文明 Ⅰ【前半】目次 文明の概念 発生 特徴 要素 機構
- 文明の要素
マルクス主義の考古学者ゴードン・チャイルド(1892年-1957年)の定義では、文明と非文明の区別をする指標として次のものを挙げている[1]。
- 記念碑的公共建造物(ピラミッドなど)
- 合理科学の発達
- 支配的な芸術様式
上記の定義は、ひとつの連続する過程として説明することができる。まず農耕が開始され、効果的な食料生産によって農耕民たちは大きな人口を抱えるようになる。またこれによって大きな余剰農作物が生まれ、その富を元にして農業以外を生業とするスペシャリストが生まれ、多様な職業に従事する人々が生まれる。同時に、食糧生産をより効率的にするためには灌漑施設の建設などの土木作業が不可欠であり、これを可能にするために社会の組織化が推進される。こうした事業はしばしば豊穣などを神に祈るための信仰と結びつき、食糧余剰を管理しより増産を進めるための機構として神官団が生まれる。また、食糧生産の過程で富の偏在が生まれ、富裕なものは他者に対し優位に立つようになる。この2つのシステムは結合し、こうして政府と階級が生まれる。上層の階級のものはその村落のみならずやがて周囲の村落にも影響を及ぼすようになり、一つのまとまった支配圏が誕生する。こうしてより富が集積されるようになり、さらに増えた人々やスペシャリストたち、そして支配階級のものがまとまって居住する支配や交易の拠点、いわゆる都市が誕生する。支配層が統治の必要から社会システムを発展させていく中で、文字や記念碑的公共建造物、芸術様式を発達させていき、一つの文明が成立することになる。ただし上記の指標はすべてそろっていなければならないわけではなく、たとえばアンデス文明は文字を持たなかったし、アンデス文明およびアステカやマヤといったメソアメリカ文明においては冶金術も鉄器レベルまでには達していなかった。
チャイルドの定義以外に、すべての文明に共通するものとして次がある。
- 小麦、コメ、トウモロコシといった穀物の栽培は、その貯蔵のしやすさや大量に収穫できることなどから、多くの文明の基盤となるものだった。また、ほとんどの文明においては家畜化された動物が一種類ないし数種類存在し、食糧供給源、動力、移動手段として大きな役割を果たした。
- 広範囲な貿易。文明以前から、世界各地において広範囲の交易ネットワークは成立しているが、文明の成立とともにこれはより大規模なものとなっていた。シュメールでは、国家管理された貿易商の集団が設置されていた。
- 単一の定住に比べてより広域な地域にまたがる組織や民族[注 4]。
- 文明の機構
- チャイルドは文明を構成する要素に注目したが、機構に注目すれば以下の定義により、政府やネットワークが浮かび上がる。
文明の変遷と完成、文明の型