糖尿病 Ⅵ【終半】治療 疫学 日本の有病率 

 

発症リスクに関する研究

さまざまな研究がなされている研究の一例を列挙する。

  1. 糖尿病になりやすくなる環境因子としては、圧倒的な危険因子として肥満[32]が挙げられるほか、喫煙[33]や運動不足[34]などがある。
  2. 20歳から体重が5kg以上増加した群で糖尿病発症のリスクが上昇[35]
  3. コホート研究によって筋肉労働や激しいスポーツをしない人が多量の米飯を摂取することで糖尿病リスクを上昇させていることが報告されている[36]
  4. 亜鉛の欠乏が糖尿病の発症リスクを高めるとする報告がある[37]
  5. マグネシウム摂取量が関与している」との報告があり[38]、インスリン抵抗性、慢性炎症、飲酒習慣を有する患者では摂取量の上昇が発症抑制に効果があるとされている。しかし、一方で、マグネシウム摂取量と糖尿病発症との関連なしとの報告がある[39]
  6. 2010年のハーバード大学によるシステマティック・レビューメタ分析によると、赤肉とくにハムやソーセージの加工肉の摂取量の増加は、糖尿病と冠動脈疾患のリスクの増加に関連付けられている[40]。2010年のハーバード大学の研究で約20万人に対するコホート調査で1日あたり白米を50グラム玄米に置き換えることで、2型糖尿病のリスクが16%低下する[41]。また、妊娠前にファーストフードを頻繁に食べた場合、糖尿病罹患リスクが増大することが報告されている[42]
  7. 女性ではコーラ果汁飲料などの清涼飲料水の飲用量が多いほど糖尿病の発症リスクが高いとの報告がある。多量の清涼飲料水の摂取は、急激な血糖・インスリン濃度の上昇をもたらし、耐糖能異常インスリン抵抗性にもつながる可能性が指摘されている[43]
  8. 野菜果物の摂取は全体としては糖尿病発症リスクとの関連は認められないが、男性の過体重(BMI25以上)もしくは喫煙習慣のある人では野菜、特にアブラナ科の野菜を多く摂取しているグループで糖尿病リスクの若干の低下が示唆された[44]
  9. 歯周病は、心筋梗塞バージャー病、肋間神経痛、三叉神経痛、糖尿病と密接な関係にあることが、ごく最近の研究で確認された。糖尿病ではPorphyromonas gingivalis感染が分泌を促進する腫瘍壊死因子(TNF-α)によって、糖尿病が増悪され、この糖尿病によって歯周病が増悪されるという負の連鎖が起こる。これは「歯周病菌連鎖」や「歯周病連鎖」と呼ばれている[45]
  10. コーヒーをよく飲む人たちでは糖尿病発症のリスクが低くなる傾向が見られた[46]
  11. 糖や炭水化物主体の食生活を繰り返すことにより食後高血糖とインスリン分泌過多を繰り返すことによるインスリン抵抗性となり、インスリンの効きが悪くなり高血糖を維持、尿に糖が排出されることが分かっている。また食後高血糖とインスリン分泌過多を繰り返すことにより、膵臓ランゲルハンス島β細胞が少しずつ死滅し、インスリン分泌能力が低下する。
  12. 果物の摂食は2型糖尿病の発症リスクを低くするが、ジュースにした場合は逆に発症リスクを高める[47]
  13. 7〜9時間の睡眠が望ましい。1晩の睡眠が6時間を切ると糖尿病のリスクも高まる[48]

世界糖尿病デー

詳細は「世界糖尿病デー」を参照

世界糖尿病デーのブルーライトアップをしている萬代橋

上述の通り、現在、糖尿病を世界の成人人口の約5〜6パーセントが抱えており、その数は増加の一途を辿っている。また糖尿病による死者数は、後天性免疫不全症候群 (AIDS) による死者数に匹敵し、糖尿病関連死亡は、AIDSのそれを超えると推計している。このような状況を踏まえ国際連合は、国際糖尿病連合 (IDF) が要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を2006年12月20日に国連総会で採択し、インスリンの発見者であるバンティング博士の誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー」に指定した。日本でも、2007年11月14日には東京タワーや鎌倉大仏、通天閣などを「世界糖尿病デー」のシンボルカラーである青にライトアップし、糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発活動が展開された。

なお、国連が「世界○○デー」と疾患名を冠した啓発の日を設けたのは、12月1日の「世界エイズデー」に続き「世界糖尿病デー」が2つ目である。