日本の年金 Ⅶ【外終】年金事務の問題 国民年金と被用者年金…
国庫負担2分の1への引上げ
年金給付に必要な費用の財源は、負担対象者や負担方法により社会保険方式と税方式がある。国民年金は他の公的年金と同じ社会保険方式を採用しているが、保険料の他に国庫負担もあり、2004年の年金法改正で基礎年金の国庫負担の割合を3分1から2分の1へ引上げることになった。2007年度を目途に、所要の安定した財源を確保する税制の抜本的な改革を行った上で、2009年度に実施され、財源に消費税(VAT)を当てる。2012年の消費税法改定では第1条2にて福祉目的税であることを明記。2014年には消費税率が8%に引き上げられた。
消費税法 第1条2
消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。
2013年現在では、一般会計より10.4兆円が、基礎年金拠出金等年金特別会計へ繰入 されている。
「日本の福祉#社会保障関係費」も参照
基礎年金の財源方式を巡る議論
「年金#拠出制と非拠出制」も参照
公的年金制度の土台である国民年金(基礎年金)の空洞化を解消し、無年金・低年金者をなくすため、また、保険料の負担についての世代間の不公平感を解消するためにも、基礎年金を全額税で賄う必要がある(税方式の無拠出制年金)という意見に対しては、以下の意見がある。
- 賛成論
- 社会保険方式は強制貯蓄の側面を有し(積立方式)、もしくは人口構成の変動に脆い(賦課方式)など制度的な問題点が大きい。低所得者層を中心とする納付率の低下や世代間の負担給付バランスの著しい不公平など、実際に問題が生じている。
- 基礎年金はそもそも老後の生活維持のための基礎的な給付を行うものである。現役時代に十分な積立が出来なかった対象者に支給する簡素な基礎年金制度で十分であり、それにより被保険者及び納税者全体の平均的な負担も軽く出来る。
- 社会保険方式の維持コスト(行政費用、社会保険庁の運営等)が被保険者の負担もしくは納税者に転嫁され、社会全体からみて無駄が生じている。税方式に完全に移行するかはともかく、制度や財源について効率化が必要である。(→小さな政府、政府の失敗)
- 反対論
- 社会保険方式は、自立・自助を基本とする日本の経済社会に整合的であるのに対し、税方式は、給付と負担の関係が明確ではなく、生活保護との違いが不明確になり、日本の経済社会に相応しくない。
- 社会保険方式による年金制度が定着している中での税方式化は、これまで保険料を納付してきた者と、保険料を納付せず税方式の年金を受ける者との公平が図られなくなるなど、国民の不公平感を増す。
- 高齢者に所得格差がある中で、一律に給付を行う基礎年金を全額税財源で賄う仕組みとすることは、税財源による再分配政策としての公平性の観点から、適当ではない。
民主党は2009年、マニフェストとして、「消費税を財源とする『最低保障年金制度』の創設」を主張した。日本共産党は最低保障年金の財源を全額消費税で賄う案について「企業の保険料負担を軽減し、庶民負担に置き換えるものだ」として反対をしている[19]。
第3号被保険者
専業主婦(第3号被保険者)に対しては、基礎年金という形で受給権を個人化し女性の年金権を確立したが、保険料負担はまだ世帯単位になっている。無業の配偶者の扱い(受給権の個人化と負担の世帯単位という食い違い)をどうするかの方法は2つあり、世帯単位の負担を、みなし個人負担という考え方で受給権の個人的な単位との間で調整する方法(所得の2分の2乗法や消費税)と保険料の拠出単位を個人化する方法がある。
第3号被保険者不整合記録問題
サラリーマン(第2号被保険者)の配偶者(第3号被保険者)は、夫が退職などで被用者年金制度の資格を喪失した場合、夫ともども第1号被保険者となる。この切り替え手続きは、市役所や町村役場経由で厚生労働大臣への届け出が義務づけられている[20]。この手続きを怠ると年金未加入・保険料未納扱いとなり、結果として年金の受給額が減額され、加入期間が不足する場合は無年金となる。しかし第3号被保険者となる際は事業主経由で手続きが行われたため、多くの元第3号被保険者が切り替え手続きに無知・無関心であり、届け出を行わないため、実際は第1号被保険者の立場にありながら、記録上第3号被保険者のままである不整合が多数発生している。
