思いながらも

居心地の良さを感じていた。


第1話 転職活動で苦しむ。

4月からあたらしい場所へ転職するつもりが

中々上手くいかない。自分で探すのは面倒なので、派遣会社の

紹介予定派遣なるもので、新しい職を探すものの、全然いいもの

が見当たらないのだ。背伸びしているわけでもなく、高望みしている

わけでもないが、ないものはない。

唯一、自分で動いてみた会社については「不採用通知」なるものが

届いた。

前職のコールセンター業務であれば、明日からでも働けるものが

沢山あるが、3年間のカスタマー業務に嫌気がさした俺は前に経験した

の営業職で今後は生活していこうと考えている。

又、現在の住居も退去せねばならない。まぁ離婚による引越しなんだが

転職活動がままならない状態で引越し迄気がむかないのだ(笑)

最悪、レンタル倉庫か何かに荷物を預けて、しばらくは実家待機なる

ワザも検討中ではあるが、出来ればそれは避けたいものだ。



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