>  >  > パナマ文書と障害者年収200万円以下の距離

2016.05.24

「パナマ文書」が暴いた貧富格差〜障害者の98%が年収200万円以下の貧困という重い現実

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パナマ文書で富裕層の脱税が暴かれる!?M. Primakov / Shutterstock.com

 5月11日付けの日本経済新聞社によれば、5月10日、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、前代未聞・史上最大の情報リーク(漏洩)と噂される「パナマ文書」を世界初公開した。

 タックス・ヘイブン(租税回避地)を使った21万4000社のペーパーカンパニーに関する情報をリークしたパナマ文書は、役員や株主に就いていた各国の要人や法人、首脳や富裕層による国際的な節税網を暴きつつ、税の抜け穴を容認する税制の矛盾や貧富格差のあからさま実態を告発している。

タックス・ヘイブンヘ逃げ込む富裕層を暴いたパナマ文書

 パナマ文書は、タックス・ヘイブンを活用する21万4000社のペーパーカンパニーを設立したパナマの法律事務所モサック・フォンセカから流出した門外不出の超マル秘資料だ。電子メールアドレス、銀行口座、個人の身分証明書など、約1150万件、2.6テラバイトもの約40年分の膨大な情報データが含まれている。

 タックス・ヘイブンは、国際金融取引を活発化させるために、外国資本企業や多国籍企業の法人税、富裕層の所得税の課税を軽減・免除する国や低課税地域だ。登記費用のみで会社を設立できる簡便さ、通貨決済の非課税、金融口座の匿名性や秘密主義などが特徴。

 暴力団やマフィアの資金が大量に流入するマネーロンダリング(資金洗浄)の巣窟ともいわれる。ペーパーカンパニーの所在地は、パナマ、英領バージン諸島、ケイマン諸島などの資源や産業が乏しいカリブ海の国々をはじめ、スイス、ルクセンブルク、香港、シンガポールなどの金融先進国が多い。

 情報開示の件数は、中国約2万5000件、香港約1万3000件、イギリス約5000件など。節税や不正な脱税が取り沙汰される首脳や富裕層は、中国の習近平国家主席の親族、ロシアのプーチン大統領の友人、英国のキャメロン首相、アイスランドのグンロイグソン前首相、ウクライナのポロシェンコ大統領などの要人ら。香港の俳優、ジャッキー・チェンの名もある。

 日本では、大手商社の丸紅や伊藤忠商事、ソフトバンクのグループ会社、警備会社セコム、UCCホールディングスの上島豪太社長、楽天の三木谷浩史社長などの約400件の情報を開示している。

 2013年時点のタックス・ヘイブンが保有する金融資産は5兆8000億ユーロ(およそ720兆円)だが、パナマ文書が暴いたのは氷山の一角にすぎない。複雑な海外ルートを通じて財産を移転するので、実態は見えない。

 指導者や富裕層を優遇する節税網への不公平感は強く、激しい批判を浴びている。ICIJは掲載した個人や企業のすべてが不正な脱税に関わっているわけではないと釈明するが、パナマ文書の情報公開が不正行為の摘発につながることを期待している。

 

 

 

障害者の98.1%が年収200万円以下のワーキングプア!

 5月18日、国際労働機関(ILO)は、『2016年版世界の雇用・社会見通し』の中で、非正規雇用の増加などに伴って経済格差が拡大したため日本、米国、欧州連合(EU)などの先進国で貧困率が上昇していると発表した。

 ILOの報告によれば、先進国の可処分所得が中央値の6割に届かない相対的貧困の人の割合(2005年から20012年への推移)を比べると、日本は22.1%、米国は24.6%、EUは16.8%に上昇。

 先進国全体で働いても貧困状態にあるワーキングプアは労働者の約15%(およそ700万人)以上、新興国・途上国の絶対的貧困の人は20億人と推定される。

 障害者福祉施設の連絡組織である「きょうされん」(東京都新宿区)は、昨年7月から今年2月に作業所などの福祉サービスを利用する障害者1万2531人の生活状況を調査し、98.1%(1万2289人)が年収200万円以下のワーキングプアだったと発表している。

 年収は、障害基礎年金(1級なら月額8万1258円)、給料、工賃などを合計し、生活保護受給者は除外した。内訳は100万円以下が61.1%(7654人)、125万円以下が82.3%(1万309人)。家族に依存しなければ生きられない障害者の苦しい生活状況が窺える。

 また、慶応大学の山田篤裕教授らの研究グループは、厚生労働省の『国民生活基礎調査(2013年)』のデータを分析したところ、障害者の相対的貧困率は25%、20~39歳は28.8%、40~49歳は26.7%、50~64歳は27.5%と判明。

 障害のない人に比べると、ほぼ2倍の高率だ。障害者を含む全人口の貧困率は16.1%。日本の相対的貧困率は34のOECD加盟国の6番目と高い。

 相対的貧困率は、全人口に占める生活の苦しい人の割合を示す指標。1人当たりの可処分所得を高い人から順に並べ、真ん中の人の所得額(中央値)の半分に満たない人が全人口に占める割合を表している。

 障害者は、働ける職場が限られ、賃金が低く、しかも障害年金など公的な現金給付水準が先進国の中でも低いため、必要最低限の生活が保障されていない。貧困から脱出するには、本人や家族の就労を促進しつつ、障害者支援を進める他ない。

 障害者の雇用の受け皿といえば、企業が障害者の雇用を促進する目的で設立する特例子会社がある。2013年現在380社。10年前と比べると約3倍に増加した。だが、障害者の賃金体系が親会社と同じなのは8.2%にすぎない。

 特例子会社で働く障害者の平均年収は、150万円以上300万円未満が60.3%、150万円未満が25.3%、300万円以上400万円未満が11.9%。つまり、就労の場があっても、障害者のほぼ4人に1人は貧困状態である現実は変わらない。

 また、障害者年金は、最重度の1級でも月額8万1258円。東京都の生活保護基準がおよそ13万円程度。障害の1級という最重度の障害でも、生活保護費より5万円も低く、最低限度の生活が保障されているとは決して言えない。

賛否が分かれるベーシック・インカム

 障害者の貧困対策に妙案はないのか? 最低限の生活を保障するベーシック・インカムがあるが、制度の運用の面で賛否が分かれる。生活保護を受給している障害者も多いが、2万円程度の加算があるにすぎない。

 しかも、障害者支援の現場は、介護問題と同様に肉体的・精神的に厳しく、賃金は低いため、常にサポートする人材が不足している。障害者本人への支援と同時に、サポーターの支援環境も改善する必要があるだろう。

 富める者ますます富み、貧しき者ますます貧する。地球サイズのグローバル経済が産み落とした金融資本主義は、経済格差や貧困格差の元凶となっている。タックス・ヘイブンヘ逃げ込む富裕層、ますます貧困の深みに喘ぐ障害者。金融資産720兆円と年収200万円。貧困格差は世界に広がっている。

 しかし、社会保障の公平性と経済の効率性は矛盾するのだろうか? 孔子の『論語・為政』に「義を見てせざるは勇なきなり」とある。相対的貧困率が高止まりしている日本こそ、世界に率先して経済格差や貧困格差に立ち向かい、先例を世界に差し示すべき時ではないだろうか?
(文=編集部)