気が狂うほどむつかしい 作 宇宙人参
登場人物
粕谷久志 17歳 高校二年生
阿部亮治 17歳 高校二年生
安倍健太郎(アベケン) 17歳 高校二年生
結家純奈(ジュン) 16歳 高校一年生(女性)
滝田晶(アキ) 17歳 高校二年生(女性)
高校の仲良しグループ。全員でサッカーゴールを運んでいるときに、突風による事故で、粕谷は右足を失ってしまう。
粕谷を励ますために、努めて明るく接するが、やはり無くなった右足をみてしまうと気持ちが落ち込んでしまう。
全員それでもがんばって盛り上げてください。
粕谷もみんなが気遣ってくれているのが分かるので、がんばって明るくしようと頑張ってください。
病院の一室
スタートは全員テンポ良く会話を繰り広げてください。
いきなり不穏な空気を醸し出すと視聴者に展開がバレます。
会話が盛り上がった続きで↓
ジュン 「で、ここの病院、東館もあるのね」
粕谷 「ああ、ごめん。俺もよくわからなくて」
ジュン 「いや、いいんだけど。そしたらなんか誰もいなくてさ」
アベケン 「スゲー怖かった」
ジュン 「そう。もうアベケンが『怖ええ怖ええ』ってうるさくて」
アベケン 「なんかいたって、あそこ」
阿部 「出たよ、アベケンの『なんかいた』」
アベケン 「いや、本当。なんかいたって、あそこ」
ジュン 「ほら、病院だからさ。アベケンの『なんかいたパワー』もマックスなんだよ」
アベケン 「いや、マジでなんかいたって」
阿部 「お前、群馬の川行った時も同じこと言ってたよな」
粕谷 「言ってた。向こうの岸になんかいるって」
アベケン 「いや、あれもなんかいたって」
阿部 「もういいよ」
アベケン 「いたんだって。群馬チョーやべぇよ」
ジュン 「アタシさ、みんなで粕谷のお見舞い行こうってなった時、ぜってーアベケンが『なんかいる』って言うと思ってた」
阿部「結局、来て5分で言ってたもんな」
アベケン 「なんだよ、やめろよ。なんか恥ずかしくなってきた」
全員笑う しかしすぐに静まる
アキなりに空気を変えようとして↓
アキ 「…粕谷、何か飲み物ほしい?」
粕谷 「あー大丈夫。ありがとう」
ノリわるいじゃーんwくらいのテンションで↓
ジュン 「アキ、なんか静かじゃん。喋りなよ」
アキ 「今喋ったじゃん、飲み物ほしいって」
ジュン 「もっとさ、こう」
粕谷 「いや、いいって。やめてよそんなの」
ジュン 「ああ、うん」
なんとか絞り出して↓ (でも気遣いなのは忘れずに)
アキ 「林檎とか」
粕谷 「ん?」
アキ 「林檎とか、果物は?いる?」
粕谷 「大丈夫。ありがと」
すかさずノって↓
ジュン 「ハイチュウあるけどいる?」
粕谷 「大丈夫」
全員が笑えるようにツッコんで↓
アベケン 「田舎のおばあちゃんかよお前ら」
全員笑う しかしすぐに静まる
阿部 「ンダァァァァァァァァァァァ!」
全員驚く
阿部 「お見舞いコォォォナァァァァァ!(一人で拍手)静寂を打ち破る、お見舞いコォォォ・・・」
粕谷 「え、ゴメンゴメン、静かにして」
ジュン 「何、気でも狂ったの?」
すみません、は他の入院患者に↓
アキ 「迷惑でしょ?すみません」
周囲に↓
阿部 「あ、すみません、すみません」
失笑↓
粕谷 「なんなんだよ」
声デカく↓
阿部 「もうね、こんなね、気い使って何喋っていいかわからないみたいなの、俺は大嫌いなのでゴザイマス!」
たしなめる↓
アキ 「まだ声デカいよ」
もっと声デカく↓
阿部 「こんなの、俺たちっぽくないのでゴザイマス!」
だめだこりゃw↓
アベケン 「こいつアホだ」
ど、どういうこと?↓
粕谷 「何、お見舞いコーナーって。お見舞い来てくれてるじゃん」
ふいを突かれて落ち着く↓ ↓ここからテンション高
阿部 「違うよ。お見舞い品?あれ、なんつうの?お土産?お見舞いコーナーとは、それを披露するコーナーなのです」
だめだこりゃw↓
ジュン 「こいつアホだ」
粕谷 「えー悪いなぁ、いいのに」
リングアナ風に↓
阿部 「オッケー、誰から言っちゃうノ?ジュンから行っちゃう?ねぇ、ジュンから行っちゃうの?」
気を取り直して盛り上げていく↓
