野良猫の目

野良猫の目

~本当は寝ていたい~

 最初に、私の日記の2月の1ページを読んで下さい(文中の名前はすべて仮名にかえています。また、私的な日記の中の記載なので職員の名前に敬称はつけてありません。)。


2025年2月某日


 美田さんが朝食後に例によって大きな声で「オネエサン」、「スミマセン」、「トイレ」と発声していた。職員から聞くところによると、カテーテルをしているのにトイレを主張するとのこと。そしてこのようなことは珍しくないのだそうだ。問題はこの時の対応が職員によって違うことだ。ある職員(富岡)は本人をトイレに連れていき、“儀式”をして落ち付いた本人を連れて帰ってくる。これを何度でも繰り返す。他の職員(真梨邑)は「カテーテルが付いているからトイレ行っても出ないよ。」と本人に言い渡し、後は本人が2階中に聞こえるような声で何を叫ぼうが放っておくのだ。他の職員がこの放置型の職員に聞いたところ「トイレに行っても何にもならないから」と答えたそうだ。そして自分よりも若い外国ルーツの職員達に放って置くように指示をしているのだ。
 当日はシフトで他の業務を担当していた“良心派”のベテラン職員(富岡)がそのところに通りかかり、見かねてその利用者(美田さん)をトイレに連れて行くよう指示したが、その良心派職員が去れば放置型のスタッフがまたその利用者を放置するのだ。そして私達は再び“あの声”を聞かされるのだ。

 オネエサ~ン
 オニイサ~ン
 ダレカァ~
 トイレェ~
 ハヤクゥ~

私も放置型職員に向けて叫びたい!


  ♪いい加減にしてぇ~

 

 これを書いてから8ヶ月以上たち、最近は職員の姿勢が変わってきています。
 

 最近では、美田さんから声が上がれば、“日本人スタッフ”の場合は、概ね直ぐに美田さんの居屋にお連れできています。そして本人が用を足して席に戻ってきます。しかし、外国ルーツの職員達には依然として「これを食べて(飲んで)からね。」、「ちょっと待って」などと言って自分の仕事の段取を優先させる職員がいます。それも1~2分といった時間ではなく10分ぐらい放っておかれるのです。
  
 私がこのようなことにより強く関心をもったのは(…と言うより持たざるをえなかったのは)、今年の春に処方された薬がきっかけでした。この薬を飲んだところ;
  ① 排尿の間隔が短くなる。
  ② 尿意をもよおしてから排尿まで我慢できる期間が短くなる。
という症状がでてきたのです。そこでこの薬を処方した先生に聞いたところ、この薬の副作用だとのことでした。
  
 自分がこのようになってみると、美田さん(現在はカテーテルを外しているそうです。)のことが、自分のことによう思えてくるのです。私の場合は食事中であっても、「ちょっと用ができたのでぇ……。(用が済めば)戻ってきまぁす。」と宣言して自室に歩いて行ってしまいますが、職員の助けを借りなければ殆ど歩けず、また相手を説得する話力をもたないであろう美田さんにとって、「これを食べて(飲んで)からね。」、「ちょっと待って」と言われて“待たされる時間”は、本人にとっては虐待といってよいほどの大変な苦痛を強いていることが自分のことのように想像できるのです(※脚注)。
  
 そんなことから、介護職員のグループに対して指導的な役割を持つ部署の方に、2月の日記の内容をお話しして、組織的な対応をお願いしました。すべての職員の方に富岡職員のような対応をして欲しかったからです。その結果、日本人職員については、先に書いたように概ね直ぐに美田さんの居屋にお連れするようになりました。
 また、美田さんが叫んでいるときに私のことをやろうとしている職員さんがいるときは、その職員さんに「美田さんを先に部屋(トイレ)に連れてってあげて。私はその後でよいから」とお願いしています。他にも同じような問題意識を持って発言或いは行動してくれた利用者がいたのかどうかは分かりませんが、最近では外国ルーツの職員も多くが美田さんの声に直ぐ対応してくれるようになりました。


 それに伴い、我々利用者も、美田さんの叫び声を長く聞かされることはなくなりました。2月からこうなるまで8ヵ月間。長かったのか短かったのか、この老人ホームしか知らない私には判断しかねますが、この8ヵ月間にあった、いろいろな出来事を考えれば、決してケアホームトーイチが「ベストを尽くしてくれていた。」とは思えないのです。

 

※参考 :厚生労働省老健局 市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者

     支援について (令和7年3月) 10ページ「♢養介護施設従業員等による

     高齢者虐待類型(例)♢」ii ④ 
      高齢者の権利を無視した行為又はその行為の放置
      ・他の利用者に暴力を振るう高齢者に対して、何ら予防的手立てをしない。
      ・高齢者からの呼びかけに対し「ちょっと待ってね」等と言い、その後の

       対応をしない。
      ・必要なセンサーの電源を切る。
      など