ベーシックインカム ⅩⅥ【】ベーシックインカムと他の現金支…
社会思想との関係
自由主義
基本的人権、生存権といった自然権がベーシックインカム配布の根拠とされる。たとえば経済的自由主義者のフリードリヒ・ハイエクは「組織化されたコミュニティの内部で自らを養うことができない人々に助力の手を差し伸べることは、全員の道徳的義務と感じられるかもしれない。最低所得がなんらかの理由で市場で十分な生活費を稼げなかった人々すべてに対して【市場外】から提供される場合、これは自由の制限にいたることもないし、法の支配と対立することもない。」とし法の支配との整合性の観点から最低限度の生活保障を提唱した。ハイエクは具体的な市場過程への政府の介入については終始一貫して拒絶し続けたが、市場過程の前提となるノモスの法(部族社会的な法)型のルール設計についてはその晩年において許容するようになった[73]。
右派と左派の呉越同舟
ベーシックインカム賛成者には一般的に中道右派政党が主張する新自由主義派と中道左派政党が主張する福祉重視派の両者がおり、右派と左派の両方にベーシックインカム賛成者がいる[74]。
実際に、日本の2010年の参院選において、最右派政党であるたちあがれ日本の議員や右派政党である自民党の議員、左派政党の社民党の議員がベーシックインカム賛成派として右派左派関係なく当選している[43]。
功利主義
社会学者の大澤真幸によれば、ベーシックインカムは「修正版功利主義」を体現する原理とみなすことができるという。功利主義とは、「最大多数の最大幸福」を目標として社会設計を行う思想であるが、「最大多数」と「最大幸福」という2つを同時に達成しようとすると「幸福の総和さえ大きくなれば個人の権利は軽視される」という難点が生じる。そこで目標を「最大多数の一定幸福」というように切り替えた修正版の功利主義を考えれば、最低限の生活水準をおくれるだけの資金(=一定幸福)を無条件に国民全員へ(=最大多数)給付するベーシックインカムの思想と結びつくことになる。[75]
ワークシェアリング
ワークシェアリングは人々の間で労働を分け合う制度であるが、ベーシックインカムとワークシェアリングを組み合わせる提案も見られる。個人から見ると働き方の自由化、企業から見ると雇用の多様化を実現できる。個人(雇われる側)がワークシェアリングに反対する理由は主に収入である[76]。仕事をシェアすることで労働時間は減るが、それだけ一人一人の収入も減ることになる。しかし、ベーシックインカムで収入が下支えされれば、仕事をシェアしてもよいと考える人は増えるであろう。一方、企業(雇う側)の反対理由の一つは、雇用者を増やすことで社会保障費がかさむことである[77]。これもベーシックインカムによりクリアできる可能性がある[注釈 3]。ワークシェアリングを社会全体に普及させるには法による制度化が必要であるが、制度を適用するに当たっては個人の意思を尊重すべきである。できるだけ多くの人に仕事を分け与えようとフルタイムで働きたい者にまでワークシェアリングを強制される可能性もある。ベーシックインカムは自由主義・資本主義経済の下で行うことを前提としている。