>  >  > ビッグバン以前の宇宙とは? 「サイクリック宇宙論」

 

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 我々の認識ではすべての物事にはじまりがあり、そして終わりがある。我々が暮らす地球にもいつか寿命がやってきて、もちろん太陽も燃え尽きる日がくる。そしてこの宇宙にも、はじまりと終わりがあると考えるのは自然だろう。いわゆる“ビッグバン理論”である。


■ビッグバンは宇宙のはじまりではない?

 長年、バチカンのローマカトリック教会と科学界とは、世界観や人間観の上で相いれない断絶が一部であったとされているが、現ローマ教皇であるフランシスコは2年前に“生物進化論”や“ビッグバン理論”を認める発言を行って話題になった。

ローマ法王庁科学アカデミー」において教皇フランシスコは「神は決して魔法の杖を持った魔術師ではない」と発言し、いわば神の“擬人化”を否定し、ビッグバンも生物の進化も実際に起こったことであり、その背後に神の意志があると説いている。カトリックの教えと科学的知見は相いれないものではないということだ。

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EWAO」の記事より

 宇宙物理学の世界においてビッグバン理論が必ずしも多くの支持を集めているわけではないのだが、物事にはじまりと終わりがあるとすれば、最初にビッグバンがあったという説明はわかりやすいものかもしれない。しかし、この「ビッグバンがすべてのはじまりではない」と主張する科学者の声が強まってきているようだ。

 カナダ・ウォータールー大学のミール・ファイサル教授らの研究チームが最近に発表した研究によれば、現在我々が生きているこの世界は、別の宇宙がフェイズを越えて拡張した結果の世界であるということである。つまりビッグバン以前にもこの宇宙とは違う宇宙があったというのだ。すべてのはじまりであるビッグバンは確かにあったというのに、その前から宇宙があったというのは、いったいどういうことなのだろうか。

 

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■宇宙には4つのフェイズがありそれを繰り返している

 宇宙にははじまりも終わりもない……というよりも、はじまりと終わりを何度も繰り返していると考えるのが「サイクリック宇宙論(cyclic universe theory)」である。ファイサル教授らも基本的にはこの立場に立っている。

 ファイサル教授によれば、宇宙には4つのフェイズ(様相)があり、その4つのフェイズを延々と繰り返しているということだ。もちろん今のこの宇宙はその4つのうちのひとつである。

 例えば水(液体)は、氷(個体)にもなるし水蒸気(気体)にもなることから3つのフェイズがあるといえる。宇宙はこれにもう1フェイズが加わって4フェイズの変化を繰り返しているということである。したがって、確かにビッグバンは起きているが、それは液体だった水が気体の水蒸気になることにも似たフェイズの移行だということだ。

「我々の宇宙論モデルでは、この宇宙はビッグバンからはじまってはいません。ビッグバンはこの宇宙のフェイズの移行なのです」(ミール・ファイサル教授)

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Disclose.tv」の記事より

 ビッグバン理論の場合、はじまりとなるビッグバンと宇宙の終焉であるビッグクランチという“特異点(singularity)”の概念を必要とするのだが、これらの現象は文字通り“特異”で異常な出来事であるため、物理法則が無用のものになってしまい、意味のある理論構築ができない。しかし、このファイサル教授の宇宙論モデル「修正一般性不確定性原理(modified GUP)」では、“特異点”の概念を必要とせずにこの宇宙の成り立ちを説明するものになるということだ。

 今のこの宇宙が、4つのフェイズのうちの1つであるとしたら、ほかの3つはどんな宇宙なのか興味深いものがある。しかし、氷と水蒸気以上に異なる世界であるとすれば、まったく想像がつかない。そして、いずれ今のこの世界はいったん幕を閉じ、別のフェイズに移行する時が来ることになる。はたしてその移行期がいつなのかということも大いに気になるのだが……。
(文=仲田しんじ)


参考:「Disclose.tv」、「EWAO」、ほか