ジュン 「うぜぇ。まあいいや、じゃあアタシからね」
阿部 「オッケーオッケー!ジュンから始まっちゃうお見舞いコー…」
一言目で黙らせる気迫を↓
アキ 「阿部、本当に迷惑だから。お願いだから静かにして」
阿部 「え、だって、こんなテンションどうやったら小声でできんだよ」
アキ 「やんなきゃいいじゃないのよ」
アベケン 「隣のおじいさん笑ってるぞ。本当にすみません」
粕谷 「鳥越さん、ごめんなさい」
粕谷が喜ぶと確信して↓
ジュン 「えっと、じゃあアタシからね。(紙袋の音)はい(SEドサッ)
粕谷 「おーありがとう。開けるね」
嬉しくなる↓
ジュン「うん」
粕谷が紙袋をあける
みんなテンポ良く
粕谷 「おー…これね!なんだっけ?」
ご満悦に↓
ジュン 「知恵の輪」
全員微妙な反応で↓
アキ 「あー、あのはずすやつね」
アベケン 「おーおー、うんうん」
粕谷 「ありがとー」
ジュンだけご満悦↓
ジュン 「うん!」
アベケン 「知恵の輪ね、うん」
全員静まり返る
ここから全員テンポ良く↓
ジュン 「…え、待って。なにこの微妙な反応」
粕谷 「いやいや!嬉しいよ!本当!」
アベケン 「いやいやいや!いいじゃん!ねぇ!」
アキ 「いやいや。あの。」
阿部 「おぉーっとジュン選手、微妙なモノを送ってしまいました!」
すかさず食らいつく↓
ジュン 「なによ微妙なモノって!」
アキに聞こえないように↓
アベケン 「阿部ぇ、気い使えよ」
もっと食らいつく↓
ジュン 「なによ気い使えって!!」
粕谷 「みんな何言ってんの。本当、うれしいよ。ジュンありがとう」
阿部 「粕谷の気遣いが逆に痛々しい!」
阿部を一喝↓ ↓ちゃんと説明する
ジュン 「阿部うるさい。みんな知らないんだよ。知恵の輪のおもしろさを!」
アベケン 「ジュン変ってるね。そんなん好きなの?」
アベケンに言う↓ ↓全員に言う(ウキウキで)
ジュン 「おもしろいんだよ?あのね、難易度が分かれててむつかしいのになると、もう気が狂いそうになる」
びっくりする↓
アキ 「なんてもの贈ってんのよ」
ふと気になって↓
粕谷 「この箱に入ってるのは?」
さすがいいところに気が付く!という気持ち↓
ジュン 「それは特別製なの。ハナヤマってメーカーが出してる『キャストパズル』ってすごい知恵の輪よ。こいつは本当に気が狂う」
阿部 「なに、粕谷の気い狂わせたいの?」
ふふんと自慢げに↓
ジュン 「こんな完璧な暇つぶしの手段ないよ?堪能してね」
ちゃんと感謝↓
粕谷 「うん、やってみる。ありがとう」
またまた~↓
アベケン 「粕谷、絶対やんないでしょ」
んなことないって~↓
粕谷 「いや、やるよ」
確信をもって↓
ジュン 「いや、粕谷はハマるね、知恵の輪に。なんとなくこっち側の人間だって前から思ってた」
ドン引き↓
アキ 「なにこっち側って」
リングアナ風を忘れずに↓
阿部 「オッケー、じゃあ次は?アキ行っちゃうの?
言おうとするけど↓ ↓心の準備が・・・
アキ 「あの、私は、あの、後で」
肩透かし↓ ↓テンションあげて
阿部 「あ、そう?じゃあ俺らいっちゃう?」
ジュン 「え、何?あんたら二人で買ったの?」
アベケン 「ぬふふふ、はい」
ちょっと嫌な予感がする↓
粕谷 「ありがとー。何?本…?ゲームの雑誌?」
アベケン 「お前、3DSだよな、持ってるの」
どゆこと?↓
粕谷 「うん」
自慢げに↓
アベケン 「その雑誌読んで、好きなソフト一本選べ。俺たちで買ってきてやるよ」
ジュン 「おー、まじで?豪華じゃーん」
なんとか角が立たないよう断る↓
粕谷 「いやいや、それは悪いって」
↓一緒に雑誌をみる動き
阿部 「遠慮しないの!ほら、選ぼうぜ」
困ってるのを感じ取る↓
ジュン 「えー、じゃあさ、みんなで同じの買って、みんなでやろうよ」
それに気が付かずにノッて
アベケン 「いいねー。じゃあ、みんなで出来るのにしようぜ」
ジュン 「アキ、3DS持ってたよね?」
アキ 「うん、弟のだけど」
粕谷 「いや、本当に悪いって。金かけすぎだよ」
誰に話してるか注意↓
阿部 「いいの!もう決めたんだから。なあ」
テンポを忘れずに↓
アベケン 「おう」
