馬鹿 【前半】目次 概説 他の語と組み合わされる
方言と分布状況
関東地方は「馬鹿」、関西地方は「阿呆(アホ)」であるとする場合もあるが、実際の分布状況はそう簡単ではない。
「アホ・バカ分布図」も参照
大阪市の朝日放送のバラエティ番組『探偵!ナイトスクープ』において「『アホ』と『バカ』の境界線はどこか」という視聴者からの依頼を元にした調査が行われた。この際に名古屋で「タワケ」が用いられていたこと、番組に秘書として出演していた長崎県出身の岡部まりが「(長崎では)『バカ』と言っていた」と発言したこと、これを見た視聴者から全国各地の「バカ」に相当する方言が寄せられたことなどから、出演者の上岡龍太郎の提案でより本格的な調査が試みられた。1991年(平成3年)、(当時の)全ての市町村の教育委員会を対象にしたこの種の表現の分布状況についての大規模なアンケート調査が行われ、その調査結果に基づいた特別番組が放映され、多数の賞を受賞したほか、日本方言研究会でも注目された。この制作過程を記した『全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路』(同番組プロデューサー・松本修著、ISBN 4101441219)に非常に詳しい調査結果と考察が載っている。
この番組で制作された「全国アホ・バカ分布図」によれば、「馬鹿」は近畿以西でも却って使われており、また全国各地の方言において「馬鹿」以外の表現も数多く見られる。例えば東北地方では「ホンジナシ」という言葉や、これに似た言葉が多く見られるが、「バカ」系の言葉や「タクランケ[注 5]」「ハンカクサイ」(半可臭い)という言葉も見られる。愛知県は「タワケ」が多いと言われるがこれは西部(尾張地方)で、東部(三河地方)では静岡県の一部などと共に「トロイ」「トロクサイ」が多い。三重県や岡山県には「アンゴウ」という言葉が見られる。富山県・石川県・滋賀県高島市[6]・鳥取県・島根県東部には「ダラ」、「ダラズ」という言葉が見られる。また沖縄地方では「フリムン」や「プリムヌ」という言葉が見られる(これらは一例であり、これら以外の語彙もそれぞれの地域に見られることに注意する必要がある)。「ボケ」などといったその他の言葉も含めて、同心円状に分布しており、同書ではその円の中心が長らく日本の首都であった京都であると指摘している。これは柳田國男が『蝸牛考』で考察している他の言葉の分布状況とも対応する。
馬鹿と阿呆のどちらが厳しい表現か、「概要」の節で触れたように、関東の人は「アホ」と言われると非常に侮辱されたと感じる場合が多いし、関西の人は「バカ」と言われると非常に見下されたと感じる場合が多い。ややこしいのが北海道で、移住(入植)した人々がそれぞれに「バカ」「アホ」その他の言葉を持ち込んだのだが、地域によってどの言葉がより厳しい表現なのかが異なっている。
要は、これに依れば馬鹿はアホより古い言葉であるが、関東圏が明治以後に文化の中心となり、その地域の語を元に標準語が制定されたため、これに類する語の基本が「馬鹿」になった、と言うことである。
実在する動物:馬鹿(ばろく)
中国には馬鹿(ばろく)という、鹿の一種がいる。ヨーロッパや中東のアカシカ(学名:Cervus elaphus)に近縁で、北米北部とユーラシア大陸北東部に分布するワピチ(学名:Cervus canadensis en)のうち、北東アジアに住むものであり、「馬鹿」を「マールー」と発音する。馬鹿の古い角が、脱落した後に新生する幼角を乾燥させたものは、漢方薬の鹿茸(ロクジョウ)として珍重されている
妖怪:馬鹿(むましか)
馬鹿(むましか)
尾田淑 『百鬼夜行絵巻』
百鬼夜行絵巻に収録されている妖怪。馬の顔に鹿の体を持ち、顔は「馬鹿」という名を表した様な滑稽な表情をしている。この妖怪に関しては多田克己・京極夏彦著の妖怪図巻でも言及されている。
「バカ」という言葉の流行と相次ぐ「バカ論」の出版
近年「バカ」という言葉がブームになっている。古典的には、このような風潮は、ホルスト・ガイヤーの『馬鹿について 人間――この愚かなるもの』がヒットした1960年代まで遡ると思われるが、とりわけ『バカの壁』の大ヒット以降、「バカ」を冠した書籍が相次ぎ発刊されている。ただし当の『バカの壁』については、著者が述べたのとは違う意味で理解され、言葉そのものが一人歩きしてしまったという点がたびたび指摘される。
また、「平成之大馬鹿門」騒動というのもあった。これは、彫刻家の空充秋が佛教大学に寄贈した石造りの門柱にこの語が彫り込まれていたのが発端である。佛教大学は「馬鹿という言葉は大学には不適切」としてこの語を削ることを求めたが、空がこれを拒否したことなどにより大騒ぎに発展した。結局門柱は佛教大学から撤去されたが、空の思想に共感した兵庫県宍粟郡千種町(現:兵庫県宍粟市)がこの門柱を引き取り、町内の2つの山の山頂に1本ずつ移設された。
馬鹿キャラ
馬鹿キャラとは、馬鹿なキャラクターを意味する語である。
