シヴァ=大自在天Ⅲ【悪魔界王最高破壊神】

 

ヨーガ

詳細は「ヨーガ」を参照

様々なスタイルのヨーガの理論と実践はヒンドゥー教の大きな流れの一部であり続けてきた。そしてシヴァはヨーガの多くの文献で守護神として描かれ、また語り手となっている。ヨーガは10世紀ごろか、それよりも後に体系化されていると見積もられており、例えばイシュヴァラ・ギーター(Isvara Gita、シヴァの歌の意)といった文献とともに後世に伝えられている。アンドリュー・ニコルソンによればこのイシュヴァラ・ギーターはヒンドゥー教に深く、永続的な影響を与えている[172]

さらにシヴァ・スートラ英語版)やシヴァ・サンヒター英語版)、加えて例えば10世紀のアビナヴァグプタ英語版)といったカシミール・シヴァ派の学者たちの記した文献は、ハタ・ヨーガに影響を与え、不二一元論の思想とヨーガの哲学を融合し、またインド古典舞踊英語版)の理論的発展にも貢献している。

トリムルティ

詳細は「トリムルティ」を参照

トリムルティとは、宇宙における創造と維持と破壊の機能を3柱の神に神格化させるというヒンドゥー教の理論である。ブラフマーが創造を司り、ヴィシュヌが維持を司り、シヴァが破壊/再生を司る。しかし古代の、あるいは中世の文献には様々な組み合わせのトリムルティが存在しており、中にはシヴァの含まれないものも存在する。

シヴァ像に共通する要素

シヴァとパールヴァティ。シヴァには3つのが描かれている。もつれたからガンジス川が流れ、のアクセサリーに髑髏花輪を身に着けている。体にはヴィブーティ英語版))を塗りたくり、の毛皮に座っている。

