進化
生物は共通祖先から進化し、多様化してきた。
進化(しんか、羅: evolutio、英: evolution)は、生物の形質が世代を経る中で変化していく現象のことである[1][2]。
進化論の歴史や社会・宗教との関わりについては「進化論」を、生物進化を研究する科学分野については「進化生物学」を、進化を意味する英単語の関する諸項目については「エボリューション」を参照
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目次
1定義
2進化の証拠
2.1古生物学
2.1.1ミッシング・リンク
2.2生物地理学から
2.3比較解剖学から
2.3.1相似と相同
2.3.2痕跡
2.3.3不合理な形態
2.4系統分類学から
2.5発生生物学から
2.6観察された進化
2.6.1実験進化
3進化のしくみ
3.1遺伝的変異
3.2遺伝子の頻度変化
3.2.1自然選択
3.2.2遺伝的浮動
4進化の速度
4.1形態の進化
4.2分子進化
5大進化
5.1種分化
5.1.1断続平衡説
6進化に関する誤解
7生物学以外での「進化」概念
8脚注
9参考文献
10関連項目
11外部リンク
定義
ミッシング・リンク
魚類と両生類の特徴を併せ持つティクターリクの復元画
進化を否定する創造論者は、分類群間の中間的な特徴を示す化石が得られないことを指して「ミッシング・リンク」と呼んでいる。しかし、分類群間の移行段階と考えられる化石はすでに一部得られている[11][12]。分類群の起源となった種そのものを見つけるのは確かに困難だが、それに近縁な種の化石があれば、進化過程を解明するのに充分である[11]。たとえば爬虫類と鳥類の特徴を併せ持つ化石には有名な始祖鳥に加えて、多数の羽毛恐竜がある[13][14]。クジラの進化過程は、時折水に入る陸生哺乳類であったインドヒウスに始まり、徐々に水中生活に適応していく一連の化石から明らかになっている[15][16]。現在の魚類と両生類をつなぐ移行化石としてはエウステノプテロン、パンデリクチス、アカンソステガ、イクチオステガなどが知られていたが、さらにパンデリクチスよりも両生類に近く、アカンソステガよりも魚類に近いティクターリクが2006年に発表された[17][18]。無脊椎動物では、祖先的なハチの特徴と、より新しく進化したアリの特徴を併せ持つアケボノアリなどの例がある[19]。移行化石は次々と発見されており、たとえば2009年には、鰭脚類(アシカやアザラシ)と陸上食肉類との中間的な特徴を示す化石[20]や、真猿類の祖先に近縁だと考えられるダーウィニウスの化石[21]が報告されている[22]。人類が他の類人猿に似た祖先から進化してくる過程を示す化石も見つかっている[23][24]。
生物地理学から[編集]
生物の分布がいかにして成立してきたかを探る分野である生物地理学は、進化を支持する強力な証拠をもたらす。進化生物学者のコインによれば、創造論者は生物地理学上の証拠に反論することができないため、無視を決め込んでいるという[25]。
火山活動などによる海底の隆起によってできた、大陸と繋がったことのない島を海洋島と呼ぶ。ガラパゴス諸島やハワイ、小笠原諸島といった海洋島の在来生物相には海を渡れない両生類、コウモリを除く哺乳類、純淡水魚がほとんど、あるいは全く含まれないのが普通である。それに対して大陸と繋がった歴史のある島には、哺乳類や両生類が普通に分布している。しかも島にすむ生物は、ほとんどの場合最も近い大陸の生物と近縁である。このようなパターンでは、生物が地球の歴史の中でその分布を広げながら進化してきたと考えない限り理解できない[26][27]。
地域が違うと、似たような生息環境であっても異なる生物が分布することがあり、これも進化の証拠となる。同じ砂漠でも新世界にはサボテン科、旧世界にはキョウチクトウ科やトウダイグサ科の乾燥に適応した植物が生息している[28][29]。
ダーウィンの時代には知られていなかったが、地球の歴史上、大陸は長い時間をかけて移動し、離合集散を繰り返してきた(大陸移動説)。生物の分布のなかには、かつて繋がっていた大陸に共通祖先がいて、大陸の分裂に伴って系統が分岐したと考えることでうまく説明できるものも多くある。たとえばシクリッド科の淡水魚や走鳥類の分布は、かつてのゴンドワナ大陸が複数の大陸に分裂した過程で分岐してきたことで成立したと考えられる[30]。
輪状種の存在も、生物がわずかな変化を累積して連続的に進化してきたことの傍証となる。輪状種とは、ある場所では互いに交配せず、別種として区別できる生物が、実は多数の中間型によって連続している場合を指す[31]。ヨーロッパ北西部ではセグロカモメとニシセグロカモメが互いに交配せず別種であると識別できるが、そこから東に向かい、北極の周りを一周してヨーロッパに戻ると、ニシセグロカモメが次第に変化してセグロカモメにいたる一連の亜種が観察でき、明瞭な種の区別はない。
比較解剖学から[編集]
相似と相同[編集]
進化の証拠は化石だけではなく、現生生物の形態を比較することからも得られている。たとえば陸上脊椎動物は外見上非常に多様であり、コウモリや鳥のように飛翔するものまで含まれる。それにもかかわらず、すべて基本的には同一の骨格を持ち、配置を比較することで相同(進化的な由来を同じくする)な骨を特定することができる。このことは、陸上脊椎動物が単一の共通祖先を持ち、祖先の形態を変化させながら多様化してきたことを示している[32][33]。それぞれの種が独立に誕生したとしたら、鳥の翼と哺乳類の前脚のように全く機能の異なるものを、基本的に同一の骨格の変形のみで作る必然性はない。
機能が異なっていても由来と基本的構造を同じくする相同とは逆に、由来や構造の異なる器官が同一の機能を果たし、類似した形態を持つことを相似という。たとえばコウモリと鳥、翼竜はどれも前肢が翼となっているが、翼を支持する骨は大きく異なっている[34]。鳥は羽毛によって翼の面積を大きくしており、掌や指の骨の多くは癒合して数を減らしているのに対し、コウモリは掌と指の骨を非常に長く発達させて、その間に膜を張ることで翼を構成している。その一方で、翼竜の翼は極端に長く伸びた薬指1本で支持されている。これは、翼を持たなかった共通祖先から、翼を持つ系統がそれぞれ別個に進化してきた(収斂進化)と考えれば合理的に理解できる。
痕跡
観察された進化
ガラパゴスフィンチの進化は長期の野外調査により観察されている。
家畜化・人為選択も参照。
以上の証拠は過去の進化過程を明らかにするものだが、現在進んでいる進化が観察されたこともある[49]。古典的な例はオオシモフリエダシャクの工業暗化である。このガには白色型と黒色型がいるが、工業の発展に伴う煤煙で樹木表面が黒く汚れた結果、捕食者である鳥から姿を隠しやすい黒色型のガが急激に頻度を増した[50]。次いで有名なのはガラパゴスフィンチの事例で、グラント夫妻らの30年以上にわたる長期の調査により、環境変動に伴う自然淘汰が嘴の進化を引き起こしたことが確認されている[51][52]。病原菌や害虫に抗生物質や殺虫剤で対処しようとすると、急速に薬剤抵抗性が進化することもよく知られている[53]。