この記録の不整合問題は1985年の国民年金制度開始時より懸念されていたことであり、旧社会保険庁時代から会計検査院により繰り返し適正化を求められてきたが[21][22][23][24]、根本的な是正がなされることなく放置され続けてきた。しかし、2010年1月頃、社会保険機構が簡易調査を行った時点で約100万件の不整合が確認できた[25]ことで、民主党政権内部で問題視されるようになった。
これを受け厚生労働省年金記録回復委員会で検討された結果、以下の措置が厚生労働省年金局事業企画課長・厚生労働省年金局事業管理課長名で通知された[26]。この課長通知の実施は2011年1月1日とされた。
通知の概要は以下の通り。
- すでに受給している者
- 現状に変更なし(本来受給資格がなかったり、本来より受給金額が多い場合でも、それらは不問に付す)
- これから受給する者
- 本来1号被保険者であった期間もすべて3号被保険者と見なす
この運用により3号を適用した期間を「運用3号」期間と呼称するが、運用3号を適用すると、以下のような不都合が生じる。
- 正しく切り替えを行っていた者は保険料の払い損となる
- 未納期間がすでに発覚してそれに対して年金の減額等の裁定を受けている者は、未発覚の者より不利な扱いを受ける
運用3号は「法的に問題がある可能性が高い」として2011年2月16日総務省年金業務監視委員会が調査に入った[27]ことで問題が表面化した。厚生労働省は2月24日、運用3号による救済手続きを停止し[28]、3月8日通知を廃止した[29]。厚生労働省は社会保障審議会内に第3号被保険者不整合記録問題対策特別部会を立ち上げ対応を検討した結果、2011年5月20日報告書が提出された[30]。
報告書の概要は以下の通り。
- 記録訂正後保険料未納となる期間を「カラ期間」として、これを年金の受給資格期間に繰り入れる
- 未納分の保険料は過去10年(年金受給者の場合は60歳までの10年間)分の後納を認める
- 年金受給者の過払い分は過去5年分の返還を求める
- すでに期間訂正を受けた分に対しても、今回の特別措置の対象とする
- 運用3号の下で受けた裁定は再裁定を行う
- 過去10年分の追納額は当時の保険料に国債利回り等を考慮した額とし、追納措置も3年の期間限定とする
- 障害・遺族年金受給者については、受給権が失われないよう特別措置を講ずる
- 今後同じような不整合を生じさせないため、以下のような方策が求められている
- 制度の周知や啓発を行うとともに、被保険者が不整合の事実により容易に気付くことができるようにするための改善が必要
- 費用対効果にも留意しつつ、新たな不整合期間が生じないようにするための更なる対策を講ずる必要がある
- 検討が進められている社会保障・税に関わる番号制度が導入された後は、当該制度も活用し、被保険者資格のより適正な管理等を進めていく必要がある
本件に関して2011年11月22日の閣議において国民年金法改正案が決定された[31]。この法案では
- 保険料未納期間を受給資格期間に算入
- 3年間に限り、過去10年分の保険料未納分を追加納付を認める
- 未納状況に応じ年金額を10%以内で減額する
- すでに支払い済みの過払い分に関しては返還を求めない
と、社会保障審議会第3号被保険者不整合記録問題対策特別部会報告書よりも受給対象者の負担が軽くなっている。しかし、一般の年金記録の不整合記録・誤記では、年金の減額や過払い分の返還を求めているため、「なぜ主婦のみ優遇されるのか」という非難されている[32][33]。この法案は2012年8月10日に成立、2012年10月1日より施行された。
後納制度の通知送付は2012年8月から始まり、2012年10月1日から2015年9月30日まで申し込みの受付を行ったが、通知発送総数20,094,890件に対して、実際に受け付けられた申し込みは1,414,081件とわずか7%であり、本問題に対する被保険者の関心の薄さが際立っていた[34]。