知能指数
知能指数(ちのうしすう、Intelligence Quotient, IQ)とは、数字であらわした知能検査の結果の表示方式のひとつである。高いほど知能が高いことを、低いほど知能が低いことをあらわす。知能指数の算出には2種類あり、「生活年齢と精神(知能)年齢の比」を基準とした従来の方式と、「同年齢集団内での位置」を基準とした方式がある。現在では従来の方式はあまり使われなくなりつつある。また、検査によってはより細かい「言語性知能検査」と「動作性知能検査」も決定する。
「同年齢集団内での位置」から算出した知能指数は標準得点で表され、中央値は100、標準偏差は15前後で定義されている。100に近いほど出現率が高く、100から上下に離れるに従って出現率が減っていく。分布はほぼ正規分布になり85–115の間に約68%の人が収まり、70–130の間に約95%の人が収まる。
従来の知能指数は「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」の式で算出される。知能指数は100に近いほど出現率が高い(人数が多い)。50–70は軽度知的障害、35–50は中度知的障害、20–35は重度知的障害とされるが、40未満を測れない検査も多い。
目次
1種類
2算出法
3分布
3.1最高値と最低値
4精神年齢・生活年齢
5異年齢との比較
6測定尺度・回数によるIQの違い
7正確性
8影響する要因
8.1遺伝性
8.2生活環境
8.3恒常性
9IQ以外の表示法
9.1知能偏差値
9.2精神(知能)年齢
9.3知能段階点
9.4パーセンタイル
9.5発達指数
10活用
10.1障害者認定
10.2就学時健康診断
10.3学力との相関
10.4小学校入試
10.5大学入試
10.6法科大学院入試
10.7公務員試験
11IQを公表している人
12出典
13参考文献
14関連項目
15外部リンク
種類
一般的に知能指数・IQと呼び習わすものには、生活年齢と精神年齢の比を基準とした「従来の知能指数 (IQ)」と、同年齢集団内での位置を基準とした標準得点としての「偏差知能指数(Deviation IQ, DIQ, 偏差IQ、偏差値知能指数)」の2種類がある。すなわち、狭義のIQはDIQを含まずに従来のIQのみを意味するが、広義のIQはDIQも含むという事である。本記事では、DIQも含んで広義のIQを意味する場合は単に「IQ」と表記するが、DIQを含まず狭義のIQを意味する場合は「従来のIQ」と表記する。
世界的に最もよく使われるIQの指標としてウェクスラー成人知能検査、児童向けウェクスラー式知能検査がある。
ウェクスラー式の全年齢や、田中ビネー知能検査Vの14歳以上の領域などの日本の新しい知能検査は、大部分が結果表示にDIQを採用しているものの、田中ビネーVの13歳以下の領域や、田中ビネー1987年版(第4版)の全年齢など、従来のIQを主体としている場合もある。
ウェクスラー式では、「全検査IQ (full scale IQ, FIQ)」「言語性IQ (verbal IQ, VIQ)」と「動作性IQ (performance IQ, PIQ)」に分かれて算出され、いずれもDIQである。なおFIQの数値はPIQとVIQの中間に位置するとは限らず、例えばVIQは87でPIQは86だがFIQは85である場合など、PIQとVIQのどちらよりも低い場合や高い場合がある。WISC-IIIやWAIS-IIIでは、さらに群指数という「言語理解 (VC)」、「知覚統合 (PO)」、「作動記憶 (WM)(WISC-IIIでは注意記憶 (FD))」、「処理速度 (PS)」の4種類の領域別の数値も算出され、これはIQと同じく中心値が100で標準偏差15の指数の形を取る。
××ビネーVでは、14歳以上対象の場合に、総合DIQの下に「結晶性」・「流動性」・「記憶」・「論理推理」4種類の領域別IQを算出することが可能である。
VIQとPIQの差、あるいは4つの群指数間の差を「ディスクレパンシー」といい、あまりにも大きい場合(15程度)は発達障害を疑ったり、特別な支援を検討する。
パズル本やTV出演者のIQが紹介される時は、高く見せるためにキャッテル式の標準偏差24が暗黙に使用される傾向にある。例えば、ウェクスラー式の140はキャッテル式の164である。