落語においては、知恵の足らない(足りない)馬鹿の代表に与太郎がある。また、常識を知らない馬鹿の代表に権助などがある。
2007年(平成19年)ごろから日本ではバカ(無知)なキャラクターを売りにしたタレントであるおバカタレント(バカタレ)がブームとなった(おバカタレントブーム)。このブームのきっかけはテレビのクイズ番組であるクイズ!ヘキサゴンIIだといわれる。
日本国外における馬鹿
アメリカ合衆国で、知ってる日本語を挙げよと言えば「バカタレ」が高頻度で挙げられる。これは、日本からの初期アメリカ移民の出身地が、この語を多用する中国・九州地方であったことからと考えられ、映画「二世部隊」のセリフの中でもたびたび聞かれる。
第二次世界大戦末期、日本の特攻兵器「櫻花」には連合軍から、日本語の馬鹿に由来する「BAKA」のコードネームが与えられていたとされる。
中華人民共和国でも、戦後から現在まで無数に作られてきた抗日題材の映画やテレビドラマでは、日本兵は口癖のように「バカヤロ」(八格牙鲁)と口にするものとして描かれる。「バカヤロ」は、同じく日本兵の口癖とされる「ミシミシ」(米西米西=「飯、飯」)に次ぎ頻繁に中国のマスメディアに登場する日本語である。
中国語の「馬鹿」という漢字は、シカ科シカ属の動物『アカシカ』を指す意味である。
大韓民国では2008年(平成20年)に知的障害者が登場する『バカ』(原題『바보』)という映画が公開された。
釣り用語の『バカ』
リールを用いない釣竿である延べ竿を用いた釣りにおいて、特に渓流釣りでは竿の長さに対して道糸とハリスを合わせた仕掛けの全長が長くなった分を「バカを出す」という。例えば、全長3 m の竿に対し仕掛けの長さが3 m 10 cm あった場合、10 cm がバカとなる。
糸の巻き取り能力が無い延べ竿を使う場合、竿よりあまりに長い仕掛けでは釣った魚を取り込むという釣り最大の目的を達成できなくなる。このため仕掛けの長さは竿と概ね等しいことが望ましいが、渓流の深場狙いやテンカラ等といった漁法では多少なりともバカを出す必要がある。
工業用語の『バカ』
ネジを切る必要がないがネジを通す為には必要な穴を「バカ穴」と言う。例えば「ここにバカ穴を開ける」場合は「そこにはネジ棒が通る」事を意味する。他に基礎等にケミカルアンカー等でアンカーボルトを埋める場合に必要な下穴も「バカ穴」と呼ぶ。いわゆる「ネジ本来の下穴」に対する用語である。
脚注
- 注
特に男性が女性に[要出典]
- 馬鹿の「ばっ」という言葉を用いる場合もあるがこの場合は馬鹿と言いかけそうになった場合で本当に言ってる訳ではない。[要出典]
- この説を採る場合、開国当時よりの学生語の由来にドイツ語系列が多い事を根拠としている(ドイツ発音でw字母はヴ発音を表す為。この場合いわゆるクサチュー語のヴァカ時の置き換え由来の一つでもある)。事実日本語を初学するドイツ人は例外なくwの綴りをヴと読む。
- 同様に原義から大きく変わった悪党とは逆の変遷をして来た事になる(こちらの原義も狼藉者の意味ではない)。
- なお、同型の標準語で「たくらだ」があり、「たくらだ猫の隣歩き」という諺も存在する。
- 出典
- ^ 広辞苑「ばか」
- ^ 大辞泉「ばか」
- ^ 「新明解国語辞典 初版」
- ^ 広辞苑「親馬鹿」
- ^ たとえば『だいすき!! ゆずの子育て日記』には軽度の知的障害者が主人公として登場し、彼女が小学校時代に周りから「ばか」呼ばわりされたことが記されている。創作ではあるが、少なくとも傍証にはなるであろう。
- ^ かつては加賀藩の領地だった。
- ^ アナタは何人知っている? 年末・年始も引っ張りだこの“おバカ”タレント、そのブームの背景に迫る! 日経トレンディネット(2007年12月27日)2011年(平成23年)4月7日閲覧
- ^ おバカタレント、その真価を探る All About(2008年10月23日)2011年(平成23年)4月7日閲覧
- Edward P. Stafford, Little Ship, Big War, New York: Jove, 1985, pp. 253 & 282, ISBN 0515084182, OL 7656661M.
- Robert C. Mikesh, "Baka", Japanese Aircraft: Code Names & Designations, Atglen PA: Schiffer, 1993, ISBN 0887404472.
関連項目
- 阿呆
- 役に立つ馬鹿
- 知的障害
- DQN(インターネットスラング)
- 厨房(インターネットスラング)
- 四月馬鹿(エイプリルフール)
- バカッター
- フールプルーフ
- 馬鹿祭り(東京都北区赤羽で行われる祭り)
- イワンのばか:トルストイ
- バカヤロー解散
- chakuwiki
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