ネアンデルタール人の歯から抗生物質・鎮痛剤・ベジタリアン食の痕跡が発見される
2017年03月18日 ι コメント(36) ι 知る ι 人類 ι #
歯の表面には食べ物のカス・細菌・病原菌が付着し歯垢(しこう)となる。定期的に歯磨きをしないと、歯垢が石灰化して歯石となりそのまま残り続ける。
一般人にとっては迷惑なだけの話だが、実は考古学者には歓迎されている。歯石は太古のDNAを探り、食生活・健康状態・ライフスタイルを探るツールとして利用できるのである。
最近の研究で、ネアンデルタール人の歯石を調べたところ驚くべきことが判明した。彼らは天然の抗生物質や痛み止めを使用していた可能性があり、中にはベジタリアン的な食生活を送っていた者も存在するという。
ネアンデルタール人の歯石から当時の生活が明らかに
最近、ベルギーのスピー洞窟とスペインのエルシドロン洞窟で発見された4体のネアンデルタール人の歯に付着していた歯石が調査された。
知られているものの中では我々に最も近い人類であるネアンデルタール人は、現代人と多くの共通点があった。
道具を作り、火を使った。体を装飾していたり、遺体を埋葬していたりした可能性もある。『ネイチャー(Nature)』に掲載された最新論文によると、彼らは痛み止めや天然の抗生物質を使用していた可能性があり、中にはベジタリアン的な食生活を送っていた者もいるという。
自然に存在する抗生物質を治療に使用していた
歯石のサンプルは42,000~50,000年前のもので、これまで遺伝子解析されたものとしては最古である。
エルシドロン洞窟で発見された1体の顎骨には、歯の膿瘍が確認されている。彼にはさらに腸内寄生虫もいた。おそらく彼がポプラを食べていた理由はこれだろう。
ポプラには鎮痛効果のあるサリチル酸(アスピリンの有効成分)が含まれている。さらに天然の抗生物質であるアオカビも口にしていた。
以前の調査からは、シドロンのネアンデルタール人が収斂剤(しゅうれんざい)であるノコギリソウと天然の抗炎症剤であるカモミールを使用していたらしきことが判明している。
ネアンデルタール人の歯
ネアンデルタール人が薬草について豊かな知識を持っていたことは明らか、とオーストラリア、アデレード大学のアラン・クーパー(Alan Cooper)氏は述べている。
ペニシリンが開発される40,000年も前に抗生物質まで使用していたとは驚きです。よくある古代の人類についての単縦なイメージとは真逆の発見です
食べ物の変化による口内細菌の変化
またネアンデルタール人の食生活における地域的な差異も明らかになっている。エルシドロン洞窟での食事は、キノコ・松の実・コケなど、主に植物で構成されていたのに対して、スピー洞窟のネアンデルタール人は、ケブカサイやヒツジなど、肉を多く食べていた。
食生活の違いは、口内の細菌の違いと関連があるようだ。つまり肉食を行うことで、体内の細菌叢(さいきんそう)に変化が起きたことを示唆している。
「口内細菌叢の違いは、人間の細菌叢の変化がどうのように始まったのか示しているために重要です」と筆頭著者のローラ・ウェイリック(Laura Weyrich)氏。
「人間の細菌叢における歴史的な変化が、現代人の健康や変化した細菌叢に関連する問題の原因であろうことが知られています。私たちがどうやって今の細菌を手に入れたのか理解するには、過去におけるそうした変化を知る必要があります」
細菌が人体にもたらす影響
マックス・プランク研究所のクリスティナ・ワーリナー氏(Christina Warinner。研究には未参加)によると、これは旧人類の口内細菌生態系の初となる直接的な証拠だという。
実際に研究者は、口内に生息していたメタノブレウィバクテル・オラリス(Methanobrevibacter oralis)のほぼ完全なゲノムを再構成することができた。48,000年前のそれは、今日における最古の微生物概要ゲノムである。
ワーリナー氏の研究では、この属は過去では今よりも一般的であったことが一貫して示されている。人体内や表面には無数の細菌が生息しており、それが気分からアレルギーに至るまで、様々な事柄に影響を与えていることが徐々に明らかにされつつある。
ワーリナー氏の意見では、メタノブレウィバクテルは大昔、今よりもずっと大きな役割を口内生態系において果たしていたのではないかという。
が、今も昔も、その役割についてはほとんど分かっていない。人間に潜む細菌叢についての研究は、今ようやく触り程度に始まったばかりなのである。
via:nature・mentalflossなど/ translated hiroching / edited by parumo