生態学の基本法則

生態学の研究分野

生態学は生物学の一分野である。生態学で扱う対象は生物体、個体群群集生態系生物圏などである。 生態学では、生物とそれをとりまく環境間の相互の関係に焦点を当てた研究を行う。そのため、地質学生化学地理学土壌学物理学気象学などの他の学問分野とも関連をもち、総合的な(=非還元主義的な)学問とされる。

以下に、生態学における諸分野を、スケールの小さな物から大きい物の順に列挙する。[3]

個体生態学 (organismal ecology)
環境による生物個体への影響を研究する。生理学(生態生理学)、進化生態学、行動生態学を含む。
個体群生態学 (population ecology)
個体数に影響する要因や個体数の変化を研究する。
群集生態学 (community ecology)
捕食や競争のような種と種の相互作用を研究する。
生態系生態学 (ecosystem ecology)
生態系と環境の関係を研究する。エネルギーの流れや化学的循環に着目する。
景観生態学 (landscape ecology)
生態系を横断したエネルギーや物質の循環、生物の移動に関して研究する。
地球生態学 (global ecology)
エネルギーや物質の循環が、生態圏・生物圏を横断した生物の機能や分布に与える影響について研究する。

生物圏と生物多様性

現代の生態学者にとっては、

といった幾つかのレベルで研究がなされ得る。

個体レベルで生態学的な視点と言えば、古くは生理生態学的なアプローチ、と言うことになろう。たとえばある種の海岸生物の分布域を、個体の耐塩性と関連づける、といったものである。近年では、行動生態学の進歩によって、行動や生活史の上での特徴までもが個体を単位に考える必要が示されている。

個体群レベルでは、対象は個々の生物の種、あるいはその一部である。ただしその個体を取り上げ、研究室内でその機能と構造を調べるのではなく、その生物が生存している場に於いて、さまざまな特性について考える。当然ながら対象とする地域は狭く、その生物の活動圏がひとつのまとまりである。

生物圏レベルの視点に立った場合、地球水圏岩石圏大気圏といった構成要素から成っている。ときに第四の要素として扱われる生物圏は、惑星上で生命が発展できる部分である。

生物の大多数は-100~+100mの間に位置する区間に生息しているが、生物圏は深さ11,000m、海抜15,000mまでの非常に薄い表層である。

生物は、はじめ太陽光の届く浅い水辺で発達し、やがて多細胞生物が現われ、集合し、底生生物となった。また、紫外線から生物を守るオゾン層が生まれたことで、陸上で生活する生物が発展を遂げた。地上の生物の多様性は、大陸が分離・衝突することによって増大したと考えられている。

アメリカ合衆国アリゾナ州に建設された密閉型人工生態系研究施設、バイオスフィア2の外観

生物圏と生物多様性は、地球の特徴として不可分なものである。生物圏は、生物が存在する領域として定義されるが、生物多様性はその多様さを指す概念である。例えるなら、生物圏が容れ物であるならば、多様性はその内容物の状態を表している。多様性は、生態系レベル、個体群レベル(遺伝的多様性)、種間レベル(種多様性)といった異なる枠組みでとらえることができる。

生物圏は、炭素窒素酸素といった、多くの生物にとって必要な元素を非常に多量に含む。リン硫黄カルシウムなどのその他の元素も、生物には不可欠である。生態系・生物圏レベルでは、これらの要素は無機・有機の状態間で変化しながら、常に循環している。

生態系が機能するための主要なエネルギー源は、太陽光である。植物は光合成により、光を化学エネルギーに変換する。この過程でが生成され、生態系を動かす第二のエネルギー源となる。糖のうちいくつかは、エネルギー源として他の生物に利用され、その他の糖もアミノ酸などの高分子を形成する材料となる。植物は糖から蜜を作り送粉者を誘うことで、繁殖を可能にしている。

細胞呼吸は、哺乳類などの生物が糖を二酸化炭素や水に変換し、エネルギーを得る過程である。他の生物の呼吸活動に対する植物の光合成活動の割合は、大気中の成分構成(特に酸素)を決定する。気流は大気を攪拌することで、生物活動が濃密な地域と希薄な地域との間での大気バランスを保つ役割を持つ。

水もまた水圏・岩石圏・大気圏・生物圏の間でやり取りされる存在である。海洋は水を蓄えた巨大なタンクであり、熱的・気候的安定性を請け負うとともに、海流によって化学物質の輸送も担っている。

生物圏がどのように働いているか、また人間の活動によって生じる機能不全をより深く理解することを目的とし、アメリカのアリゾナ州バイオスフィア2と呼ばれる密閉型人工生態系が建設され、様々な研究活動が行われている。

生態系の概念

生態学の第一の原理は、各々の生物は、それを取り巻く環境を作りあげる他のあらゆる要素との間に、進行的・継続的な関係をもつということである。「生態系」とは、「生物・環境間の相互作用の存在するあらゆる状況」として定義することができる。

生態系は、生物(生物群集)と、その生物が存在するための媒体(生育地・生息地)という、2つの構成要素から成る。生態系内では、種は食物連鎖において互いに関係し、依存し合っている。また、生物同士や環境との間で、エネルギーと物質をやりとりする。

生態系という概念は、さまざまなスケールの単位 --- 1つの池、1つの草地、あるいは1個の木片といった --- に適用できる。

微小な生態系の単位としてmicroecosystemという言葉が使われる。例として、1個の石とその下に存在するすべての生物との関係を考えることができる。同様に、mesoecosystemは森林、macroecosystemは全ての生態地域というように使い分けられる。

