生命の起源
生命の起源(せいめいのきげん、英:Origin of life)は、地球上の生命の最初の誕生・生物が無生物質から発生した過程[1]のことである。それをテーマとした論や説は生命起源論という。
ワールド仮説
DNAを遺伝情報保存、RNAを仲介として、タンパク質を発現とする流れであるセントラルドグマは一部のウイルスの場合を除いて、全ての生物で用いられている。1950年代から、化学進化後の最初の生命でこれら3つの物質のいずれが雛形となったのかが、論じられてきた。そうした説の名称がDNAワールド仮説、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説である。
この3つの説を統一するような見解は得られておらず、情報の保存、触媒作用を争点にいまだ論争が絶えない。なお、これらの説を一部融合させたDNA-プロテインワールド仮説のような説も存在する。
DNAワールド仮説
セントラルドグマが生命誕生以来、原則的なものであれば、まずはじめに設計図が存在していたと考えるべきであるが、DNAワールド支持者はRNAやプロテインワールドに比べて分が悪い。なぜならDNAは触媒能力を有しないとされていたからである。
2004年にDNA分子を連結させるDNAリガーゼ機能を持つデオキシリボザイムが発見された[16]。デオキシリボザイムは、遺伝情報の安定性と触媒能力を有するが、触媒効率は非常に低い。触媒効率の高いデオキシリボザイムが発見されれば、DNAワールド仮説の復権が期待できると思われる。
RNAワールド仮説
詳細は「RNAワールド」を参照
RNAワールド仮説は、「初期の生命はRNAを基礎としており、後にDNAにとって替わられた」とするものである。1981年、トーマス・チェックらによって発見された触媒作用を有するRNAである「リボザイム」がその根底にある。また、レトロウイルスによる逆転写酵素の発見もその拍車となった。RNAワールド仮説の趣旨は以下の通りである。
RNA自体が触媒作用と遺伝情報の保存の両者をになう点は、生物学者に大きなインパクトを与え、RNAワールド仮説は、いまだ生命の起源の論争の中でも主たる考察であると言える。しかしながら、RNAワールドを否定する意見としては、以下の点があげられる。
- リボザイムの持つ自己複製能力は、それ自体では存在しない
- リボザイムの触媒能力はタンパク質のそれに比べてきわめて低く、特異性も存在しない
- RNAは分子構造が不安定であり、初期の地球に多量に存在したであろう、紫外線や宇宙線によって容易に分解を受ける
しかし、特異性に関しては近年ではハンマーヘッド型リボザイムを筆頭に顕著な改善が認められる。
プロテインワールド仮説
プロテインワールド仮説は、「タンパク質がまずはじめに存在し、その後タンパク質の有する情報がRNAおよびDNAに伝えられた」とする仮説である。RNAワールド仮説と双璧をなす生命の起源に関する考察のひとつであり、近年プロテインワールドを支持する化学進化の実験結果が多く得られている。プロテインワールド仮説の趣旨は以下の通りである。
- タンパク質は生命反応のあらゆる触媒をになっており、代謝系を有する生命には必須である
- 20種類のアミノ酸から構成されており、多様性に富んでいる
- セントラルドグマのあらゆる反応に酵素の触媒は関与している
- ユーリー-ミラーの実験で生じた、4種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)を重合させたペプチドは触媒活性を有している(GADV仮説)。
- さらにそれらのアミノ酸の対応コドンはいずれもGからはじまるものであり、アミノ酸配列からDNA、RNAに情報が伝達された痕跡であると考えられる(GNC仮説)。
GADV仮説は奈良女子大学の池原健二教授によって提唱されたプロテインワールド仮説を支持する新説である。この説により、プロテインワールド仮説がより重みを増したと言える。しかしながらプロテインワールド仮説にも以下の反証があげられる。
- ペプチドには自己複製能力が存在しない
- タンパク質もRNAほどではないが、分子構造が不安定である
- ランダムに重合したアミノ酸から特定のコンフォメーションを有する酵素等が自然に出来上がるとは考えにくい(サルが適当に打ったタイプはシェークスピアとなるか?)
第一の点に関しては鋳型とモノマーを材料としたポリマライゼーションのみを自己複製とするなら指摘の通りだが、広義の自己複製ならその限りではない
パンスペルミア仮説