JR福知山線脱線事故2005/425罪日工作員Ⅱ【中】
車両の問題
当該列車の編成表
方面については事故が発生した塚口 - 尼崎間を基準とする。
号車 | 7 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
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形式 | クハ207 | モハ207 | モハ206 | クハ206 | クモハ207 | サハ207 | クハ206 |
車両番号 | 17 | 31 | 17 | 129 | 1033 | 1019 | 1033 |
編成番号 | Z16 | S18 | |||||
運行区間 | 宝塚 - 同志社前 | 宝塚 - 京田辺 |
メカニズム面
ブレーキ関係
ブレーキハンドルについては、ハンドル位置に、常用最大ブレーキ(B8)と非常ブレーキの間にどちらのブレーキ指令も発せられないポイントが存在していた。この区間は、0番台・1000番台・2000番台とで異なる位置だった。また事故を起こした編成の7両目のマスコンは、そのポイントが11°あり、他の車両よりブレーキ緩解区間が広くなっていた。(事故報告書p.52 - 53)
207系7両編成の前4両(0番台/日立製作所製)と後3両(1000番台/近畿車輛製)では、主電動機(モーター)の出力などの性能に微妙な差異がある(0番台は155kW・1000番台は200kW)。また、制御装置にも違いがあり前4両のうちモハ207-31, 206-17に三菱電機PTrVVVF制御装置、後ろ3両はクモハ207-1033に東芝GTOのVVVF制御装置である。ただし、同社の場合、他にも界磁添加励磁制御の221系とVVVF制御の223系6000番台との、全く異なる制御方式の系列同士の併結運転が行われていることや、私鉄各社でも制御方式の全く異なる車両を併結させることは珍しくなく、中には近鉄30000系ビスタカー(抵抗制御)と22000系ACE(三菱GTO-VVVF制御)や京急2100形(東洋IGBT-VVVF制御)と2000形(界磁チョッパ制御)のように特急列車での高速運転の例もある(先述の221系と223系列同士の運用の場合、最高時速は120km/h)[注 10]。
車両によってブレーキの利き方に違いがあり、事故車の先頭車は特に癖のある車両だったとの運転士の証言がある(前4両は、パワートランジスタを搭載していたためブレーキを作動させると他の車両より違和感がある)。ただし、これも上記の通り、ブレーキ読み替え装置を使っての電磁直通ブレーキ・単純発電ブレーキの旧型車と電気指令ブレーキ・回生ブレーキの新世代車を連結して高速運転している例は多くあり、各鉄道会社の運転士からは「(特定の編成または複数の編成の組み合わせによっては)癖があって正確に停車させるにも苦労する」と言う話は多数あれど、それが直接的・間接的要因となって発生した事故は皆無である。
台車
「使用している鉄道車両の台車がヨーダンパ付ボルスタレス台車(端梁なし台車DT50・TR235)であって、ねじれに弱い」と鉄道評論家の川島令三などが指摘している。そのねじれによりヨーダンパが跳ね上げ運動を起こし脱線したと論じており京浜急行電鉄・京阪電気鉄道・阪急電鉄などでは、台車は安全上軽量化すべき箇所ではないという考え方からボルスタアンカ付の台車を採用していることを論拠としている。また、異常振幅により空気バネが片方では大きく縮み、もう片方では大きくふくらんだため車体が傾いたのが脱線原因、とした報道もあった[13]。
しかし一方で、軟弱地盤を抱えながらも高速運転を行っている東武鉄道では、古くからボルスタレス台車が使用されている。さらに、ボルスタレス台車の構造が事故原因とする川島令三の著書内容について、鉄道ジャーナル誌に鉄道評論家・交通研究家の久保田博による反論文が掲載。台車の基本的構造はボルスタアンカの有無にかかわらず変わるものではなく、また異常振幅に対するストッパは存在しており、空気バネが大きく伸縮することはあり得ないと反論した。