算出法
DIQを含まない場合、従来のIQを算出する方法の検査では、
- 精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100
で算出される。成人(何歳からかは検査によって違う)の場合は生活年齢を18歳程度に固定して計算する(知能年齢、生活年齢については後述)。
DIQを算出する方法の検査では、
- (個人の得点 − 同じ年齢集団の平均) ÷([15分の1または16分の1] × 同じ年齢集団の標準偏差) + 100
で算出される。ビネー式の場合は16分の1、ウェクスラー式の場合は15分の1を使用する。
分布
知能指数分布(正規分布)
IQの平均値は100であり、85–115の間に約68%の人が収まり、70–130の間に約95%の人が収まる。
右図のように、IQは100を中心として山型(ベルカーブ)に分布する(正規分布)。ただし、従来のIQを使用する場合は、必ずしも綺麗な分布ではない。標準偏差2つ分 (2SD) 以上平均値から乖離している場合は異常値とされる。××ビネー式の標準偏差は16であるため、68以下と132以上が異常値とされる。ウェクスラー式の標準偏差は15であるため、70以下と130以上が異常値とされる。
「標準得点」を参照
ギネスブックにも認定されている世界で最も高いIQの持ち主はアメリカのマリリン・ボス・サバントである。彼女のIQは228とギネスブックに登録されている。
最高値と最低値
従来のIQを使用する場合は、年齢の低い児童の場合はIQが200を超えるような場合もあるが、従来のIQは相対的な発達の度合いを示す数値であり、検査問題も難しさは有限であるため、年齢を重ねるごとに一定値以上の数値が出る確率は徐々に減っていく(一定値以下の数値が出る確率は減らない)。
DIQを使用する場合は、分布が厳密であるため、低年齢でも高年齢でも、160程度が上限で、40程度が下限である場合が多い。
WISC-IIIのFIQ、PIQは上限が160、下限が40であるが、それを超える得点も取りえるため、その場合は「161以上」、「40未満」と表示する。VIQは上限が157、下限が43である。4つの群指数は上限が150、下限が50であるが、それを超える得点も取りえるため、その場合は「151以上」、「50未満」と表示する。
新田中B式知能検査の中高成人用では、上限はISS80、IQ145であり、下限はISS20、IQ55である。
精神年齢・生活年齢
被験者の知的な能力が、何歳の人の平均と同じかをあらわしたものを「精神年齢 (Mental Age, MA)」と呼ぶ。心理学用語としての定義からもわかるとおり、性格がいくら子供っぽくても、知的能力が高い人は精神年齢は高いとされる。従って俗語的に用いられると誤解を招くので知能年齢という言い方をされることもある。発達検査などの場合は「発達年齢」と呼ぶ場合も多い。対義語は「生活年齢 (Calendar Age, CA)」であり、「暦年齢」・「実年齢」などとも呼ばれる。「肉体年齢」ともいうが、これは実年齢に対する肉体の成熟度合いの意味にも取れるので、使用しないのが望ましい。例えば精神年齢が11歳3か月で実年齢が11歳9か月である場合は「MA 11:3, CA 11:9」と表記する。成人後は知能の伸びが緩やかになり、老年になると下降していくため、精神年齢の概念は、成人後はあまり有用ではないとされるが、児童の発達を見るのには感覚的に受け入れやすい。
なお、精神年齢は12、13歳を過ぎるとそのままの定義では不自然なIQが算出されるので、一定の方法で修正される。旧版のスタンフォードビネーテストでは、平均的な人間の知的能力は16歳まで年齢とともにゆるやかに伸び、生活年齢が16歳になったとき精神年齢は15歳になったものと見なされ、以後その能力にとどまるとされる。たとえば23歳の平均的成人の知的能力はあくまで精神年齢15歳である。1987年版の××ビネーでは平均的な23歳の知能は精神年齢17歳9ヶ月とされる。これらの例からもわかるとおり、年齢尺度を用いた知能検査であっても、12歳以降はもはや本来の意味での精神年齢の定義ではなく、もっぱら自然なIQを算出するために定めた架空の数値と言っても過言ではない。このことも、比例IQが使用されなくなった要因の一つとなっている。