鹿を手に座るシヴァ。

  • 第三の目: シヴァは第三の目を持った姿で表現されることが珍しくなく、この目は欲望(カマ英語版)、カーマ(神))を焼いて灰にするとされている[177]。シヴァの異名として「トリャンバカ」(Tryambakam、त्र्यम्बकम्)という名がたびたび文献に登場する[178]。古典期のサンスクリット語では「トリャンバカ」にふくまれる「アンバカ」(ambaka)は「目」を意味し、またマハーバーラタではシヴァは3つの目を持つと描写されているため、しばしば「トリャンバカ」は「3つの目を持つ者」と翻訳される[179]。しかしヴェーダ語では「アンバ」または「アンビカ」(ambā、ambikā)は「母親」を意味する。そのため(マハーバーラタよりも)早い時期のこの単語を基に考えると、トリャンバカは「3人の母を持つ者」と翻訳され、マックス・ミューラーアーサー・マクドネルはこれを採用している[180]。しかしシヴァが3人の母を持つというエピソードは存在しないので、エドワード・ホプキンス英語版)は「3人の母親」ではなく、「アンビカス」(Ambikās)という集合名で呼ばれる女神達[注 15]を指すのではないかとしている[181]。その他、「3人の妻を持つ者」、「3人の妹を持つ者」など、またはこの名前はルドラに与えられた捧げものを指しているのではないか[注 16]など様々に推測されている[182]
  • 三日月: シヴァは頭に三日月を身に着けた姿で描写される[183]。そのため「チャンドラセカラ」(Candraśekhara、चन्द्रशेखर、を戴くもの)という異名を持つ。この三日月を伴った姿の起原はヴェーダの時代、まだシヴァがルドラだったころまで遡る[187]。ヴェーダにはルドラが傷をいやしたり、はては死者を生き返られる様子さえ描写される[188]。そのことはルドラがソーマ(霊薬)を所有している様子を連想させ、実際にリグ・ヴェーダではソーマとルドラが共に希求される賛歌が存在する[188]。加えて後の文献にはソーマとルドラを同一視する記述も見られる[189]。ソーマはまた、徐々に月と同一視されるようになっている。そのごルドラがルドラ・シヴァとしての重要性を増したころから頭に月が掲げられるようになった[190]
  • : シヴァは体にバスマ英語版)、またはヴィブーティ英語版))を塗りたくった姿で描写される。この灰は、全ての形あるものは永遠ではなくいつかは灰に帰ること、そして永遠の魂と精神的解放を追い求めることの重要さを表現している。
  • もつれた髪の毛: シヴァのこの特徴的な髪型もまたいくつかの異名の元になっている。例えば「ジャティン」(Jaṭin、もつれた髪を持つ者)[195]、「カパルディン」(Kapardin)など。カバルディンは「もつれた髪を与えられた者[196]」、「貝殻(カパルダ)のようなひも状に編んだ髪を持つ者[197]」などと翻訳される。カパルダ(kaparda)はタカラガイコヤスガイなど、あるいは貝殻状に編んだ髪、あるいはもじゃもじゃの髪、くるくるに丸まった髪を意味する[198]
  • 青い喉: 「ニーラカンタ」(Nīlakaṇtha、नीलकण्ठ、青い首の意)というシヴァの異名の元になる特徴。乳海攪拌によって猛毒ハラーハラ英語版)が湧き上がってくると、シヴァはそれを無毒化するために飲み込む。シヴァのの中には宇宙が存在しているため、それを見たシヴァの配偶神パールヴァティは慌ててシヴァの首を締めあげ毒が宇宙に回ることを防いだ。しかし毒はシヴァの喉を青く変色させた。
  • 瞑想するヨーギー: シヴァはヨーガのポーズ、結跏趺坐を組み瞑想に耽る姿で、また場合によってはヒマラヤカイラス山の上で瞑想する姿で、ヨーガの王として表現されることも珍しくない[191]
  • 聖なるガンジス: シヴァはまた、「ガンガーダラ」(ガンジス川をもたらす者)という異名を持つ。ガンジス川はシヴァのもつれた髪から流れ出ている[203][204]。インドの主要な河川のひとつであるガンジス川は、シヴァのもつれた髪をその住処としていると言われる[205]。(参考: ガンガー
  • 虎の毛皮: シヴァはの毛皮の上に座った姿で描写されることも多い[191]
  • : シヴァはナーガ(蛇)を首に巻いた姿で度々表現される[206]
  • 三叉の槍: シヴァは通常トリシューラと呼ばれる三叉槍を持った姿で表現される[191]。この槍は武器、あるいは象徴として様々な文献に登場する[207]。シンボルとしてのトリシューラは「創造する者」、「維持する者」、「破壊する者」というシヴァの3つの側面を表している[208]。あるいは3つのグナ(トリグナ)、サットヴァ、ラジャス、タマスの平衡状態を表現している[209]
  • 太鼓: 砂時計のような形の太鼓ダマル英語版)を持つ。これはナタラージャ(Nataraja)という名で知られるシヴァの踊る姿を表した偶像に良く見られる特徴である[212]。このダマルを持つ際にはダマル・ハスタ(ḍamaru-hasta)と呼ばれる独特の手のポーズ(ムドラ)が用いられる[213]。ダマルはカーピーリカ派(シヴァ派の一派)シンボルとして用いられることでも特徴的である[214]
  • : 南インドではシヴァはよくパラシュ英語版)(斧)と鹿を手に持った姿で表される[215]
  • 数珠: シヴァは右手に数珠を巻いた姿で描写される。この数珠は通常ルドラークシャ(菩提樹の実)でできているとされる[191]。優雅さと乞食(こつじき)と瞑想を象徴する。
  •  シヴァのヴァーハナ(神の乗り物となる動物)であるナンディン(またはナンディー)がシヴァとともに描かれる。シヴァと牛のつながりは彼の異名である「パシュパティ」(Paśupati、पशुपति、牛の王の意)にも表れている[220]。ステラ・クラムリッシュは「パシュパティ」を「獣の王」という意味にとる。彼女は「獣の王」は特にルドラにあてられる異名であるとする[221]
  • カイラス山: ヒマラヤ山脈カイラス山は伝統的にシヴァの住居であるとされている。ヒンドゥー神話ではカイラス山はリンガの形をしていると見なされ、世界の中心であると考えられている[223]
  • ガナ: ガナ英語版)はカイラス山に住むと言われるシヴァの眷属たちである。彼らの性質からしばしばブタガナス(bhutaganas、幽霊の軍隊)などとも呼ばれる。彼らの主人が侮辱された場合などを除いては基本的におとなしく、シヴァをとりなす存在として信仰の対象となる。シヴァの息子ガネーシャはガナたちの長を任されており、そのため「ガナ・イーサ」、「ガナ・パティ」(ガナの王)と呼ばれる[224]
  • ヴァーラーナシー: ヴァーラーナシーは特にシヴァのお気に入りの街と言われており、インドの聖地のひとつに数えられている。宗教的文脈ではヴァーラーナシーは「カーシー」とも呼ばれる[225]