2016.08.09

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関連キーワード:ビッグバウンス , ビッグバン , 宇宙 , 涼宮ハルヒ , 量子力学

 

 宇宙の始まりはビッグバンではなかったかもしれない。そんな研究結果が7月6日付の学術誌『Physical Review Letters』に掲載され、にわかに注目を集めている。

 現在、宇宙の始まりはインフレーション(急膨張)とそれに続くビッグバン(大爆発)と考えられている。何もない「無」の状態に、ごく小さな宇宙の「種」が突如現れ、膨張・爆発して生まれたのがこの宇宙だとする説だ。ビッグバンについては学校で学んだ読者も多いだろう。しかし、その常識が覆されるかもしれない。

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イメージ画像:「Thinkstock」より

■宇宙は膨張と収縮を繰り返している!?

 今回の論文で、イギリスの公立大学インペリアル・カレッジ・ロンドンのステファン・ギーレン氏らは、宇宙の始まりは突如現れた「種」ではなく、潰れた古い“壊れかけの宇宙”だったと主張している。この説によれば、宇宙には膨張と収縮の2つの時期があるという。つまり、古い宇宙が収縮して、再び膨張したのが現在の宇宙というわけだ。

なお、この考え方は新しいものではなく、1922年に発表された「ビッグバウンス」と呼ばれている古典的な説のひとつだ。しかし、これを裏づけるモデルがなかなか登場しなかったことから、いつのまにか忘れ去られてきた経緯がある。


■この宇宙はいつか縮み始める!?

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画像は「Imperial College London」より引用

 今回、ギーレン氏らはビッグバウンスを説明するため、量子力学を用いた新たなモデルを発表した。このモデルでは、宇宙がとんでもなく小さいサイズに収縮した場合は、通常の物理学ではなく、量子力学だけが作用すると想定している。

 ギーレン氏らによる宇宙誕生のシナリオとは、次のようなものだ。この宇宙が生まれる前には別の宇宙が存在していたが、それが極めて小さな状態まで収縮してしまった。人間にはとても目視できないほど小さくなった宇宙は、量子力学的な作用によって、今度は大膨張(ビッグバウンス)を起こした。その結果、現在の宇宙が生まれたのだという。

 ここでよく考えてみて欲しい。ギーレン氏らのモデルは、私たちがいる宇宙の「始まり」だけではなく、同時に「終わり」の姿さえ示唆しているのだ。今は膨張を続けているこの宇宙だが、いずれ膨張は止まり、収縮を始める可能性がある。収縮し始めた宇宙がどうなるかにも諸説あるのだが(全ての物質がバラバラに崩壊して消滅する、一点に収束して潰れるなど)、今回のモデルが正しいならば、この宇宙は“死ぬ”のでも“消えてしまう”のでも“無に還る”のでもなく、収縮した後に再び膨張して、新たな宇宙へと生まれ変わることになるではないか。

 

 

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イメージ画像:「Thinkstock」より

■この世はパラパラ漫画!?

 ところで、このビッグバウンス説が正しいとした場合、私たちを取り巻く身近なあるモノの見方が変わってしまう可能性があるという。それは、「時間」だ。

 もともとビッグバウンス説は、「ループ量子重力理論」という考え方とのつながりにおいて注目を集めた。この理論によると、時間にも物質における原子のような「最小単位」が存在することになる。つまり、私たちを取り巻く時間とは、アニメーションやパラパラ漫画のようなものかもしれないのだ。一部の読者は、ライトノベルやアニメとして人気を博した「涼宮ハルヒシリーズ」を思い出すかもしれない。そう、未来人・朝比奈みくるが語ったあの理論である。もしも時間の最小単位が観測できれば、いわゆる多元宇宙の実在を証明し、ひいてはそれを目視できる可能性さえ生じてくるという。


 宇宙は「無」から突然生まれたのか、それとも生まれ変わりを繰り返しているのか? さらに時間には最小単位があって、多元宇宙も存在するのか? たまには夜空を見上げて、宇宙の謎、ひいては時間の不思議に浸ってみるのも悪くない。
(吉井いつき)


参考:「Imperial College London」、「Physical Review Letters」、ほか