ギフテッド教育Ⅰ【前半】概要・歴史・方式
ギフテッド教育用語
ギフテッド教育において頻繁に用いられる用語には以下のようなものがある。[9]
- 分化 (Differentiation)
- ギフテッドの子供個人の必要に合わせてカリキュラムを変更すること。学習内容を変えたり、教材のレベルを上げることも含む。
- 情動カリキュラム (Affective Curriculum)
- ギフテッドの子供に感情、自尊心、ソーシャル・スキルなどを教えるために作られたカリキュラム。
- 異種混合グループ (Heterogeneous Grouping)
- 異なるレベルの子供達が同じ教室で共に学べるようにした形式。
- 同一グループ (Homogenous Grouping)
- 特定の能力、興味、科目によって生徒をグループごとに分ける形式。
- 個別教育計画 (IEP, Individualized Education Plan)
- IEPとはアメリカ合衆国の特別支援教育において生徒一人一人のために作成された個別の教育指導計画書。障害児の場合は、法律によって作成が義務づけられている。必要とする設備、教材や教室での指導などを含めて、その個人が必要とする点が挙げられた書類を指すが、ほとんどの州でギフテッドという理由だけではIEPの作成を必要としていない。ギフテッドの生徒でなおかつ学習障害や注意欠陥である場合にはIEPが作成されることがあり、退屈や欲求不満を緩和するため、好ましい学習態度を強化させるためにエンリッチメントの課題を与えるといった項目が織り込まれている。つまりギフテッドの子供のIEPが作成されるには、通常の教育では物足りないというだけでなく、その他に感情障害や学習障害を持っているという診断が下されなければならない。
ギフテッド教育に関する論争
ギフテッド教育に対する論争や批判がいくつか見られる。その代表は以下のようなものである。
ギフテッドの定義
教育機関の間でもギフテッドの定義は異なる。同じタイプの知能検査を使う場合でもギフテッドが何を意味するか、例えば上位2%とするか5%とするかなど意見の相違をみる。人間には数種類の知性があるという多重知性理論 (MI Multiple Intelligence)を導入すると、従来の知能指数という指標一つでは測ることができず、伝統的な知能検査を基本にするギフテッドの定義を変えてしまうことになる。
アメリカ合衆国教育省が1993年に発表したギフテッド・タレンテッド教育方針書[7]における定義が一般的な基準の一つとなっており、多くの州でも採用されている考え方であるが以下の三点で共通している。
- 能力を発揮するのは学業に限らず多様な分野である。(例:知性、独創性、芸術性、リーダーシップ、学業)
- 他のグループとの比較に基づく。(例:通常の学級内、同じ年齢、経験、環境に育ったグループとの比較)
- 能力を伸ばす支援が必要であることを示唆する言葉が使用されている。(例:伸びる素質、将来性、可能性)
ギフテッド教育の最適な形
ギフテッド教育において最も真剣に論じられている項目の一つである。ギフテッド教育の人材や教材が不足していたり柔軟性に欠けていると考える者は、通常の一般的な指導方法の代わりにギフテッド教育を受けた子供は「普通の」学校や子供時代を体験し損ねてしまうという考えを持っている。その一方で、ギフテッド教育は、ギフテッドの子供が同レベルの級友と対話し、適度に難しい問題にチャレンジすることを可能にするため、将来人生の難題にぶつかった時にはギフテッド教育を受けなかったケースよりも心構えがしっかりできているという意見がある。
学校へのインパクト
シラキュース大学のセイポン・シェビン教授は、教育面でトリアージが行われていると主張する。[10]これはギフテッド教育が学校の持つ人材や財源を吸い取ってしまい、他の生徒に渡るべき人的資源や経済的資源が減ってしまうという考えである。しかし彼女の研究は一般的な学校ではなくギフテッドに資源が集中している学校を対象に行われたという指摘もある。
ギフテッド教育は、ギフテッドの生徒が仲間はずれにされるという問題を生み出す。同じ学校内にギフテッドと別のプログラムがある場合、平均より頭が良いという事実がいじめっ子を不快にさせ、ギフテッドをいじめの対象にするという問題が起こる [11] このようなギフテッドの生徒に対する差別は、当然生徒に悪影響を及ぼす。一方で、高知能であることをからかわれても、ギフテッドの子供は同等に扱ってくれる友達を見つけ、いじめっ子に日常生活を邪魔させたりはしないと考える者もいる。
西洋は個人の生来の能力差が受け入れられやすい風土であるが(日本にギフテッドが浸透しない理由を参照)、1990年代より能力別進路指導を廃止するデトラッキング (Detracking)という考えが広まりだした。日本の習熟度別学習と同じく、クラス分けによる差別感が生まれるという批判に加えて、友人関係に亀裂が入る、自尊心を傷つける、下位グループの生徒達は学習意欲が減退するといった批判から生まれたものである。[12]また同じようなレベルや興味を持った人間を集めたクラスでは意見の多様性がなくなるため、異種混合グループが好ましいという意見がある。