生態系はしばしば以下のような、関連する生息空間に基づいて分類される。

恒常性

生息空間は、地質地理気候といった非生物的な環境要因によって、その範囲が規定される。非生物的な環境要因としては、以下のものが挙げられる。

  •  - 生物にとって不可欠なものである。陸上においては、供給される水の量(降雨量など)と季節変動が重要な環境要因である。
  • 空気 - 生物に酸素二酸化炭素を供給する。また、花粉胞子を散布する。
  •  - 養分供給源として成長を支える。土は岩石の破砕物と有機物が混じったもので、有機物は生物起源の、いわゆるデトリタスである。基盤となる岩石の成分があまりに特殊な場合、土壌成分が偏り、成立する生物群集が制限される場合がある。
  • 温度 - 高温すぎても低温すぎても生物の活動は制約される。生物種によっては温度に対する耐性は様々である。地球上では、おおむね低温の程度によって生物多様性が制限される。
  •  - 光合成に必要である。光の当たらない環境(地下や深海など)では、一般には生産者が欠損する。

ただし、このような非生物的要因に、生物が全く関与できないかと言えば、そうではない。一般の見方としては、気候的要因などは緯度や標高などによって決定されるものと思われるが、そのようなものであっても、生物の存在によってある程度の変化は生じる。例えば、過度の伐採によって砂漠化している地域があるとする。一度砂漠化すると回復は難しいが、それではなぜ以前には樹木があったのかという疑問が生じる。これは、樹木が過度の攪乱(かくらん)を受けなければ、砂漠にならなかった、つまり砂漠の気候になるのを植物が止めていたことを意味する。一般的に、植物がよく生育していた環境を、過度の攪乱によって裸地化した場合、気温の変動幅が大きくなり、乾燥化する傾向がある。このように、非生物要因によって生物群集が影響を受けることを作用、逆に生物群集が非生物要因に影響を与えることを反作用という。

生態学的な危機

1986年、チェルノブイリ原子力発電所で発生したメルトダウン事故では、放射線への大量被曝の影響を受け、多くの人々と動物が癌によって死亡し、多数の奇形が発生したと報告されている。現場周辺の土地は、事故により生じた多量の放射性物質のため、現在では放棄されている。

2012年6月6日、地球の生態系は気候変動人口増加環境破壊の要因により、今後数世代で崩壊し、その転換点が今世紀中に訪れるという報告が『ネイチャー』に発表された。しかし、持続不可能な成長パターン、資源の消耗などを止めることで回避することは可能としている[4]

政治的生態学

「エコロジー」も参照

政治的生態学(英語:political ecology)とは、政治的・経済的・社会的要因がどのように環境に影響を与えているかを研究する領域である。近年の環境悪化の結果として、エコロジー運動の機運が高まっているが、政治・イデオロギーと科学としての生態学の基本的な違いを理解することは重要である。

生態学の関係分野

脚注

  1. ^ Allee, W. C.; Emerson, Alfred E.; Park, Orlando; Park, Thomas; Schmidt, Karl P., ed (1949). “Ecological Background and Growth Before 1900”. Principles of animal ecology.. W. B. Saunders.
  2. ^ Encyclopedia of Earth: Biosphere(生物圏)
  3. ^ 池内昌彦・伊藤元己・箸本春樹 他 『キャンベル生物学 原書9版』 丸善出版株式会社、2013年。
  4. ^ AFPBB News2012年6月26日閲覧

参考文献

出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2013年5月)
  • 巌佐庸・松本忠夫・菊沢喜八郎・日本生態学会編 『生態学事典』 共立出版、2003年、ISBN 4-320-05602-7
  • 沼田眞編著 『生態学辞典 増補改訂版』 築地書館、1983年、ISBN 4-8067-2350-9
  • Berkes, Fikret (2001): Religious traditions and biodiversity. In: Levin, Simon (ed.): Encyclopedia of Biodiversity, Vol. 5. San Diego: Academic Press. pp. 109-120.
  • Ingold, Tim (1993): Globes and Spheres: The Topology of Environmentalism. In: Milton, Kay (ed.): Environmentalism: The View from Anthropology. London u. New York: Routledge. pp. 31-42.
  • Kalland, Arne (2003): Environmentalism and Images of the Other. In: Selin, Helaine (ed.): Nature Across Cultures: Views of Nature and the Environment in Non-Western Cultures (= Science Across Cultures: the History of Non-Western Science, 4). Dordrecht, Amsterdam: Kluwer Academic Publ. pp. 1-17.
  • Kalland, Arne (2005): Religious Environmentalist Paradigm. In: Taylor, Bron (ed.): Encyclopedia of Religion and Nature. London, New York: continuum. pp. 1367-1371.
  • Pedersen, Poul (1995): Nature, Religion and Cultural Identity. The Religious Environmentalist Paradigm. In: Bruun, Ole and Arne Kalland (eds.): Asian Perceptions of Nature: A Critical Approach (= Studies in Asian Topics, 18). Richmond, Surrey: Curzon Press. pp. 258-276.
  • Rappaport, Roy Abraham (1984): Pigs for the ancestors. Ritual in the ecology of a New Guinea people. New enlarged edition. New Haven and London: Yale University Press.

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、生態学に関連するカテゴリがあります。
ウィキブックスに生態学関連の解説書・教科書があります。

外部リンク


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