ユリシーズ【小説】Ⅹ 影響【終】重要度〇位

 

 

翻案

戯曲形式で書かれている本作第十五挿話(キルケ)は、1958年マージョリー・バーケンティンによって『夜の街のユリシーズ』として舞台化された。1967年にはジョーゼフ・ストリック監督による『ユリシーズ』が公開され、ミロ・オシーがブルームを演じた。これは、原作全体の映画化であるが省略された部分も多く、また総じて自然主義的な演出で、批評家はおおむね批判的であった[48]2003年には、ショーン・ウォルシュ監督による、『ユリシーズ』を原作とする映画『ブルーム』が公開された。ブルーム役は、スティーヴン・レイで、モリーを演じたアンジェリン・ボールはアイルランド・アカデミー賞で映画女優賞を獲得している。

『ユリシーズ』に基づく楽曲には、ルチアーノ・ベリオ『テーマ(ジョイスへの賛辞)』(1958年)、ジョージ・アンタイルのオペラ『「ミスタ・ブルームとキュクロプス」より』(1925-26年、未完)、マティアス・シェイベルのテノール・合唱・オーケストラのための歌曲(1946-47年)などがある[49]

日本語訳

  • 伊藤整永松定辻野久憲共訳 『ユリシイズ』(全2巻、第一書房、1931-1933年) - 伊藤・永松(辻野は1937年に死去)により、戦後改訳され『ユリシーズ』(新潮社〈現代世界文学全集 第10・11巻〉、1955年)が刊行。のち新潮社『世界文学全集』(第21・22巻、1963年)にも収録された。伊藤は編著『20世紀英米文学案内.9 ジョイス』(研究社出版、1969年)と著書『ジョイス研究』(英宝社、1955年)を刊行している。
  • 森田草平龍口直太郎安藤一郎・名原廣三郎・藤田栄・村山英太郎共訳 『ユリシーズ』(全5巻、岩波文庫、1932-1935年) - 岩波文庫版は伏字が多く、1952年に伏字を起こし、三笠書房(全3巻)で再刊されている。
昭和初期に刊行されたこの2種の訳本については、川口喬一『昭和初年の「ユリシーズ」』(みすず書房、2005年)に詳しい。
  • 丸谷才一永川玲二高松雄一共訳 『ユリシーズ』(河出書房新社〈世界文学全集Ⅱ-13・14〉1964年) - 丸谷は第十四挿話を古事記万葉集から西鶴漱石などの文体で翻訳した。後に同じ訳者による改訳が刊行された(全3巻、集英社、1996-97年。全4巻、集英社ヘリテージ文庫、2003-04年)。丸谷才一の解説により、編訳書『ジェイムズ・ジョイス 現代作家論』(早川書房、1974年、新版1992年)が出されている。
  • 柳瀬尚紀訳 『ユリシーズ』(河出書房新社、1996-97年、3冊) - 既訳を痛烈に批判する柳瀬による翻訳。1-3章、4-6章、12章の3冊が単行本で刊行され、他に、11章(『新潮』2011年9月号)、7-8章(『文藝』2015年秋季号)、9-10章(『文藝』2015年冬季号』)、17章(『文藝』2016年夏季号)を公表したが、残る13-16、18の各章の訳は未発表(2016年12月現在)。柳瀬は2016年7月に死去したが、12月に『ユリシーズ1-12』(河出書房新社:12章まで)が刊行された。柳瀬には抜粋訳を含む編著『ユリシーズのダブリン』と、評伝の訳書『肖像のジェイムズ・ジョイス』(いずれも河出書房新社)、著書に『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』(岩波新書)がある。『謎を解く』では第十二挿話が犬の視点で書かれていると主張し、訳もこの解釈に従ったものになっている。。