知能指数への依存
チャールズ・スピアマンの提唱したg因子(一般能力)の存在に懐疑的で知能検査の結果を重要視せず、ゆえにギフテッドという概念も意味がないと考える者がいる。最も有名な例としてスティーヴン・ジェイ・グールド著の『人間の測りまちがい - 差別の科学史』(ISBN 978-4309251073)が挙げられる。
スーザン・K・ジョンセンは自著[13]の中で、学校はギフテッドの能力や可能性の診断に異なった様々な測定法を用いるべきだと主張している。例えば過去の作品集、教室の様子を見学、達成度の計り方、知能点数などが含まれる。大部分の教育専門家は一つの手段だけで正確にギフテッドの判断を下すことはできないと考えている。
たとえ知能検査が好ましい診断基準だとしても、ギフテッドとみなす基準点をどこにするかという問題が残っている。
GATEやTAGという名称
ギフテッド・アンド・タレンテッド教育(GATEやTAG)という名称は、その教育プログラムを受けていない人間は才能がないということをほのめかしていると反対するものがいる。意味のある批判かどうかはさて置き、ギフテッド教育を受けていない者は才能があるのか、ないのかというのが論争点である。
経済格差
他の生徒同様、ホームスクールやギフテッド専門の私立校といった選択ができるのは経済的に恵まれた一部のギフテッドだけである。ギフテッドの中にも学習面や心理面において自分に最適の教育が受けられる者と、特別な支援を受けられない者という経済格差が生まれる。
脚注
- Colangelo, N., & Davis, G. (1997). Handbook of gifted education (2nd ed.). New York: Allyn and Bacon. 英語版の出典
- Davis, G., & Rimm, S. (1989). Education of the gifted and talented (2nd ed.). Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.英語版の出典
- Hansen, J., & Hoover, S. (1994). Talent development: Theories and practice. Dubuque, IA: Kendall Hunt.英語版の出典
- Newland, T. (1976). The gifted in historical perspective. Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.英語版の出典
- Piirto, J. (1999). Talented adults and children: Their development and education (2nd ed.). Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall.
- Marland, S. P., Jr. (1972). Education of the gifted and talented: Report to the Congress of the United States by the U.S. Commissioner of Education and background papers submitted to the U.S. Office of Education, 2 vols. Washington, DC: U.S. Government Printing Office. (Government Documents Y4.L 11/2: G36)英語版の出典
- National Excellence: A Case for Developing America's Talent
- w:en:Center for Talented Youth 2007年2月23日17:13版
- ^ National Association for Gifted Children
- ^ Sapon-Shevin, M. (1994). Playing Favorites: Gifted Education and the Disruption of Community. Albany: State University of New York.英語版の出典先
- ^ Purdue University Study: Gifted children especially vulnerable to effects of bullying
- ^ アメリカにおける能力別グループ指導
- ^ Identifying Gifted Children: A Practical Guide(ISBN-13: 978-1593630034)
関連項目
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