ウッカリカサゴのブログ

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日本産魚類の仔稚魚のスケッチや標本写真、分類・同定等に関する文献情報、
趣味の沖釣り・油画などについての雑録です。

 

写真集 薩摩海記
著者 松田康司 (まつだ・こうじ)

 

2024年10月10日第1刷発行
A4判変型 104ページ
定価 (販売価格) 2,500円(税込2,750円)
発行所 株式会社 南方新社
〒892-0873 鹿児島市下田町292-1

https://www.nanpou.com/?pid=182114363

人間生活の傍には豊かな海が広がっていた

温帯種から亜熱帯種まで、1300種もの魚たちが暮らす鹿児島の海。
水中では無数のいのちの営みが繰り広げられている。
天の川のように輝くキンセイイシモチの仔魚放出、梅雨の頃のイサキの大群、水玉模様がチャーミングなシリウスベニハゼ──。
水中ガイドとして日々、いのちと向き合う著者の色鮮やかな記録。

目次
Chapter 1 すぐ足元に広がる自然     10
Chapter 2 人の暮らしと海     24
Chapter 3 生き物たちの暮らし     36
Chapter 4 夜の海     54
Chapter 5 鹿児島の海に暮らす生き物たち     62
Chapter 6 海の変化     72
Chapter 7 海から教わる     82

Chapter 8 記憶に留めたい景色     94
あとがき     102



裏表紙写真 「旅するもの」


浮遊する紫色の美しい円筒状のヒカリボヤの中に、1匹の稚魚が身を寄せていた。
稚魚にとって大海原を生き抜くことは大変なこと。
捕食者に狙われ、抗うことのできない潮流に揉まれ、その時々を懸命に生きるのだ。
まるで、人間社会で生活をする僕たちのようでもある。
潮流に乗り、目の前を通り過ぎる刹那、ファインダー越しに稚魚と目が合った。
その目には不安と希望の光が見えた。

著者紹介
1986年生まれ。鹿児島市出身。
潜水士として日本各地の海に潜り、主に生物調査や撮影を行う。
その後、地元鹿児島の海で水中ガイドとして活動をするため、2007年(株)FabreダイビングショップSBを設立し、鹿児島湾と薩摩半島全域をベースに水中ガイドとして活動。
昼夜を問わず海に潜り、海の神秘を追い続ける一方、NHKなどのテレビ番組の撮影や水中ガイドを数多く担当する。


あとがき

海よ教えてくれ波よ聞いてくれ

生まれ育った鹿児島の海で、毎日のように潜るだけで、特別な知識や感性もない僕は、海の水の冷たさや、独特な水の濁り具合の中で泳ぐ魚の存在を感じているだけで幸せでした。

何となく見ていた珊瑚が、ある日ふと見ると、とても大きく成長していた時の驚きや、全然見かけなくなったアオウミガメを残念に思い、初めて見る魚に歓喜するという、一つひとつの出来事に一喜一憂するだけの日々が、どこかもったいないと思い始めたのです。

水中ガイドという仕事を通して日々の記録をつけ始めると、たくさんの疑問が湧いてきます。

そんな時には不思議なもので、その時々で水中ガイドの先輩や仲間に出会い、水中写真家の方々にもたくさんのアドバイスを頂き、研究者や先生などの有識者にも惜しみなく研鑽の成果を公開頂き、勉強させてもらいました。

海は広いと言いますが、本当にその広さ故に関わる人々も多く、海に繋いでもらった縁も計り知れずあり、「知りたい」という想いを海にぶつけ続けると、海が様々な形で応えてくれるのです。

鹿児島の海には、多くの人々が憧れるような、白い砂浜に珊瑚礁、色とりどりの熱帯魚はいないのかもしれません。

人々の生活の痕跡が海に捨てられ、港には多くの漁船が並び、たくさんの貨物船や旅客船が運航する、一般的な「美しさ」とは掛け離れた海なのかも知れません。

しかし、よく見ると海底の空き缶には魚が住み着き命を育み、濁りの中では回遊魚の群れが行き交い、ビルが立ち並ぶ足元には豊かな海藻の森が広がっているのです。

きっと、鹿児島に住む人ですら知らないことに触れていると思うと、込み上げる少しの高揚に反して、知ってもらうにはどうしたらよいのだろうかと思い始めました。

知らずとも、これまで通り何ら変わらず暮らしていける訳ですが、この海の変化や兆候が例えば魚の水揚げに影響し、鹿児島では旬の食材で食卓にも上がる魚が、とても髙価になったり、あるいは水揚げがなくなったりすると、巡り巡って僕たちの生活そのものを脅かすことになるかも知れません。

高額な旅費を掛けずとも、豊かな海にすぐ泳ぎに行けるかも知れません。

この本をきっかけに、今の鹿児島の海を感じ、年月が経った頃には昔の鹿児島はどんな海だったのだろうかと思いを馳せて頂けたら幸いです。