なお、福知山線事故・最終報告書は、台車については論じておらず、これに対してボルスタレス台車が事故原因である旨の具体的なデータを伴った充分な再反証は提出されていない。鉄道車両の台車 脚注89
- 技術士、佐藤R&D代表取締役・佐藤国仁は、ボルスタレス台車について、事故時のような極端な超過遠心力が発生したときに初めて露呈する不備であって、通常走行の限りでは顕在化するものではない、とし、ボルスタレス台車の本質的な構造そのものを疑問視する意見には与しない、と前置きしながらも、ストッパ制限いっぱいまで変位するような極端な超過速度で曲線に進入した際には、台車のストッパ構造上ボルスタレス台車はより転覆限界速度が低い、と論じている[14]。
客室内の設備
客室内設備についても、事故発生時における被害軽減の観点から、手すりの配置、形状の改善などを検討するべきとの航空・鉄道事故調査委員会からの所見を受けて、JR西日本では207系全車と117系・115系の一部車両について車内吊り手を増設している。
車体面
事故を起こした207系車両がステンレス鋼製の軽量構造で、旧来の板厚の大きい鋼鉄製に比べ、車体側面からの衝撃に弱いという報道が相次いだ。しかし、一般的に、長尺物はその材質によらず、側面方向の衝撃が一点にかかるとそこにエネルギーが集中するので破壊がおきやすい(飲料水などの金属製の缶類がわかりやすい例として挙げられる)。ステンレス鋼自体も普通鋼と比べると、鋼板の粘りなどで有利な面もあり、一概に強度が低いとは言えないと言う反論もある。また、錆が出ないため、経年劣化が著しく少ないという点でも有利である。
また、207系車両は従来の車両に近い構造の車体設計となっており、のちに登場した同社の223系2000番台や321系においても、製造コスト削減と量産体制の簡素化を図りながら、従来の車両と同等の強度を確保することを両立させるため、梁を省略する代わりに車体側板の強度を上げることにより、車体全体を支える設計思想に基づく車体構造となっている(これはJR東日本の209系以降の通勤・近郊型車両でも、ほぼ同じ設計思想である)。
実際に同年12月に発生した羽越本線特急脱線転覆事故でも、国鉄時代に製造された、旧来の普通鋼製車体の485系3000番台車両の一部が『くの字型』に折れ曲がるという結果からも、このような状況では車体強度への批判はほとんど意味がない(要はこのような状況を未然に防ぐシステムの構築の方がはるかに重要)という見解に落ち着きつつある。
ただし、「客室内の空間が確保されるよう車体構造を改善することを含め、引き続き車両の安全性向上方策の研究を進めるべき」との所見が航空・鉄道事故調査委員会から提出されている。これをうけて、223系5500番台以降の新型車両で、屋根と車体側面、台枠と車体側面への結合部材の追加、戸袋部(ドア)柱への補強の追加、車体側面の外板の材質変更をおこなっている[15]。また、JR東日本E233系も製造当初から側面の強化を実施した。
保守面
車両のメンテナンスが大味であるとの指摘もある。ほかの鉄道会社の車両でも日常的におこっている車輪が滑走した際にできる偏摩耗の補修放置が最たる例で、放置すればするほどに車輪が真円でなくなり、走行中に非常に耳障りな音がでる。裏を返せばそれだけの負担を車輌にかけなければならない運行体制であるともいえる。ただし、この傾向は他のJR各社でも多かれ少なかれ見られる面もある。
また、4年に1度速度計の精度を検査するよう義務付けられているにもかかわらず、車両メーカーからの納入後1度も検査していなかったことが分かり、2 %までの誤差は許容範囲とされているが3 - 4 %の誤差があった可能性があったことが判明した。ただし、仮にそのような誤差があったとしても、事故現場の制限速度が発生当時は70 km/hとなっていた事から4 %の誤差があったと計算して約73 km/hとなることから、これで事故が発生すれば発生現場での速度制限値自体の問題となり、当該事故の直接的な原因にはならなかったとの見方が強い。