階乗(非負整数 n の階乗 factorial)Ⅲ 数論に…
連続変数への補間
ガンマ函数とパイ函数
詳細は「Γ関数」を参照
階乗函数は負の整数を除く任意の実数に対するものに一般化することができる。例えば * 0! = 1! = 1, * (−1/2)! = √π, * (1/2)! = √π2.
負の整数を除けば、階乗函数は非整数の値に対しても定義することができるが、そのためには解析学の道具立てが必要である。そのように階乗の値を「補間」して得られるものの一つがガンマ函数 Γ(z) である(ただし引数が 1 だけずれる)。これは負の整数を除く任意の複素数 z に対して定義される。z の実部が正である場合には
- {\displaystyle \Gamma (z)=\int _{0}^{\infty }t^{z-1}e^{-t}\,dt}
で与えられる。ガンマ函数と階乗との関係は、任意の自然数 n に対して
- {\displaystyle n!=\Gamma (n+1)}
が成り立つことである。オイラーのもともとの定義式は
- {\displaystyle \Gamma (z)=\lim _{n\to \infty }{\frac {n^{z}n!}{\displaystyle \prod _{k=0}^{n}(z+k)}}}
である。ガウスの導入した別表記として、負でない実数 z に対するパイ函数 Π(z) は
- {\displaystyle \Pi (z)=\int _{0}^{\infty }t^{z}e^{-t}\,dt}
を満たす。ガンマ函数との関係は
- {\displaystyle \Pi (z)=\Gamma (z+1)}
である。非負整数 n に対し
- {\displaystyle \Pi (n)=n!}
が成り立つことを思えば、こちらのほうが階乗を補完した函数としては適していると言えるかもしれない。さてパイ函数は階乗が満たすのと同じ漸化式
- {\displaystyle \Pi (z)=z\Pi (z-1)}
を、しかし定義される限り任意の複素数 z に対して満たす。事実としてはこれはもう漸化式ではなくて函数等式と見るべきものであるが。この函数等式をガンマ函数に関するものに書き換えれば
- {\displaystyle \Gamma (n+1)=n\Gamma (n)}
となる。階乗を延長したものがパイ函数なのだから、定義可能な任意の複素数 z に対して
- {\displaystyle z!:=\Pi (z)}
と定めることは可能である。これらの補間函数を用いて半整数における階乗の値を定めるならば、例えば
- {\displaystyle \Gamma \left({\frac {1}{2}}\right)=\left(-{\frac {1}{2}}\right)!=\Pi \left(-{\frac {1}{2}}\right)={\sqrt {\pi }}}
が成り立ち、さらに自然数 n ∈ N に対して
- {\displaystyle \Gamma \left({\frac {1}{2}}+n\right)=\left(-{\frac {1}{2}}+n\right)!=\Pi \left(-{\frac {1}{2}}+n\right)={\sqrt {\pi }}\prod _{k=1}^{n}{2k-1 \over 2}={(2n)! \over 4^{n}n!}{\sqrt {\pi }}={(2n-1)! \over 2^{2n-1}(n-1)!}{\sqrt {\pi }}}
が得られる。例えば
- {\displaystyle \Gamma \left(4.5\right)=3.5!=\Pi \left(3.5\right)={1 \over 2}\cdot {3 \over 2}\cdot {5 \over 2}\cdot {7 \over 2}{\sqrt {\pi }}={8! \over 4^{4}4!}{\sqrt {\pi }}={7! \over 2^{7}3!}{\sqrt {\pi }}={105 \over 16}{\sqrt {\pi }}\approx 11.63.}
同様に n ∈ N に対して
- {\displaystyle \Gamma \left({\frac {1}{2}}-n\right)=\left(-{\frac {1}{2}}-n\right)!=\Pi \left(-{\frac {1}{2}}-n\right)={\sqrt {\pi }}\prod _{k=1}^{n}{2 \over 1-2k}={(-4)^{n}n! \over (2n)!}{\sqrt {\pi }}}
が成り立ち、例えば
- {\displaystyle \Gamma \left(-2.5\right)=(-3.5)!=\Pi \left(-3.5\right)={2 \over -1}\cdot {2 \over -3}\cdot {2 \over -5}{\sqrt {\pi }}={(-4)^{3}3! \over 6!}{\sqrt {\pi }}=-{8 \over 15}{\sqrt {\pi }}\approx -0.9453.}
パイ函数が殆ど全ての複素数値に対して定義される階乗の延長として唯一のものでないことはもちろんである。それは定義域において解析的としても同じことである。しかし、ふつうはこれが階乗の複素函数への最も自然な延長であるものと考える。例えば、ボーア・モレルップの定理はガンマ函数が Γ(1) = 1 かつ函数等式 Γ(n + 1) = nΓ(n) を満足する、ガウス平面の全域で有理型かつ実軸の正の部分で対数凸(英語版)となるような唯一の函数であることを述べる。同様の主張はパイ函数に関しても、函数等式 Π(n) = nΠ(n − 1) に関して述べられる。
そうは言うものの、解析的函数論の意味で恐らくより簡明な、階乗の値を補間する複素函数は存在する。例えばアダマールの「ガンマ」函数[10]はガンマ函数とは異なり整函数になる[11]。
オイラーはまた非整数の階乗に対する近似無限乗積
- {\displaystyle {\begin{aligned}n!=\Pi (n)&=\prod _{k=1}^{\infty }\left({\frac {k+1}{k}}\right)^{n}\!\!{\frac {k}{n+k}}\\&=\left[\left({\frac {2}{1}}\right)^{n}{\frac {1}{n+1}}\right]\left[\left({\frac {3}{2}}\right)^{n}{\frac {2}{n+2}}\right]\left[\left({\frac {4}{3}}\right)^{n}{\frac {3}{n+3}}\right]\cdots \end{aligned}}}
についても考察している。これは上記のガンマ函数に関する公式と同じものと見做すことができる。しかしこの公式は収束が遅く、実用的な意味でパイ函数やガンマ函数の値を計算することに利用することはできない。
ガウス平面上での挙動
複素変数に対する階乗の絶対値と偏角を、単位長さ間隔で −3 ≤ x ≤ 3, −2 ≤ y ≤ 2 の範囲で描いた等高線。太くなぞった等高線は φ = ±π である。
複素変数の階乗の値をガンマ函数による表現を通して評価することができる。絶対値 ρ と偏角 φ を用いて
- {\displaystyle f=\rho \exp(i\varphi )=(x+iy)!=\Gamma (x+iy+1)}
と書けば、絶対値一定曲線 ρ = (定数) と偏角一定曲線 φ = (定数) を等値線として格子を描くことができる。一定間隔で引いた等値線の間にさらに細かく等値線を引けば、それが補間で得られる値である。極である負の整数においては絶対値と偏角が定義できず、またその周辺で等値線は密になる。
n | gn | 近似値 |
---|---|---|
0 | 1 | 1 |
1 | −γ | −0.5772156649 |
2 | {\displaystyle {\frac {\pi ^{2}}{12}}+{\frac {\gamma ^{2}}{2}}} | 0.9890559955 |
3 | {\displaystyle -{\frac {\zeta (3)}{3}}-{\frac {\pi ^{2}\gamma }{12}}-{\frac {\gamma ^{3}}{6}}} | −0.9074790760 |
γ はオイラー・マスケローニ定数、ζ はリーマンゼータ函数である。 |
|z| < 1 に対してはテイラー展開
- {\displaystyle z!=\sum _{n=0}^{\infty }g_{n}z^{n}}
が利用できる。この展開のより多くの項は、Sageのような計算機代数システムで計算できる。