ヒトラーのクローン少年が94人も!ナチスハンターを描いた【封印映画】で削除された幻のラス【前半】
昭和SF 『ブラジルから来た少年』

※イメージ画像:『わが闘争(上)―民族主義的世界観』
ペンシルバニア州で数頭のドーベルマンを飼う家に場面は変わる。計画は実行に移されていたものの、メンゲレ博士が所属する秘密結社は、失敗するリスクの高さから計画中止が決定されていた。だが、計画のコアメンバーであるメンゲレは、その中止命令を無視。さらに、ターゲットである養父を、組織の殺し屋ではなく、自ら銃殺するという凶行に及んでいた。
そして、その現場に到着したリーバーマンと遂に対決! 老人同士の格闘は噛み付き引っ掻き大乱戦。リーバーマンはメンゲレに撃たれ、メンゲレはドーベルマンに咬まれ、双方血まみれになった。その時、ボビー少年(ヒトラーのクローン)が学校から帰宅する。
血だらけの知らない老人ふたりに驚くボビーだが、まず趣味のカメラで彼らを撮影(さすが大物の余裕)。メンゲレはボビーに「私はお父さんの友たちだ。彼(リーバーマン)が家の中にいて銃を突き付けられた」と言うが、利発なボビーは犬たちの行動からメンゲレの嘘を見抜く。そして父親の死体を見つけたボビーは激昂し、ドーベルマンにメンゲレをズタズタに咬み殺させるように命じた。
そして、ボビーはリーバーマンに対して「放っておけばオマエも死ぬが、ママが帰ってきたときに、僕が殺すように命じたと言わなければ救急車を呼んでやる」と冷徹な取引を提案する。瀕死のリーバーマンはその提案を飲み、そして、隙を見てメンゲレの死体から、94人のヒトラーのクローンの名簿を奪取することに成功した。
入院したリーバーマンをパラグアイで殺された青年の友人デビットがウィーンまで押し掛け、リーバーマンのもとで助手として働いていたデビッドが見舞いに訪れる。そしてデビッドは、「ヒトラーのクローンである子どもたちを殺す」ため、少年たちの名簿の譲渡を求める。それをリーバーマンが拒むと、デビッドは「ヒトラーを助けるのですか?」と問い詰める。だが、リーバーマンは「罪もない子どもらを殺すわけにはいかん」と言い、タバコに火をつけながら、ついでに名簿も燃やしてしまった…。
ビデオ版はここで終了するが、日本版で削除された幻のラストシーンはこの後だ。場面が病室からボビーの家に転換する。暗室でボビーが写真を現像していて「いい出来だ」と、冷たく青い目でメンゲレの死体写真を見つめる。口には微笑を浮かべて…。
作品の公開後、過度の遺伝子決定論(遺伝子が身体的・行動的形質を決定するとする信念)に即した内容に対し、有識者から批判の声が上がった。遺伝子決定論は、しばしば差別問題などのタブーに抵触してきた。その影響もあってか、欧米での劇場公開時および日本でのテレビ放送時には存在したラストシーンが、後に発売されたビデオソフトでは削除されたのだ。
このラストがなくても、リーバーマンの人道的な振る舞いにホッとして映画を観終えることはできる。だが、クローン94名に対する脅威が語られない。つまり、ラストがあるとないとでは後味が大きく異なり、当然ノーカット版の方が映画のテーマを的確に締めくくっているのだ。
ちなみに、本作の2年前にローレンス・オリヴィエは、『マラソンマン』(76年・米)で、主演ダスティ・ホフマンの歯を拷問で削る元ナチスの歯科医を演じているが、皮肉にもそのモデルはメンゲレ博士だった…。