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【量子論】「シュレーディンガーの猫」、箱を開けなければ不老不死だった! 「量子ゼノ効果」の謎すぎる実験結果が証明!
2017.06.25
朝の忙しい時間に、せめてお茶の一杯でもとヤカンを火にかけると身支度をしている間にアッという間に沸騰するが、休日にカップラーメンでも食べようとキッチンでヤカンを火にかけ、新聞やスマホなどを眺めながらお湯が沸くのを待っていると、いつになく長く感じることがある。気のせいと言ってしまえばそれまでなのだが、なんと量子論的にはそれは決して気のせいではなかったのだ!?

「Science Alert」の記事より
■頻繁な“観察”で生じる量子ゼノ効果とは?
生きているということは死んでいないことであり、死んでいることはもはや息をして生きていないことである。普通に考えて生と死とは相いれない正反対の状態だが、量子論の世界では驚くべきことに生と死が共存した状態が存在する。
量子論でいうところの重ね合わせ(superposition)の状態とは、2つの状態が共存した状態であり、たとえ生と死という両極端の状態であっても共存することができるのである。
これを説明する有名な思考実験が「シュレーディンガーの猫」だ。確率50%で作動する青酸ガス発生装置を仕掛けられた箱に入れられた猫は、生死が共存した量子的重ね合わせの状態にあると定義される。箱の中にいる限り、この猫は生きてもいれば死んでもいるという存在なのだ。そして箱を開けて“観察”するという行為をもって、猫の生死が“決定”されるのである。
箱を開けた時に目にするのは、まだ生きている猫の姿か、あるいは残念ながら死んでしまった猫の遺体のどちらかだ。しかしもし生きていた場合、再び箱のフタを閉じるやいなや次の瞬間にまた素早くフタを開けて“観察”し、これをまさに電光石火の早業で繰り返したらどうなるだろうか。愛猫家にはうれしい話になるのかもしれないが、こうして素早く何度も観察することで、この猫は生きたままである可能性が高くなるというのである。
こうした頻繁に繰り返される観察や連続観測によって、重ね合わせの状態が損なわれて2つの状態のどちらかに固定される現象を量子ゼノ効果(quantum zeno effect)という。そしてこの量子ゼノ効果を説明するときに英語のことわざである「見つめられた鍋は煮立たない(A watched pot never boils.)」という語句がよく引き合いに出される。このことわざの本来の意味は、待つ身の側になれると時間が長く感じるという意味で、焦りは禁物という含意も込められているのだが、量子論的には“観察”を続けていると火にかけたポット(ヤカン)の水はなかなかお湯の状態にならないという、量子ゼノ効果をわかりやすく説明する喩えとして引用される。休日のカップラーメンのお湯がなかなか沸かないのも、単なる気のせいではないのかもしれない!?
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■人工原子に対する擬似測定を行った実験
量子ゼノ効果と同じく重ね合わせの状態が損なわれることで、逆に状態の変化を加速する現象も起こり得る。これを反量子ゼノ効果と呼ぶ。
そもそも量子ゼノ効果は、1958年にイギリス人数学者のアラン・チューリング博士によって提唱されたものだが、その詳細についての理解は1989年に研究室で実際に観測されるまでよくわからないものであった。具体的には、放射性原子を頻繁に観測するとなぜか放射線を出さなくなり、その結果として放射性崩壊の時期がどんどん伸びていくことが確かめられたのだ。つまり頻繁に観測することで放射性原子が“長生き”するのである(量子ゼノ効果)。そしてその10年後には、同じように頻繁に放射性原子核を観察することで逆に崩壊を早めさせて“短命”にするケースもあることが確認された(反量子ゼノ効果)。
そしてこうした量子ゼノ効果や反量子ゼノ効果を人為的に発生させることができれば、いろんな可能性が開けてくることになる。
ワシントン大学セントルイス校の研究チームが先ごろ「Physical Review Letters」に発表した研究において、量子コンピュータの基幹技術として注目されている人工原子(キュービット、量子ドット)を用いた実験を行っている。実験ではさまざまな状態にある人工原子を100万分の1秒単位で観測できるハイテク機器で観察した。機器による観測であり、人間のような確固とした観察主体ではないため、研究チームはこれを擬似測定(quasi-measurements)と呼んでいる。
画像は「Wikipedia」より
実験の結果、この擬似測定でも人工原子に量子ゼノ効果と反量子ゼノ効果を引き起こすことができることがわかったのだ。この技術で量子ゼノ効果を引き起こした場合、この原子は観測を止めない限りずっと一定のままで年を取らないことになる。つまりこの技術でシュレーディンガーの猫を観察した場合、原子レベルでは永遠に生き続けていくことになるのだ。しかもこの場合、観察においていちいち箱を開け閉めしなくとも、箱を揺するだけでいいという。
もちろん有機体としての生物はどうしたって死を免れないが、原子レベルで加齢をストップできれば、その寿命は大幅に伸びるのかもしれない!?
Zeno Effect 動画は「Washington University in St. Louis」より
参考:「Science Alert」、ほか