しみじみ↓
ジュン 「男だねー、アベーズ」
アベケン 「やめてアベーズって」
粕谷置いてけぼりで盛り上がる↓
ジュン 「ねえ、アレにしない?名前分かんないけど、野菜育てたり、牛から牛乳しぼって、それ売ってお金貯めるゲーム」
みんなテンポを忘れずに
阿部 「なんだよそれ」
アベケン 「お前、本当に変わってるよな」
阿部 「えーなんか戦うやつがいいよ。みんなでなんか倒す系のやつ」
ジュン 「野菜売ったり、牛乳絞ったりするのにしようよ。何か倒したくなったら、その牛殺せばいいじゃん」
やめたれやw↓
阿部 「かわいそうだろ」
アベケン 「粕谷、マジで遠慮すんなよ」
粕谷 「あー、いや」
ジュン 「アキってさ、ゲームってあんまやらないの?」
アキ 「あーやってたよ、どうぶつの森」
アベケン 「あーぽいぽい」
ジュン 「そういうさ、平和なのにしようよ。なんか倒すとかじゃなくて」
阿部 「お前の言ってる、その野菜を売るとかいうゲームって動物の森じゃないの?」
ジュン 「違う。なんかね、もっと農業色が濃い」
アベケン 「農業色ってなんだよ」
全員の空気を変えるためにしっかりと↓
粕谷 「いや、あの、ゲームはいい、マジで」
努めて明るく↓
阿部 「…そうか。なにか別のがいいか」
粕谷 「違うんだ。本当、ごめん」
アベケン 「いや、いいのいいの」
意を決して↓
粕谷 「あのさ…手術の後、傷が落ち着いてから、ちょっとやってたんだ、ゲーム。でもさ、なんかできないんだよ。いろんなこと考えちゃって。これって何の意味があるんだとか、考えちゃって…だから、お金もったいないよ。でもありがとうな」
今まで堪えていたけど限界↓
阿部 「…オッケー!分かった!じゃあ何か…(阿部涙ぐむ)」
小声で強く↓
アベケン 「阿部」
阿部 「…(鼻をすする)」
小声で強く↓
アベケン 「阿部、泣くなら外で泣けよ」
小声で強く↓
阿部 「…泣いてねえよ。お前も阿部だろ」
粕谷 「本当に、ごめん」
アベケン 「粕谷、お前が謝ることなんて、ひとつも無いだろ」
ジュン 「あたし、泣かないよ」
粕谷 「みんな、ありがとう…ごめん」
ずっと言えなかったけど覚悟を決めて↓
アキ 「粕谷が謝っちゃダメだって!…最後、私だよね。粕谷、ごめん。私ね、何も買ってないの」
粕谷 「うん、いいんだよ」
アキ 「私ね、貯金を全部おろしたの。粕谷の喜ぶ物買おうと思って、でも何も買えなかったの」
粕谷 「そんな、いいんだって」
今回のキモです。丁寧に↓
アキ 「ものとかお金でどうしても代えられなかったの。粕谷、私をかばってこんなんなっちゃったんだもん」
みんな畳みかけるように
阿部 「いやいや、違うって!」
アベケン 「いや違うだろ!」
ジュン 「アキ!それ違うでしょ。あの時ゴールを運んだみんなの責任だよ!」
アキ 「違わないよ。みんな見てたでしょ。ゴールが倒れてきた時、私だけが下にいたんだもん。粕谷、そうだよね。私をかばってくれたんだよね」
粕谷 「それは…」
アキ 「だからね、私、決めたの。私、残りの人生、粕谷にあげる。私が粕谷の右足になる」
ジュン 「アキ…」
アキ 「粕谷、髪は長い方が好き?」
粕谷 「…え?」
感謝を伝えるために一言ずつ大切に↓
アキ 「お化粧も、もっと上手になる。おっぱいは小さいけど、そこはなんとかします。なんでも言って。粕谷の好みの女になる。ほかの人が好きならそれでも構わない。困ったことがあったら、すぐに連絡して。どこにいても駆けつけるから。粕谷、助けてくれて、ありがとう」
アベケン 「…じゃあ俺も、俺もなる。粕谷の右足に」
阿部 「…じゃあ、俺は左足になる」
ふふっ↓
粕谷 「・・・左足はあるから」
ジュン 「アタシもなる、右足に。ちなみに、おっぱいはアタシの方がデカイ」
全員が微かに笑う
切り替えていく↓
ジュン 「粕谷、それ取って」
粕谷 「なに?」
ジュン 「知恵の輪。(紙袋の音)はい、みんなでやるよ!」
アベケン 「…俺初めてかも、知恵の輪」
ジュン 「あ、粕谷はこっち」
粕谷 「え?」
ジュン 「はい、特別製。それなら余計なこと考えなくて済むよ。気が狂うほどむつかしい」
了